第37話[罪悪感]
前に出て来る日菜を見つめ、影は不敵に笑う。
自分の氷魔法に対し、日菜の火の魔法とは相性が悪い。
だけど影が扱える魔法は何も氷だけじゃ無かった。
「残念だけど、すぐに交代する事になるわよ」
影はそう言うと指を鳴らし、周りに水の玉を数個作り出し、浮かせる。
「勢いに乗った水は凶器となり、どんな者でも貫き破壊する」
「あなたに私の攻撃を避ける事ができて?」
そう言い放ち影は浮かせていた水の玉を猛スピードで日菜めがけ投げつける。
そんな中、日菜は杖を地面に叩き、炎の玉を作り出し、迫り来る水の塊めがけ、それらを投げかけて水を蒸発させていった。
「残念だけど、私の炎は水をも蒸発させる」
「燃え盛る炎の前では少量の水も無意味でしょ?」
影の魔法を物ともしない日菜を前にし、勇者達は日菜に黄色い声援を送る。
「日菜ちゃん、カッコいい」
「愛しているわ日菜」
「流石、日菜殿です」
「日菜さんの魔法は本当に勉強になります」
ドヤ顔の日菜を前にして、影は仮面の下で眉間にシワを寄せ、日菜を睨んでいた。
「己くそメガネ」
そう言うと影は自分に出来る範囲の水魔法を複数放ち、日菜に攻撃するが、全く歯が立たなかった。
魔法使いの格を知った影は恐怖から数歩後ずさる。
「魔法勝負なら私は誰にも負けない」
「漆黒の黒き炎、今此処に全てを焼き尽くせ」
影の体が黒い炎に包まれる。
出来るだけ一瞬にして影を焼き殺すつもりだった。
だが、影は中々死なず、悲痛な叫びと苦しみもがく姿を見て、日菜は思わず視線を逸らしてしまう。
人体が燃える匂い、それが皆んなの鼻を刺激し、耳には「熱い」と言う影の言葉が残る。
「た……すけ……」
差し出された影の手、そして影の体はドロドロに溶けて行った。
そんな影を前にして、日菜は体を震わせた。
勇者ばかりにやらせてはいけないと思い、影を殺した日菜だったが、想像以上に罪悪感が残り、日菜の心を苦しめる。
「日菜ちゃ……」
駆け寄る勇者に日菜は弱々しく笑顔を向け「先に進もう」と言う。
誰もそれ以上、何も言わずに進む事に……。
人を殺すという事はどんな悪人でも辛い事なのだと、この時、日菜は思い知ったのだった。
第37話 完




