表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
254/367

第6話[私の為に]

間に合わなかった。

父の死を悲しむお姫様を見て、自分の不甲斐なさに怒りを覚える。

どうしてあの時、お姫様に何があったのか聞かなかったのか。

お姫様を看病している間に助けに向かっていれば、こんな事にはならなかったのでは無いのか?

何が勇者よ。

私がこの世界で救えた人何て、一体何人いるのよ。

一人も居ないじゃない。


「安心しろ、お前もすぐに父の元へ送ってやる」

「ドラゴン族は皆殺しだからな」


金属音が崩壊した場内に響き渡る。

勇者の剣と黒騎士の大剣、二つの剣が競り合う中、二人は睨みあっていた。

勇者がやや劣勢の中、黒騎士が不敵に笑う。


「どうやら力の差は歴然の様だな」


「何言ってんの、私これでも超手ェ抜いているんですけど」


精一杯の強がりだが、黒騎士だけで無く背後に居るお姫様にも、それが強がりだと見破られてしまう。


「もういいです」

「私は父の元へ行きます」

「だから、勇者様は逃げて下さい」


「逃げないよ」

「だって、貴女が生きているもの」

「助けないと」


そうだ踏ん張れ私、頑張るんだ私。

彼女を救うんだ。


「もう、いいのです……」

「私にはもう、何も無いから」


「そんな事言わないでよ」

「大好きなお父さんを失って悲しいのは分かる」

「正直、何て声をかけていいのかは分からない」

「それでも、生きてよ」

「何も無いのなら私が貴女の何かになる」

「だから私の為に生きて」

「私は貴女に死んで欲しくない」


頬を伝う勇者の涙を見て、お姫様は何も言わずに俯いた。

そんなお姫様に日菜達の所へ避難する様、語りかける。


「分かりました」

「約束ですからね、私の何かになって下さい勇者様」


勇者は頷き応える。

黒騎士は城から逃げ出すお姫様を何も言わず見逃していた。


「見逃してくれるとは随分と優しいじゃない」


「いい事を思いついたのでな」

「お前の首を切り落とし、日菜達に見せ、絶望を与えてからお姫様諸共全員殺す」

「最高だろ?」


チッ、何が最高よ。

そんな事、私が絶対にさせない。

剣を握る手に力が入る。


「来いよ勇者、此処で決着をつけてやる」


初めて会った時からコイツはふざけた奴だった。

掃き溜めの中に落ち、全身汚物だらけで私にソレを投げて来やがった。

あの時の屈辱は今も覚えている。

いつしか私を超え強くなりやがるしよ。

まあ、そのお陰で私も必死に鍛錬して更なる力を得たんだが……。

何はともあれ、やっとコイツとの因縁も終わる。

魔王様、いやお父さんは私を褒めてくれるだろうか?

また自慢だと言ってくれるだろうか。


勇者の剣を弾き、勇者に蹴りを入れる。

地面に這いつくばり、咳をする勇者に向かって黒騎士は大剣を振りかざした。

勢いよく振り下ろされた大剣は地面に当たり、金属音だけが響き、黒騎士の手が少しだけ痺れた。


「ふぅ、間に合って良かったです勇者殿」


「緑ちゃん」


第6話 完



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ