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第20話[光の巫女]

これはエルエレド王国が崩壊する十数年前の話し。

王とお妃の間に一人の女の子が誕生した。

産まれたばかりのその子には光る魔力が備わっていて、彼女が光の巫女だという事は直ぐに分かった。

だが、それは決して喜ばしいものではなかった。


「我が娘を頼んだ」


「はい王様、私の命にかけてもこの子を守り抜きます」


名のある兵士と信頼のできる侍女に子供を預け、王様は国民達に子供は死産したと告げた。

こうする事で王族だと知られず、魔物が襲ってきても彼女の命が狙われる事はない。

それから年月が経ち、エルエレド王国は魔物達に襲われる事になる。


「言う事を聞きなさいシャーナ」

「お前は母さんと一緒に地下道を通り、逃げるんだ」


「嫌です」

「まだ皆んなが避難していないのに私達だけ逃げる何て嫌」


「くっ……、いいかよく聞けシャーナ」

「お前は大切な使命を持って産まれたお方だ」


そう言うと代理の父アスケントはシャーナに事実を告げた。

いきなり自分が王族や光の巫女だと言われても彼女は直ぐに信じる事ができなかった。


「嘘よ……、嘘」


「本当よシャーナ」


「お母様……」


自分が王族だった喜びよりも、二人の子供じゃ無かった事の方がショックでシャーナは涙を流し悲しんだ。


「私、二人の子供じゃ無かったのね」


母に抱きつき涙を流すシャーナ。

そんなシャーナを代理母のステネアが抱きしめた。


「血の繋がりは無くても貴方は私達の子よ」


「ああ、シャーナという名前は私達がつけたんだ」


目を閉じれば直ぐにでも思い出す事ができる。

夜泣きするこの子をあやしながら、夜通しステネアと話し合い名前を決めた事を……。


「だからお願いだシャーナ、生きてくれ」

「生きてこの世界を救ってくれ」


もし私が本当に光の巫女で生き残る事でこの世界を救えるのなら……。

シャーナは覚悟を決め、己の使命と向き合う覚悟を決める。


「俺は此処に残り、出来るだけ住民を避難させる」


「お父様、どうかご無事で」


シャーナはそう言うと父アスケントの頬にキスをした。

そして妻のステネアも娘と同様にアスケントの頬にキスをする。

二人が家の地下通路に入るのを見送るとアスケントは身支度を済ませ外に出た。


「オラっ、化け物共オレが相手してやるよ」


この十数年、本当に幸せだった。

戦う事しか能がないオレが手に入れた幸せ。

妻のステネアとは形だけで本当の意味では婚約は結んでいない。

娘のシャーナとも血は繋がっていない。

だけど、オレ達は本当の家族にも負けない家族だった。


「さあ、逃げて」

「オレの家に秘密の地下通路がある」

「そこを通って逃げるんだ」


この戦いが終わったら、ステネアに想いを告げよう。

そして指輪をプレゼントするんだ。

本当の家族になる為に……。


「チッ、大勢で責めて来やがったか」


自然と涙が溢れてくる。

こんな戦いの場に涙何て視界が歪む物、邪魔でしかない。

昔のオレならあり得ない事だ。

だけど、この涙が今は愛おしい。


「此処までか……」


死ぬのが分かっていて、それでも死にたくないから……。

ステネアとシャーナの二人の側に居たいから、だから涙が出てくるんだ。

二人を愛しているから。

だからこそ、この涙は愛の証であり、それが堪らなく嬉しい。


「どうした、この程度かよ」

「そんなんじゃ、俺の首は……」


刹那、アスケントの視界が回る。

何が起きたのか理解ができない。

そんな中、自分の体が血を吹き出している姿を見て、ようやく、現場を理解した。

ああ、首を刎ねられたのか。

馬を走らせ小さくなっていく黒い鎧を着た騎士。

その騎士の持つ剣には血がついてあった。

奴にやられたのか。

黒騎士が真っ直ぐお城に向かって行くのを眺めながらアスケントは王の無事を願った。


(俺に家族を与えて下さった王に感謝します)

(どうか、ご無事で……)


ゆっくりと目を瞑り、アスケントはこの世から去っていく。


第20話 完

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