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第70話[乾杯]

「カンパーイ」


酒場で盛り上がるナナンナ達を他所に、スタリエは一人暗い表情を浮かべていた。

それもその筈、スタリエは魔物退治と怪我人の治療を一人で頑張っていたのだ。

楽しそうにジュースを飲むロイを見つめるスタリエ。


「コイツ本当に必要なのかしら?」


思わず心の声が漏れてしまう。


「あっ、呪うぞ」


「やってみなさいよ」

「そうしたらナナンナもアルもカミガオウも国や街も全てが終わるわよ」

「大体、あんたがこうしてジュースを飲めているのも、私のお陰でしょうが」


毎回「呪ってやるぅー」とか言って魔物達に飛び掛かり、半殺しにされて帰ってくるロイをスタリエは治療し、戦っていた。

戦闘後は、回復薬を配って回るかと思えば、直ぐに眠りにつくし、何の役にも立たない。


「まあまあ、僧侶様も落ち着いて」


「黙れカマ爺」


「へっ、カマ爺?」


「そうよ、幼女に変身したまま戦う、オカマのジジイ、略してカマ爺よ」


「いや、私はジジイと呼ばれる程、歳は取っていないのですが……」


「だったら、戦い終わったら、回復薬を配って回りなさいよ」

「何が疲れましたよ」

「何が歳には勝てませんよ」

「魔物に勝って、歳にも勝ちなさいよ」


そう一人で叫ぶスタリエ。

美味しそうな料理を口にするナナンナ達が憎らしくて仕方がない。

自分は回復薬でお腹がタポンタポンで何も食べられないというのに……。

そして、そんな生活が続いている所為か、スタリエの体に異変が起きていた。


「うっ……」


「僧侶様、どちらに?」


「五月蝿い、聞くな」


それは尿意が近くなった事。

今日だけで、十回以上はトイレに行っている。

そしてそんなスタリエの悩みは、トイレに行く夢を見て、目を覚ます事だった。

はぁ、回復薬の飲み過ぎね。

流石に戦いの最中にトイレに行きたくならないか心配だわ。


「はぁ〜あ、人手が欲しいわ」


「うぃ〜、飲み過ぎてトイレが近いぜ」


偶然にも酒場で元海賊のボスとスタリエが出会した。

忘れもしない。

海賊家業を廃業にまで追い込んだ勇者の仲間。

元海賊のボスは一気に酔いが覚め、冷や汗と同時に我慢していた尿が一気に漏れていく。


「何?」

「あんた漏らした訳?」

「汚いわね、これだから酔っぱらいは嫌なのよ」


父も良く焼肉を食べに行って酔っぱらっては帰って来ていたわ。

「レバ刺しがぁ」とか嘆いて、悪酔いしてたわね。

そういった過去を思い出しながら、元海賊のボスの足元に広がる水溜りを見て、汚物を見る様な目で海賊のボスの顔を見つめるスタリエ。

そして何処か見覚えのある様な顔でスタリエは思わず眉を顰めた。


「あんた何処かで……」


コイツ、私を覚えていないのか?

ならば……。


「すみません、失礼します」


そう言って振り返る海賊のボス。

その所為で彼女が漏らした尿の匂いがスタリエの鼻を刺激し、スタリエは思わず「臭い」と呟いた。


臭い?

あれっ、何だか前にも臭くて……。


「あっ、思い出した、あんた海賊のボスでしょ」


「人違いです、私は建築屋パイレーツのボスを務めさせて頂いている、至って普通の一般人ですよ」


建築屋パイレーツって隠す気無いでしょ。

まあいいや、これで人材確保だわ。


「話しがあるの」


「私は無いので失礼します」


そう言って逃げるボスの襟を掴み、スタリエは海賊のボスに壁ドンをする。

全くトキめか無い壁ドンにボスは恐怖する中、スタリエは笑顔で傭兵として働く気は無いかと尋ねた。


「あの傭兵を雇う程、金銭に余裕がある様には見えないのですが」


ぐっ、正論だ。

あったらこんな酒場に来てはいない。


「大丈夫、水の国、スプララートの王様に支払わせるわ」


「でも私達、あの国でお宝を盗んでいるし……」


最早、自分が海賊のボスだと白状している物だが、スタリエは気にせず交渉を続けた。


「大丈夫よ、あの国が儲けているのは私のお陰だから、言えば絶対に払うわ」


「でも……」


「いいから、私に着いて来なさい」


そう言ってスタリエは半ば強引に海賊のボスを仲間に加えるのだった。


「それで、あんた名前は?」


「はぁ、前の名前を名乗ると捕まる恐れがありますので、今はジェラートと名乗って建築関係の仕事をしています」


第70話 完

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