第59話[吸魂の水晶]
事情を知った王様は勇者とスタリエちゃんに殴られ、顔を腫らしながら私達に雪花ちゃんの復讐を頼んで来た。
「復讐を果たしてくれるのなら何でもする」
そう言って王様はマグマの国の鉱石を使い、寒さに強い鎧を作る様、鍛治職人に指示を出してくれた。
これで吸魂の水晶が手に入る。
そう思っていたのだが……。
「冷静になって考えてみれば普通、鎧着て登山する?」
私は思わずそう呟いていた。
氷の国に戻り、意気揚々と鎧に着替えたのは良いのだが、重い鎧を身に纏い、更には険しい山道を登り、私とスタリエちゃんは体力の限界を迎えていた。
「大丈夫大丈夫、私達の祖先、戦国時代を生きていた人達は皆んな山道を鎧で駆け上がっていたから」
「shit、私は日本人じゃないわ」
まあ、スタリエちゃんはそうだよね。
何処かの国のお金持ちのお嬢様だし……。
てか戦国時代の人達でも雪山を登ってはいないでしょ。
吹雪いているし……。
「言い訳何て聞きたくない」
「は?」
「私が聞きたいのは、はいかYESかだけだよ」
勇者の口にスタリエちゃんの投げた雪玉が入る。
その後もスタリエちゃんは勇者に雪玉を投げて行く中、私は馬鹿らしく思い、一人先に進むのだった。
何とか雪山の頂上にある洞窟に辿り着くと私達は螺旋状の坂を少し降り、吸魂の水晶が置かれた台座の前まで来ていた。
「これが吸魂の水晶、綺麗」
勇者がそう言って吸魂の水晶に手を伸ばす。
するとどうだろうか、勇者の魂は水晶に吸い込まれ、肉体は力無くその場で倒れてしまったではないか。
「やばい、魂が水晶に吸い込まれちゃったよ」
そう話す水晶。
どうやら水晶に魂を吸い込まれても、喋れるみたいだ。
まあ、物語りで悪い魔法使いが旅人を騙して封印を解除させた……、って話しがよくあるから、驚きはしないが……。
「ねえ日菜、このままこの水晶を割っちゃいましょうか?」
「邪魔な勇者さえ居なくなれば日菜は私の物に……」
スタリエちゃんのこの発言には流石に驚いてしまう。
「は?」
「何言ってるの?」
「日菜ちゃん、そんな事しないよね?」
「当たり前だよ」
「スタリエちゃんもヤンデレみたいな事を言って無いで、一度山を降りよ」
「まあさっきの発言は冗談にしても、どうやって帰るの?」
そう言うとスタリエちゃんは鎧を着た勇者を誰がどの様にして運ぶのか尋ねてきた。
「大丈夫だよ」
「鎧を外して運べば勇者は重く無いよ」
「ありがとう日菜ちゃん、重いは乙女の敵だからね」
「そうだよね」
勇者と会話をし、笑い合う私にスタリエちゃんは的確なツッコミを入れて来た。
「いや、凍死するでしょ」
「何の為にマグマの国まで行って来たのよ」
「それを踏まえてハッキリ答えて頂戴」
「誰が、どの様にして、どうやって勇者を運ぶの?」
私はスタリエちゃんの問いに答えられ無いでいた。
「日菜ちゃん、まさか私を置いて行ったりはしないよね?」
「……」
「日菜ちゃん⁉︎」
「……」
「早く答えてよ日菜ちゃん」
第59話 完




