第76話[死に場所]
魔王軍幹部のフウカは死に場所を求めていた。
同じく幹部になったスイやカエンとは違い、彼女は前幹部達を尊敬していた。
だが、魔王の血を引く魔王の娘の命令に逆らう事が出来ず、彼女達を裏切り、剰え幹部に就任する始末……。
「出来れば勇者達に敗れて死にたいが、贅沢は言えないだろう」
「私を倒せるのなら、そこらの一般兵でも構わない」
「誰か私を……」
そんな事を考えている間に、魔物の兵達から戦況報告を受ける。
前線に勇者達が現れたのだとか。
それを聞いたフウカは走った。
やっと、やっと死ねる。
それも勇者の手によって……。
前線に到着したフウカは魔物の兵に戦いを止める様に言うと、勇者に向かって剣を向けた。
「あなたが勇者か、私と一騎討ちをしてくれないか?」
「別にいいけど、あんた誰よ?」
「ああ、失礼した」
「私は魔王軍幹部のフウカだ」
幹部と言う言葉に反応する勇者だったが、フウカの言動に何処か憎めないでいた。
「でっ、私が勝ったら魔物達を連れて帰ってくれる訳?」
「いや、私は死ぬ気で貴殿と戦うつもりでいる」
「だから連れて帰るのは無理だ」
そう笑いながら答えるフウカに勇者は頭を掻きながら、何だかペンダみたいだと話す。
すると彼女は歓喜して喜び、自分がペンダの部下として働いていた事を勇者に話した。
「でも、裏切ったんだよね」
勇者の言葉に暗い表情を浮かべるフウカ。
彼女は勇者に魔王の血を引く魔王の娘に逆らう事が出来ない事を話した。
「人魚やドラゴン達の様に上級クラスの魔物なら逆らう事が出来ただろうに……」
そう嘆くフウカを見つめ、益々戦い辛くなっていく勇者。
そんな中、フウカが剣を構えた。
(仕方ない、やるか)
剣を構える勇者、魔物の兵達に見つめられながら、勇者はフウカと戦った。
勇者の一撃に耐えきれずフウカの持つ剣が折れてしまう。
「フフフ、たった一撃で……、お見事、さあその剣で私を斬って下さい」
「それでペンダが喜ぶのなら私は迷わず斬るよ」
「でも、違うんでしょ?」
「それは……」
人と魔物が共存して生きていける未来を信じて、ペンダは影に操られた魔王の指示で多くの人間達を殺してきた。
だがそんなペンダも子供を殺すのだけは躊躇っていた。
そんな優しい彼女が私の側に居たら何て言うだろうか?
生きろと言ってくれるだろうか?
涙を流すフウカに勇者が言う。
「死ぬ事を考えるんじゃ無くて、逃げて生き延びる事を考えなよ」
「魔王の血に逆らえないのなら、魔王の娘に近寄らなければいい」
「だからね、死ぬ何て言わないで」
そう言って手を差し伸べる勇者の前でフウカは槍で胸を貫かれるのだった。
第76話 完




