第7話[本当に良かったです]
刀を黒騎士に向け戦闘態勢に入る緑を前にして、黒騎士は笑っていた。
「緑、会いたかったぜ」
勇者をも圧倒した今の私なら、コイツにだって勝てる筈。
ククク、私は本当にツイている。
憎き人間、二人に復讐ができるのだからな。
大剣を振り上げ、緑めがけ突っ込んで来る黒騎士を前に、緑は一度刀を鞘へ納めた。
そして、黒騎士が大剣を振り下ろすタイミングを見計らい緑は刀を抜刀した。
甲高い金属音と共に大剣の刃は宙を舞い、そしてお城の床に突き刺さる。
「なっ……、そんな馬鹿な……」
「言った筈です」
「私はこの世界で最強だと」
(まあ、ステータスだけが何ですけどね)
「ふ……、ふざけるなぁ」
「貴様如きが最強を語るな」
「この世界で一番強いのはお父さん……、魔王様だけなんだ」
怒りに任せて拳を振り上げるが緑には黒騎士の攻撃が当たらない。
どんなに殴っても交わされてしまう。
「ふざけてるのはどっちよ」
勇者が剣を手に持ち立ち上がった。
「ありがとう緑ちゃん、武器を失ったコイツなら今の私でも勝てそうだよ」
「情け無い話しだけどね」
「いえ、私の方こそすみません」
「勇者殿ばかり罪を背負わせてしまい……」
俯き悲しい表情を見せる緑の頭を勇者は優しく撫でた。
「何言ってんの、緑ちゃんはそこが良いんじゃない」
「誰も傷つけた事の無い優しい手、私は大好きだよ」
そう笑顔を向けて、勇者は剣を強く握った。
「舐めるなよ」
「お前何か、武器が無くても簡単に倒せる」
体術だけで勇者に挑もうとする黒騎士を誰かが止める。
「止せ我が娘よ」
上空にドス黒い雲が現れ、そこから魔王が姿を見せた。
あまりの魔力の量に勇者や洞窟に居た日菜達でさえ、悪寒がし背筋が凍る様な冷たさに襲われる。
だが、緑だけが魔王を見ても動じる事は無かった。
「コレが魔王ですか」
(勇者殿の様子を見るにかなり強いのでしょうが……)
私なら渡り合える。
今はまだ勝て無くてもいい。
大切で大好きな皆んなを守る事が出来ればそれで……。
刀を握り、魔王に向ける緑だったが……。
「さあ、黒騎士よ」
「こっちにおいで」
魔王は黒騎士を抱きしめると、大人しく魔王城へと帰っていった。
緊張感から解き放たれた緑は安堵して、大量の涙を流し大泣きする。
「良かったです」
「間に合って本当に良かったです」
「ありがとう緑ちゃん」
「お陰で助かったよ」
勇者は緑を抱きしめて、緑は勇者の胸の中で大声を上げて泣いた。
第7話 完




