第19話[脱獄]
牢屋から抜け出したはいいが、見張りの兵士が多く、すぐに見つかってしまう。
だが、勇者は手刀を繰り出し、兵士をバッタバッタと薙ぎ倒して行く。
「日菜ちゃん、約束は守ってね」
「もう、施錠スキル使っちゃ駄目だよ」
絶対に使うと心に決めながら、日菜は嘘を吐き、勇者の後を追う。
そんな時だった。
姫様とバッタリ出会ってしまう。
日菜は姫様なら話しが通じると思い、経緯を説明した。
「話しは分かりました」
「さあ、勇者様もこちらに」
差し出される姫様の手を勇者は撫で回しながら握る。
(姫様はもう攻略済みかな)
などと考え、不適な笑みを浮かべる勇者。
気がつくと手錠を掛けられていた。
「無実の魔法使い様ならともかく、勇者、あなたは有罪です」
「聖なる神父様を脅しただけで無く、脱獄し、兵士を傷つけるなど、言語道断」
「本当なら斬首されても可笑しくないんですよ」
「それを、私が、懲役百五十年にまで下げてあげたのです」
そう言うと姫様は日菜の方をチラチラと見る。
優しい自分をアピールし、日菜に褒めて貰いたかったのだろう。
だが、日菜はそれどころでは無かった。
魔王討伐には勇者が必要だ。
そもそも、人は百五十年も生きていられない。
それはつまり、特典である来世の幸福を得られない事になる。
冗談じゃ無い。
毎朝、耳をしゃぶられながら起きた。
私がお風呂に入っている間、勇者が眼鏡を舐めたりしていた。
姫様の代わりに毒殺されかけたし、牢屋にも入れられた。
全部、前の世界じゃあり得なかった事ばかりだ。
その上、来世の幸福な未来も約束されない?
そんなの絶対に嫌だ。
「お姫様、お願いします」
「何でもしますから、どうか懲役十五日位にして下さい」
姫様は頷き、力強く日菜に言う。
「分かりました」
「懲役十五日にしましょう」
第19話 完




