第6話[私の為に]
間に合わなかった。
父の死を悲しむお姫様を見て、自分の不甲斐なさに怒りを覚える。
どうしてあの時、お姫様に何があったのか聞かなかったのか。
お姫様を看病している間に助けに向かっていれば、こんな事にはならなかったのでは無いのか?
何が勇者よ。
私がこの世界で救えた人何て、一体何人いるのよ。
一人も居ないじゃない。
「安心しろ、お前もすぐに父の元へ送ってやる」
「ドラゴン族は皆殺しだからな」
金属音が崩壊した場内に響き渡る。
勇者の剣と黒騎士の大剣、二つの剣が競り合う中、二人は睨みあっていた。
勇者がやや劣勢の中、黒騎士が不敵に笑う。
「どうやら力の差は歴然の様だな」
「何言ってんの、私これでも超手ェ抜いているんですけど」
精一杯の強がりだが、黒騎士だけで無く背後に居るお姫様にも、それが強がりだと見破られてしまう。
「もういいです」
「私は父の元へ行きます」
「だから、勇者様は逃げて下さい」
「逃げないよ」
「だって、貴女が生きているもの」
「助けないと」
そうだ踏ん張れ私、頑張るんだ私。
彼女を救うんだ。
「もう、いいのです……」
「私にはもう、何も無いから」
「そんな事言わないでよ」
「大好きなお父さんを失って悲しいのは分かる」
「正直、何て声をかけていいのかは分からない」
「それでも、生きてよ」
「何も無いのなら私が貴女の何かになる」
「だから私の為に生きて」
「私は貴女に死んで欲しくない」
頬を伝う勇者の涙を見て、お姫様は何も言わずに俯いた。
そんなお姫様に日菜達の所へ避難する様、語りかける。
「分かりました」
「約束ですからね、私の何かになって下さい勇者様」
勇者は頷き応える。
黒騎士は城から逃げ出すお姫様を何も言わず見逃していた。
「見逃してくれるとは随分と優しいじゃない」
「いい事を思いついたのでな」
「お前の首を切り落とし、日菜達に見せ、絶望を与えてからお姫様諸共全員殺す」
「最高だろ?」
チッ、何が最高よ。
そんな事、私が絶対にさせない。
剣を握る手に力が入る。
「来いよ勇者、此処で決着をつけてやる」
初めて会った時からコイツはふざけた奴だった。
掃き溜めの中に落ち、全身汚物だらけで私にソレを投げて来やがった。
あの時の屈辱は今も覚えている。
いつしか私を超え強くなりやがるしよ。
まあ、そのお陰で私も必死に鍛錬して更なる力を得たんだが……。
何はともあれ、やっとコイツとの因縁も終わる。
魔王様、いやお父さんは私を褒めてくれるだろうか?
また自慢だと言ってくれるだろうか。
勇者の剣を弾き、勇者に蹴りを入れる。
地面に這いつくばり、咳をする勇者に向かって黒騎士は大剣を振りかざした。
勢いよく振り下ろされた大剣は地面に当たり、金属音だけが響き、黒騎士の手が少しだけ痺れた。
「ふぅ、間に合って良かったです勇者殿」
「緑ちゃん」
第6話 完




