第52話[女神に選ばれた四人]
勇者は一人、森の中で声を出して泣いていた。
あの時、影を殺せるチャンスはあった。
だけどそれは同時にララを殺す事になる。
だが、影を殺さなかった結果がコレだ。
魔王軍幹部は殺され、これから大勢の人達が犠牲になるだろう。
奴は私にこの世界を地獄に変えると言ったのだから。
「もうどうすれば良いのか分からないよ……」
「お願い女神様、私にどうすれば良いのか教えてよ」
今の私では影に勝てない。
あれだけレベルを上げたのに、龍玉の力を手に入れ、更には伝説の剣まで手にしたというのに……。
私は魔王に一瞬で負けてしまった。
そんな魔王より、影が強い何て、もうどうする事も出来ないよ。
「お願いだから教えてよ」
「良かろう、私が教えてしんぜよう」
茂みから日菜が現れる。
「日菜ちゃん、ごめん……、今は冗談に付き合う気にはなれないんだ」
「冗談何かじゃ無いよ」
「私がどうすれば良いのか教えてあげる」
「そう、だったら教えてよ」
「どうすれば良いのか私に教えてよ」
「影を倒せば良いんだよ」
日菜の言葉に勇者は怒りを露わにする。
「それが出来れば悩んで何かいないよ」
「いい加減な事を言わないで」
「いい加減じゃ無い」
「いい加減じゃ無いよ」
「だったらそんな事、言える訳無いじゃない」
影は自分より遥かに強い。
簡単に倒そうだ何て口が裂けても言える訳が無い。
それなのに日菜は簡単にそう言った。
それが勇者には許せなかったのだ。
「ねえ、どうして一人で戦おうとするの?」
「私達は仲間でしょ、勇者一人が戦う訳じゃ無いでしょ」
日菜の瞳に涙が溜まる。
「そうよ、日菜の言う通りだわ」
「私も影を倒すつもりでいるわ」
「私もです」
そう言って、茂みからスタリエと緑が現れた。
「無駄だよ」
「今の私達が束になっても勝てっこないよ」
「もう、緑ちゃんの力も借りる事が出来ないんだから」
「だったら勇者は諦めるの?」
「何もしないでこの世界が地獄に変わるのを黙ってみてるの?」
「それは……」
どこまでも弱気な勇者の顔を日菜は両手でガシッと掴む。
「あの時、ララちゃんを殺さなかった事、後悔しているんでしょ?」
「でもね、勇者の選んだ道は間違って無いよ」
「私達が間違いにさせないから」
「日菜ちゃん……」
そうあの時、影を殺さなかったのは間違いでは無い。
黒騎士も言っていた様に日菜達はララを救うチャンスを得たのだ。
「だから勇者も下を向かないで前を向いて」
「ララちゃんを救って影にドヤ顔で、ざまあみろって言ってやろうよ」
「でも……、出来るかな……、私達にそれが……」
「出来るに決まってんじゃない」
「私達は女神に選ばれた人間よ」
「あんな奴に負ける訳無いでしょ」
「スタリエ殿って言う程活躍してましたっけ?」
「あんた今すぐ、背中から落とすわよ」
二人のやり取りを見て日菜が笑う。
そして日菜は勇者の手を握り、力強い眼差しで勇者を見つめ、こう言った。
「お願い、私達と一緒に戦って百合ちゃん」
「私の名前……、うん、分かったよ日菜ちゃん」
第52話 完




