第40話[女神の呪い]
スタリエは緑に駆け寄り回復魔法をかける。
その間、日菜は地面を這いつくばってでも緑の側に向かっていた。
絶対に緑ちゃんを死なせない。
魔王が死んだ今でも、魔王の魔力が日菜の体を攻撃している。
それらを我慢しながら日菜は緑の左手を握った。
冷たい緑の体、そしてスタリエは涙を流しながら叫ぶ。
「駄目、傷口が塞がらない」
このままじゃ確実に緑が死んでしまう。
そう思い、涙を流すスタリエの隣で日菜は口の中に溜まった血を利用し、サーベリックに作って貰った薬を飲んだ。
お願い神様、女神様。
私の一生分の運を使い切っても良い。
この先、不幸続きでも良いから、だから緑ちゃんを……。
「たす……け……てよ」
日菜の思いが通じたのか、緑の体の傷口が塞いでいき、体の体温も戻り、肌の色も良くなっていく。
「やった、日菜やったわよ」
そのまま緑に回復魔法をかけ続けるスタリエ。
やがて緑は目を覚まし、そして……。
「スタリエ殿、危ない」
スタリエの背中にナイフが突き刺さった。
「凄い、素晴らしいわ」
「女神の呪いを錬金術師が解いたと言うの?」
「フフフ、アハハハ、本当に凄い」
ポタポタとナイフからスタリエの血が床に落ちて行く。
そんな中、ナイフを手にしたララが声をあげて笑っていた。
「ララちゃん、何で?」
幸運モードのせいか、日菜の体も良くなっている。
そんな日菜を見つめながら、ララが日菜の質問に答えた。
「今の私はララじゃない」
「そうね、あなた達も良く知っている影よ」
「そんな……、何を言って……」
信じられない日菜の前でララの姿が変わる。
見た事もない少女の姿になり、影はこれが私の本体だと日菜達に告げた。
「じゃあ、私が殺したのって……」
「私に操られた人間よ」
日菜の瞳から涙が溢れ、人を殺してしまった罪悪感が日菜の心を苦しめる。
そんな日菜に影は更なる追い討ちをかけた。
「さぞ苦しかったでしょうね」
「気付いたら火だるまになっていたんだもの」
「助けて何て言っちゃって、ララの中で大爆笑してたわ」
「貴様……」
右手右足を失った緑が影を睨み、地面を這いつくばる。
そんな緑の姿を見て、影は鼻で笑った。
「どいつもコイツも地べたをベタベタと、まるでムツゴロウみたいね」
そう言うと影は這いつくばる緑の頭を踏む。
「私に踏まれて嬉しいでしょう?」
「ほらっ、ありがとうございますはどうしたの?」
「くっ、日菜殿に謝れ」
緑のその言葉を聞いて更に影は笑う。
「泣き崩れて謝罪なんて聞ける状況じゃないじゃない」
「フフフ、それにしても女神の呪いを解いた日菜の幸運、だけど私という最悪からは逃れられなかったようね」
「ああ、そう思うと何だか興奮するわ」
一人踊る影。
日菜もスタリエも緑も勇者も負傷している。
そんな絶望的な中で、勇者は剣を握り立ち上がった。
第40話 完




