第20話[邪悪]
残るはあと一つ、古代王の王冠。
私達は次の目的地、古代王の墓を目指し馬車を走らせていた。
そんな中、馬車が急に止まり私達は何事かと思い、馬車から顔を出して外の様子を伺った。
すると……。
「あの、退いてくれます?」
そう尋ねるララちゃんに不気味な仮面を被った少女が声を出し笑い始めた。
何か怖い……。
私がそう思っていると、ペンダが顔色を変えて呟いた。
「影……様……」
えっ、アレが?
アレが影なの?
正直不気味さはあるが強敵の様には感じない。
寧ろ魔王軍幹部の方が強いんじゃないかとさえ思えてくる。
私がそんな事を思っていると勇者が眉間にシワを寄せ馬車から飛び出して行った。
「あんたが影なの?」
影に向かって剣を向ける勇者にペンダが叫んだ。
「止めろ、影を……、いや影様を殺すな」
「きっと後悔する事になる」
「ペンダ、しばらく見ないと思っていたら勇者と仲良く旅をしていたの?」
「裏切り者には罰を与えないとだね」
「雪花を焼きゴテに当てて意地悪するか、雪花を人間でも暑くて逃げ出す様な部屋に一時間閉じ込めるかどっちがいいかしら?」
それを聞いて今にでも飛びかかりそうな勇者をペンダは必死に止めた。
「どうして止めるの、コイツは……」
「頼む勇者、私を信じてくれ」
ペンダの真剣な表情に勇者は折れて剣を下ろした。
「私を想って言ってくれたのかしら?」
「いや、違うわよねペンダ」
「あなたはどこまで私達を裏切るのかしら……」
「お願いします影様、私はどうなってもいい」
「ですから雪花だけは……」
仮面で表情が分からない。
だけどそれでも、彼女が仮面の下でほくそ笑んでいる事が私には分かった。
「仲間想いのあなたを見て、私は感動したわ」
「だから特別に雪花をイジメるのだけは勘弁してあげるわね」
「でも、罰は受けて貰うわよ」
そう言うと影は黒いマントを広げ、何処からか小さな少女を出現させた。
手品のショーの様に現れた少女はとても痩せ細っていて身動きが出来ない程に衰弱している。
「貧しい村で拾った女の子よ」
そう言いながら影はペンダの背後に回り耳元で囁く。
「あなたがその子を素手で殺すの」
「この子は今、空腹という苦しみの中で生きている」
「どうせこのまま置いておいてもいつか死ぬわ」
「なら、あなたが彼女を殺し、苦しみから解き放ってあげればいい」
「あなたは良い事をして大好きな雪花を守れるのよ」
「これ程、優しい罰は無いじゃない」
「ふざけないで」
勇者が影めがけ飛び出した。
ペンダは影の前に立ち、勇者の攻撃を受けて影を守る。
「どうして?」
「頼む、何も言えないんだ」
「だから私を信じてくれ」
「ペンダ……」
「なら、あなたはその子を殺すの?」
「私達なら救えるよ」
勇者の言葉を聞いてペンダの手が震える。
勇者から視線を逸らし少女を見る。
殺す気なんだ。
私がそう思っていると……。
「た……すけて」
その言葉を聞いてペンダは目から涙を流す。
「殺せません」
「私はこの子を殺せません」
ペンダがそう叫ぶと同時に「放て」という指示が何処からか聞こえてきた。
しばらくして無数の矢が降ってくる中、ペンダは痩せ細った少女を抱きしめ振ってくる矢から守った。
影は複数の矢が体に刺さり死に、ペンダの体にも無数の矢が突き刺さっていた。
そんな中、現れる鎧を着た女性。
彼女は真紅の薔薇の騎士団の団長だと名乗っていた。
第20話 完




