第45話[愛の炎]
お風呂の騒動の後、雪花ちゃんは私の部屋に寝る事となった。
何でも私以外、誰も信頼できないそうだ。
「ああ、日菜ちゃんの愛で溶けてしまいそうです」
いや、掛け布団の温もりだから。
私、何もしていないから。
誤解を招く様な事を言うのは止めて。
私がそんな事を考えていると、急に部屋の扉が叩かれた。
「日菜ちゃん、さっきの雪花ちゃんの声は何?」
「もしかして如何わしい事してる?」
「だったら私も混ぜて」
いや、何もしてないから。
てか、もしかしてずっと扉の前に居た?
相変わらず勇者らしいというか何というか。
私は事情を説明し、勇者に納得して帰って貰う。
まだ扉の前に居ないよね?
私は怖くて確認せずにベッドへと戻った。
「それじゃあ、寝ようか」
「その前に少しだけお話しがあります」
そう言うと雪花ちゃんは、もう誰も殺さない事を私に話してくれた。
そっか、なら雪花ちゃんとは戦わなくて済むんだ。
私は笑顔で雪花ちゃんにそう言うと……。
「いえ、魔王城に来たら戦いますよ」
えっ、戦うの?
「魔王様には恩がありますし、流石に戦いますよ」
ペンダといい、雪花ちゃんといい、結局魔王軍幹部と戦わないといけないのか。
「あまり戦いたくないな」
私がそう呟くと、急激にベッドが濡れ始めた。
「今の凄いキュンとしました」
「もう一度言って下さい」
「そしたら戦うの止めるかもしれません」
いや、言ったらまた溶けちゃうじゃん。
顔や体が崩れてきてるよ。
おまけに私のパジャマはびしょ濡れだし。
取り敢えずララちゃんを呼んで何とかして貰おう。
そう思い、部屋の扉を開けると勇者が立っていた。
「日菜ちゃん、おはよう」
私は慌てて部屋の扉を閉める。
流石に怖すぎるわ。
仕方ない、私が何とかするしかない。
大丈夫、私だって魔法使いの端くれなんだ。
氷系魔法だって扱える。
そう思い、私は呪文を唱えた。
するとどうだろう、ベッドは燃え、雪花ちゃんは炎に包まれていく。
「ぎょぇぇえ」
恐ろしい程の断末魔の叫びをあげる雪花ちゃんを前にして、私は急いで部屋の扉を開け、勇者を蹴飛ばしてララちゃんを呼びに行った。
私の部屋に駆けつけたララちゃんが燃え盛るベッドを見て呟いた。
「色んな意味で大変だ」
ララちゃんは水の魔法で燃えるベッドを鎮火して、私に雪花ちゃんをお風呂場へ連れて行く様、指示を出した。
言われた通り、雪花ちゃんをお風呂場へ運び、水の溜まった浴槽に雪花ちゃんを入れる。
そしてララちゃんは呪文を唱え、浴槽の水を凍らせていく。
「正直、魔物の治療なんてした事ないので分かりませんが、これで大丈夫でしょう……、多分」
「スタリエちゃんの回復魔法で何とかならないかな?」
(それも考えましたが、雪花は日菜さんに懐いていますし、このまま看病させて置いた方がいい気がする様な……)
「まあ、様子を見ましょう」
「大丈夫です、魔王軍幹部がこの程度で死ぬ訳ありません」
そう言ってララちゃんは部屋へ帰って行った。
そして私は雪花ちゃんの手を握り、回復するのを待った。
翌朝、気がつくと私は眠っていて、起きたら何処にも雪花ちゃんの姿は無く、浴槽には冷たい水があるのみだった。
「雪花ちゃんが死んじゃった」
「いえ、生きてます」
背後から聞こえてくる雪花ちゃんの声。
私は涙を流し、雪花ちゃんが生きている事を喜んだ。
「冷気を吸って目覚めたら全裸だったので洋服を借りに……」
「すみません、日菜ちゃんの服を勝手に借りてしまって」
「そんなの全然大丈夫だよ」
「私の方こそごめんね、熱かったよね」
そう言って私は雪花ちゃんを強く抱きしめた。
(ああ、日菜ちゃんの愛でまた体が溶けそうに……)
第45話 完




