第5話[立ちはだかる崖]
ドラゴン族の王様を助ける為に私達は急いでお城に向かっていたのだが、雲に覆われお城すら見えない崖下で私達は呆然と立ち尽くしていた。
「一人位なら抱えて空を飛ぶ事ができます」
「後は崖下の洞窟を登るしか……」
「だったら私が行くよ」
「ごめんね日菜ちゃん、楽して登っちゃって」
そう言ってチャラけた態度を取る勇者だったが、顔は真剣そのものだった。
「馬鹿、こんな時までふざけないの」
「ごめん……」
「本当に良いんですか勇者様、死ぬかも知れませんよ」
「大丈夫、死なないよ」
「それに、早く貴女のお父さんを助けないとね」
勇者はお姫様に笑顔を向け、彼女を安心させる。
そして勇者はお姫様に抱き抱えられ、遥か上空のお城を目指した。
「私達も早く駆けつけるから」
私はそう勇者に叫び、崖下の洞窟へと向かう。
「あれ、緑ちゃん、どうしたの?」
崖を見上げたままピクリとも動かない緑ちゃんに私は声をかけた。
「先に行ってて下さい」
「後から追いかけます」
まあ、緑ちゃんの速さなら大丈夫か。
それより今はお城に向かう方が先決だ。
この時の私は早くお城に向かう事で頭が一杯になっており、緑ちゃんを先に行かせるという考えを思いつかなかった。
その事に気づいたのは、洞窟の坂を登り始めて一時間経過した後だった。
「ハァハァ、死ぬ」
「スタリエちゃん、急がないと」
「つか、緑は何しているのよ」
「後から来るんじゃないの?」
「第一、緑を先に登らせたら良かったじゃ無い」
あっ……。
「まあまあ、落ち着いて下さい」
「今、私達に出来る事はこの洞窟を登る事ですから」
ララちゃん……。
そうだよね、ララちゃんの言う通りだよ。
私達は気合いを入れ直し、再び洞窟を登る事にした。
それにしても緑ちゃん、まさかとは思うけど崖を登って無いよね?
日菜の思っていた通り、緑は崖を登っていた。
「ふう、まだ何も見えませんか」
命綱も無しに崖を登り続ける緑。
彼女に死の恐怖は無く、あるのは早くお姫様のお父さんを救いたいという想い、ただ一つだ。
「よし、頑張ってもう少しペースを上げてみますか」
日菜達が洞窟を、緑が崖を急いで登っている中、勇者は黒騎士と対峙していた。
第5話 完




