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第31話[居場所]

魔王城の扉の前に日菜達は居た。

勇者は左右に居る仲間達の顔を見て、頷きながら

魔王城の入り口の扉を開ける。

そして進む事、数分。

一階の大きなフロアにペンダが一人立っていた。


「待っていたぜ勇者」


腕を組みながらそう話すペンダを前に勇者は武器を日菜に手渡した。


「何のつもりだ?」


「それはこっちの台詞だよ」

「ペンダだって丸腰じゃない」


「分かってないな」

「私は魔物だぜ、鋭い爪もある」


「でも使わないんでしょ?」


何となく分かる。

ペンダはこの戦いに刃物は使わないつもりだ。

短い間だが、ペンダと一緒に旅をしてキャバクラに通った仲、ペンダがそういう奴だと理解していた。

そして勇者はペンダの前で拳を構えた。


「私だってアレから強くなったんだ」

「ペンダが素手で戦うつもりなら、私も素手で戦うよ」


「ケッ、言うじゃねーか」


そう言ってペンダは勇者目掛け拳を振りかざした。

それを避けようともせず、勇者はペンダの攻撃を受け、そして拳を振り上げた。


「殴り合いか、受けてたつぜ」


両者、足に力を入れて互いの攻撃を受けては反撃を繰り返す。

殴られれば殴られる程、ペンダは興奮し、拳に力が入っていく。


「最高だぜ、こんなに胸が昂る戦いは初めてだ」


「胸が昂り過ぎて血管を詰まらせて死なないでよ」


そんな事を言いながら勇者は笑う。

そして更に殴り合いは続く。


「どうした?」

「私はまだまだイケるぜ」


「冗談でしょ?」

「足が震えてんじゃん」


互いの顔は腫れ、口や鼻から血が流れている。

そしてお互い息を切らしながら、最後の一撃を決める。


勇者とペンダのクロスカウンター。

互いの渾身の一撃を受け、倒れたのはペンダの方だった。


(嘘だろ、勇者とはいえ人間に……、それも殴り合いで負ける何て……)


意識はあるが、体は動かない。

立ち上がろうにも、体はその命令を拒否してしまう。

そんなペンダを前に勇者は拳を天に掲げ、雄叫びを上げた。


「私がこの世界でのドMチャンピオンだぁー」


何言ってんの?

日菜達がそう思う中、勇者はペンダに手を差し伸べた。


「悪いけど、私達は魔王を倒すよ」

「先に進んでも良いかな?」


「負けておいて言うのも何だが、止めておけ」

「この程度の力じゃ魔王に簡単に殺されちまう」


「大丈夫、私達には秘策があるし、伝説の剣もある」

「必ず魔王を倒してみせるよ」


正直不安な所はあった。

だけど拳一つで自分を倒した勇者の実力を認め、ペンダは勇者達が二階のフロアに行く事を許可した。

日菜から手渡された回復薬を飲みながら勇者と仲間達は二階に向かう。

そんな中、日菜はペンダにも回復薬を手渡していた。


「ごめんね」

「私達はあなたの居場所を奪おうとしている」


悲しそうな表情を浮かべる日菜の頭を撫で、ペンダは日菜にこう言った。


「行けよ」

「死ぬんじゃないぞ」


日菜は頷き、勇者達の後を追いかけ去って行く。

誰も居なくなった一階のフロアで一人、ペンダは魔王城での過去の楽しい思い出を振り返りながら、涙を流していた。


「居場所か……、今の私にそんなもんねぇーよ」


第31話 完

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