第50話[森での再開]
大きな欠伸をし、森を歩くアル。
ここ最近、生活のリズムが完全に狂ってしまった。
この森を安住の地に決めてから、家を建てたりと大忙し、その所為で疲労が溜まり、夕方から爆睡してしまい夜は眠れなくなっていた。
「何だろうなぁ〜、夕方が近づくと眠くなってしまう」
カミガオウとの森の探索を済ませたら寝よう。
そう強く思っていると、カミガオウが倒れている人間の匂いを嗅ぎ始めた。
うつ伏せで倒れていて、顔が見えない。
森での遭難者か?
だとしたら、団長に報告して助けてやらないとな。
そう思い近づいてみると、一人は右手と右足が無い事に気づく。
「なっ、大変だ」
「早く団長に知らせないと」
アルは急いで怪我人を抱き起こし、そこでその人物が緑だと初めて知った。
「なっ、て事はあそこに倒れているのは日菜達か?」
カミガオウの背中に三人を乗せ、アルは残りの一人をおぶると団長の所へ走った。
アルの話しを聞いて、魔物達の団の団長ミカナタは新居に日菜達を寝かせる様に指示を出すと、マルカに日菜達の看病をする様に頼む。
「団長、いいの?」
「日菜さん達が心配なんだろ?」
「私達は傷に効く薬草と木の実でも取って来るから看病、頼んだよ」
「うん」
こうしてマルカを除いた団員達が薬草と木の実を採りに出かけた。
そして数十分後、勇者が目を覚ます。
「寝てないと駄目」
そんなマルカの忠告を無視して、勇者は家の外に出て行った。
影に刺された傷口は完全に塞がっている。
これが勇者の力なのか、それとも魔物達の団の治療のお陰なのかは分からない。
ただ言える事は、勇者の心が苦しいって事だけだ。
まるで心を鋭利な刃物で切り裂いたかの様に苦しく、勇者は苦痛の表情を浮かべていた。
後から目覚めた日菜達が勇者の後を追い現れる。
だが、日菜もスタリエもスタリエにおんぶされている緑も、勇者に何て声をかけていいのか分からない。
そんな時だった。
上空から巨大なモニターが映し出され、そこには魔王軍幹部達が磔にされている姿が映し出されていた。
その映像から流れる残酷な殺戮ショー。
ガチュミは氷漬けにされたまま砕かれ、雪花は弱火で溶かされて行く。
そんな映像を見て、勇者は一人、何処かへ走り去るのだった。
第50話 完




