第25話[サライヤと黒騎士]
兵が大分集まった頃、魔王城に見知らぬ魔物が住み着いていた。
名前はサライヤ。
人間界で退屈していた時に魔王の僕が兵を募っている話しを聞きつけ、この城に来たらしい。
特に追い返す事もせずに、僕は彼女を放置した。
するとどうだろうか、ガチュミや雪花と仲良くなり、更には一部の兵をまとめ上げたではないか。
「聞きましたよ」
「魔王様は人と魔物が共存する世界を作りたいとか、是非私にも手伝わせてください」
「君も人と共存して生きていたいのかい?」
「はい、だってその方が楽しいじゃないですか」
人は様々な娯楽を考え出している。
中でもサライヤはカジノに興味がある様だった。
正直、カジノについてはよく分からない。
どういった場所なのかも分からない。
只、鬼ごっこや隠れん坊は楽しかった記憶がある。
なるほど、僕達魔物はそういった事を思い付かない生き物なのか。
確かに人間と共に暮らさなければ、ああいった遊びはして来なかっただろう。
魔物が考える娯楽か……。
殺し合い位しか思い浮かばないな。
フフフ、確かに人間が考える娯楽は大切な事なのかも知れない。
そして月日が経ち、僕達は僕の村を滅ぼした国を攻める事にした。
サライヤが先に行き、王様を堕落させ内側から崩壊させていく。
貧困に陥った国民や兵士達。
もはや彼らに戦う力は残っていないだろう。
その隙に僕達が攻め入り、国内全ての人間を皆殺しにしていく。
生き残りが居れば必ず復讐しに来る。
この僕の様に……。
だから皆殺しにするんだ。
誰一人として生かしてはいけない。
「助けてくれ」
「頼む、死にたくないんじゃ」
必死に命乞いをする国王の頭を僕は捻り潰した。
人間の血で赤く染まった手。
復讐できた喜びよりも罪悪感の方が強かった。
それでも僕は前に進まなければいけない。
人間と魔物、その二つが共に生きて行く為に……。
「全てを見て回ろう」
「まだ生き残りがいるかも知れない」
そう思って国中を見て回る。
そして町外れの古びた教会で僕は一人の赤ん坊と出会った。
籠の中には一通の手紙が入っている。
それを拾い、読んでみるとそこには貧困で赤ん坊を育てられなくなった事が書かれていた。
もう食べ物も飲み水も買うお金が無くなった事、この先自分達の命も危うい事、そしてそうなった場合、誰もこの子の面倒を見る人がいない事、それらを読んで僕の心は締め付けられる。
僕のせいだ。
僕がサライヤに頼んだせいでこんな……。
ふと赤ん坊が泣いた。
僕はその子を抱き上げて、泣き止むまであやした。
「ごめんね」
「僕のせいで……」
そんな僕の鼻を撫でて彼女が笑う。
皆殺しにしろと命令しておきながら、僕は彼女を殺せずにいた。
それどころか、彼女を育てようとすら考えている。
「あっ、魔王様こんな所に居た」
「んっ、何ですその子?」
「サライヤか、そこの教会に捨てられていたんだ」
「ああ、今日でしたもんね」
「古びた教会のお掃除」
「街の教会の前に捨てると奴隷商に売られる恐れがありますからね」
なるほど、人拐いを恐れ今日神父が来るのを狙って捨てたのか。
「どうします?」
「その子育てます?」
「ああ、出来れば私の手で育てたいと思っている」
「でも、皆んなに皆殺しにと言った手前……」
「何言ってるんですか、そんなの気にしませんよ」
「何たって皆んな魔王様が好きで共にしているんですから」
サライヤはそう言って茂みを見る。
すると中からガチュミと雪花が現れた。
「さあ魔王様、その子と一緒に我が家へ帰るぞ」
「わあ、可愛い赤ちゃん」
「でも私が触っても大丈夫かな?」
戸惑う雪花の頭を撫で、僕は雪花に赤ん坊を抱かせてあげる。
本当に良い仲間を持ったよ。
そう心の中で呟き、僕は空を見上げ村の仲間達を思い浮かべていた。
第25話 完




