第8話[良かった]
お姫様から勇者が危ないと聞いて、私は走っていた。
螺旋状の坂道を走って登るがまだ先は見えない。
肺が痛い。
足も辛い。
それでも私は休む事無く、走り続けていた。
(もし、死んだりしたら絶対に許さないから)
そう思っていると、急激な悪寒に襲われ私は立ち止まってしまった。
息を切らしながら両膝を地面に着けて、私は体を震わせた。
何よコレ。
上で一体何が起きているのよ。
強力な魔力の気配が消えて、私は額に冷や汗を滲ませながら立ち上がった。
嫌な予感がする。
魔力の気配が消えたって事は、もう戦わなくていいって事だよね?
それってつまり……。
流石にあれ程の魔力の持ち主相手に勇者が勝てるとは思えない。
だとしたら、勇者はもう……。
今まで勇者に色々な事をされた。
ムカつく事も多かったし、セクハラされた事も多かった。
だけど、一緒に旅をして来て楽しかった事もあったし、皆んなで笑いあった事もあった。
勇者は私の……、私達の大切な仲間だ。
その勇者がもう……。
「魔法使い様、泣いているのですか?」
後から追いかけて来たお姫様がそう尋ねて来る。
「だって勇者が……」
「大丈夫です」
「勇者様は私と約束してくれました」
「絶対に死なないと、ですから魔法使い様、落ち込まないで下さい」
そう言うとお姫様は私を抱え、頂上目指して空を飛んで行く。
あっという間に頂上へ着き、私とお姫様はそのままお城を目指した。
そして私は絶句する。
玉座の前で勇者と緑ちゃんが倒れているからだ。
「間に合わなかった……」
「いや日菜ちゃん、勝手に殺さないでよ」
そう言って起き上がる勇者。
そんな勇者をお姫様が抱きしめた。
「勇者様、無事だと信じてました」
鼻の下を伸ばす勇者を見て、私は安堵していた。
良かった、本当に良かった
疲れがドッと押し寄せ、私はその場に座り込み体を休ませる。
「ところで緑ちゃん、どうやって此処に?」
「えっと、崖を登りまして……」
あっ、やっぱり登ってたんだ。
全く、無茶して。
「それより日菜ちゃん、緑ちゃん凄かったんだよ」
そう言って勇者は緑ちゃんの事や魔王が現れた事、そしてもっと強くならなければいけない事を私に話してくれた。
一方スタリエ達は……。
「あのドラゴンのお姫様、私達を置いて自分だけ飛んで行っちゃう何て……」
「まあまあ、もう少しですよ」
「もう少しって、全然先が見えないじゃない」
今も尚、必死に坂を登っていた。
第8話 完




