第35話[後は私が……]
勇者の手が震えていた。
甘かった。
私は影の事を甘く見ていたのだ。
過去にペンダが忠告していたじゃないか。
影は仲間同士、同士討ちをさせる事が出来ると。
あの時、私は「だから何?」と言い、「必ず倒して見せる」と偉そうな事を言っていたけど……。
「これじゃ、倒せないよ」
勇者は手に持っていた剣を地面に落とす。
両手で顔を覆い、日菜を傷つけてしまった事にショックを受け、勇者は涙を流した。
「私なら大丈夫だから勇者、影を倒して」
無理だよ日菜ちゃん。
また誰かを傷つけるかもと思ったら、私は怖くて剣も握る事が出来ない。
そう考えるのは勇者だけでは無かった。
緑もスタリエもララも、下手に動く事が出来ないどいた。
そんな絶望的な中で、スタリエのペンダントが光る。
「スタリエ様、私の力をお使い下さい」
「私の力を使い、奴のこの空間を打ち破るのです」
「打ち破るって具体的にどうする気よ」
「私と視覚を共有するのです」
「私の目なら、どんな幻影や空間でも真実を見る事が出来ます」
「くっ、簡単に言わないでよ」
影の作り出したこの空間で、それが百パーセント通じる何て保証はない。
失敗すれば、また誰かが傷つく。
そんな状況で神獣の言葉だけを信じ、試す勇気はスタリエには無かった。
「どちらにせよ、このままじゃ皆んな影に殺されてしまいますよ」
「そんな事、分かっているわよ」
スタリエは決心し、神獣と視覚を共有させた。
確かに影の姿は見えている。
だけど、アレは本物なの?
スタリエは震える手で鞭を振るった。
影の悲鳴が辺りに響き渡る。
ローブの布が裂け、血で赤く滲んだ影の肌が露わになる。
「くそっ、油断したわ」
痛む右肩を抑え、影がそう呟いた。
辺りを包む霧が消え、勇者は剣を手にし、そして……。
「ありがとうスタリエちゃん、後は私が……」
「ええ、しっかり影を倒すのよ」
勇者は力強く頷き、跪く影めがけ剣を振り下ろしたのだった。
第35話 完




