第19話[崩壊したエルエレド]
エルエレド王国。
本来なら城下町では人が溢れかえ、露店などが並び、日中には音楽が鳴り、賑わっているのだが……。
「何よコレ」
家は崩れ、露店は焼き払われており、道行く人の影もない。
誰一人居ないこの街を見て、日菜達は絶句していた。
「これは……」
ほぼ白骨化した遺体。
道を歩けばそこら辺に何体もあった。
「とりあえずお城に行くわよ」
スタリエの言葉に一同は頷き進んで行く。
城内もあちこち壊れ、それを見たドラゴン族のお姫様は自分の国と重ね、心を痛めていた。
それに気付き、勇者がお姫様の手を握る。
「勇者様……」
「無理しないで、辛かったら何処かで休んでていいからね」
「いえ、大丈夫です」
しばらく城内を探索し、日菜達はベランダへ出た。
城下町を見渡しながら、スタリエは僧侶として祈りを捧げる。
街や国の人達が安らかに眠れる様に、そう強く念じながら祈りを捧げていく。
「私達も祈ろうか」
日菜はそう言うとスタリエの隣に座った。
日菜に続き勇者、緑、ララにお姫様。
皆んなが座り祈りを捧げていく。
スタリエの様に僧侶として魂の浄化が出来る訳では無いが、それでも日菜達はこの国の人達の為、何かをしてあげたかったのだ。
そして、そんな日菜達の背後にエルエレド王国の兵士が現れる。
「あっ、ああ……、勇者様ですか?」
滅びたと思っていたこの国に人がいる事に驚きながらも日菜達は兵士に駆け寄り、この国で何が起きたのかを尋ねた。
「申し訳ありません」
「移動しながら話してもいいですか?」
そう言うと兵士は日菜達を連れ、説明しながら歩いた。
エルエレド王国には国王より優先的に守らないといけない命がある。
それは光の巫女の命。
そしてその命を守る為に、エルエレド王国の国王は犠牲となったのだ。
「陛下、どうか陛下もご一緒に」
「ならぬ、我が逃げれば奴らは我を捜し地下の秘密の通路を見つけてしまう」
「ですが……」
国王は笑う。
「何、ワシはこれまで五十年余り後悔せずに生きてきた」
「この世に未練など何も無い」
「寧ろ、此処で逃げ出してしまい光の巫女様を危険な目に合わせる事の方がよっぽど恐ろしいわい」
そう言うと国王は戦いの準備をする。
「光の巫女様をよろしく頼む」
こうして国王は黒騎士に戦いを挑み負けた。
自らが死ぬ事で黒騎士から光の巫女を守ったのだ。
「光の巫女様、城下町の民は助かりました」
「ですが……」
お妃様とお姫様も死んでしまった。
二人もまた自らの意思で光の巫女を守ったのだ。
自分達の犠牲で世界を守れると信じて……。
「そんな……」
その話しを聞いて暗い表情を浮かべる日菜達。
そんな日菜達に兵士は言う。
「でもこうして勇者様達と会えました」
それに王族の血筋は絶えていない。
光の巫女は国王とお妃様の娘なのだ。
だが、この事は他言無用。
光の巫女も知らぬ事実。
その為、兵士は勇者達にもその事を話さずに光の巫女達が居る地下へ勇者達を案内した。
第19話 完




