第41話[メイド]
魔王城に着いたペンダは幹部達が集う部屋に向かって走っていた。
「雪花は無事か」
そう叫び、ペンダは勢い良くドアを開ける。
「ペンダ、帰って来たのか」
そう言ってペンダに歩み寄るガチュミ。
そんなガチュミにペンダは雪花の居場所を尋ねた。
「雪花なら影に呼び出されたきり帰って来ておらぬ」
その言葉を聞き、ペンダは影の部屋に向かって走った。
嫌な予感がする。
あの影が雪花を呼び出す何て、きっとロクな事じゃ無い。
不安と恐怖で胸が苦しい。
こんな事、神様に願えた義理じゃないが、どうか雪花が無事でありますように。
そう願いながら、ペンダは影の部屋の扉を開けた。
「影様」
そう叫び影の部屋に入るペンダ。
だが……。
「影様、こちら冷凍ステーキになります」
「猫舌の方も安心して食べられる様に仕上げました」
そう言って出されたステーキを影は切り分け口に運ぶ。
いつの間にかイメチェンをしたのか、影の仮面は鼻から下が無くなっていた。
「シャリシャリして不味いわね」
「オマケに血がシャーベットみたいになっていて見た目も最悪」
「それに私、猫舌じゃ無いわ」
「あっ、影様」
「口元が血で汚れてます」
そう言って雪花は影の口元を綺麗な布で拭く。
「やはりレアだと駄目でしたか?」
「いや、それ以前に凍らせないでくれる?」
そんな二人を見つめながらペンダは混乱していた。
一体何がどうなっているのか?
ポカーンと口を開け、二人を見つめるペンダに気づいたのか、雪花が笑顔を浮かべ近づいてきた。
「えっと、雪花は何をやっているんだ?」
「影様から罰を受けているの」
そう言って雪花は語った。
何が起きているのかを……。
時は少し巻き戻り、雪花は影にもう人間を殺さない事を告げていた。
影から与えられる罰に恐怖し体を震わせる雪花の手を影は握る。
「あなたにはコレから私のメイドになって貰うわ」
「メイドですか?」
「ええ、今の私は機嫌が良いから、それで許してあげる」
「それとも、別の罰がいいかしら?」
「いえ、私は影様のメイドになります」
「影様のメイドになりたいです」
そう説明する雪花に、ペンダは耳を疑っていた。
機嫌が良いだけで、こんな罰だなんて……。
あいつは本当に影か?
そんなペンダの考えを見抜いてか、影は口角を上げペンダに向かって口を開いた。
「何処かの騎士団のお陰で私は死んだ事になった」
「勇者達も私が生きている何て夢にも思わないだろうね」
「でかしたわ、あなたのお手柄よ」
「あなたが勇者達と旅をしなかったら、こうはならなかったわ」
そう言って笑い、歓喜する影を見て、ペンダの額から冷や汗が滝の様に流れ落ちる。
やばい、勇者達に教えちゃった……。
「そうだペンダ、アレから何があったのか教えなさいな」
「ほらっ、雪花の作った冷たいステーキでも食べながら話してごらんなさい」
そう言って差し出された食いかけのステーキを頬張りながら、ペンダはアレから何があったのかを影に全て話す。
「成る程、って事は勇者達も危ないわね」
「だって魔王軍幹部を助けたんだもの、タダでは済まないわ」
「下手すりゃ処刑ね」
その言葉を聞いて雪花は手に持っていた冷たいスープを落とした。
「そんな……」
「何雪花、急にどうしたの?」
「いえ、何も……」
俯く雪花の耳元で影は日菜の名前を囁いた。
「心配なんでしょ?」
「助けてあげたいんでしょ?」
「なら助けに行けば良いじゃない」
影の言葉に驚き、雪花は「よろしいのですか」と呟いた。
「ええ、構わないわ」
「言ったでしょ、今の私は機嫌が良いの」
「ほら、助けたいのなら早く着替えて向かいなさい」
「早くしないと皆んな死んじゃうわよ」
雪花は頷き、着替えて日菜達を助けに向かった。
「影様、よろしいのですか?」
「ええ、構わないわ」
「それよりペンダ、あなた勇者達に私が生きている事を話したでしょ」
「嘘ついても無駄よ」
「だって、あの汗の量、普通じゃないもの」
そう言うと影はニタリと笑い呟いた。
「あなたにも、罰を与えないとね」
こうしてペンダは影のメイドにさせられるのであった。
第41話 完




