第55話[撤退]
ギルドギギア国の進軍がブランガガル王国に迫って来ている事を知らされ、アーネは大臣達に避難する様に言われていた。
「私は逃げません」
「この剣に誓い、私も皆さんと共に戦う所存です」
かつて父親を殺した小さな剣を手に立ち上がるアーネだったが、内心穏やかでは無かった。
何故、ギルドギギア国に魔物の兵がいる?
ギルドギギアの話しは本当だったのか……。
だとすると勇者様達は一体、何をお考えなのか?
答えの出ない問題がアーネの頭をぐるぐると駆け巡る中、レイナはアーネの両肩を強く握る。
「アーちゃん、しっかりして、緑達がこんな事をする訳無いだろ」
アーちゃんとは長い付き合いだ。
アーちゃんが何を考えているのか分かる。
そう思い、力強い目で答えてあげるレイナを見て、サーベリックも自分の考えをアーネに述べた。
「勇者達がペンダを処刑する何て考えにくい、きっと勇者達に何かあったんじゃ」
「じゃからアーちゃん、勇者達の為にもこの戦いに勝とう」
「勇者達が助けを求めて来た時の為に国を残すんだ」
力強く頷くアーネを見て、レイナは更なる武器作りに取り掛かり、サーベリックは戦闘に役立つ錬金術の道具を開発し始めた。
その甲斐もあって、戦況を立て直す事が出来たのだが、影の更なる魔物の兵の導入に寄り、再び戦況が悪化するのだった。
「どうなっているの?」
魔物の兵とブランガガル国の戦いを崖の上から眺める勇者がボソリと呟いた。
「兎に角助けないと」
崖から降りると勇者と日菜は魔物達の兵を倒して行く。
そんな中、スタリエは緑をおぶり、ブランガガル王国に向かって走る。
「勇者様だ」
「勇者様が助けに来て下さった」
勇者の加勢にブランガガル王国の兵士達が沸き立つ。
勇者は魔物の兵の攻撃を交わすと一体、また一体と斬り裂き、魔物達の返り血を浴びていく。
「漆黒の炎よ全てを焼き払え」
日菜の魔法により、魔物達の兵は一瞬で焼き尽くされてしまう。
「凄い、千は燃えたんじゃないか」
勇者と日菜が戦闘に加わったお陰で戦況は一変してギルドギギア国が劣勢に陥ってしまう。
それを知った影は魔物の兵を下げる様に魔物達に指示を出した。
「そんな影様、今ここで兵を下げられては我が国が滅んでしまいます」
「そんなの知らないわ」
「勇者達が来た時点でもう結果が出ているの」
「魔物の兵を無駄に消耗する訳にもいかないでしょ」
「ふざけるな、私はそなたの話しを聞いて力を貸したのじゃぞ」
「それを今更……」
「五月蝿い」
魔王の娘がそう叫ぶとギルドギギアの王の頭を捻り潰した。
「それで影様、勇者達はこのまま見逃すと?」
「ええ、勇者にはこの世界が地獄に変わるまで生きて貰わないといけないからね」
それにこのまま勇者達を生かして置いたらどうなるかも知りたい。
彼女達が私を倒すまで強くなったのなら、それはそれで運命何だと受け入れましょう。
但し、どんなに努力しても私を倒せなかったのなら、それは彼女達の運命。
女神の祝福を受けた四人ですら、私に敵わないとなると……、想像しただけで興奮するわ。
「次の国に行く前に一度魔王城に戻りましょう」
「丁度、魔王軍幹部達と魔王の力の一部が摘出できた頃よ」
「その薬を飲めば、あなたは更に強くなれるわ」
「あなたも何時迄も魔王の絞り出した痰のままでは嫌でしょ?」
こうして影は魔王の娘を連れて魔王城へ帰還するのだった。
第55話 完




