第32話[きまぐれ]
誰も居ない路地裏にリーサは一人の少女を呼び出していた。
「話しって何?」
「私、忙しいんだけど」
自分と視線を合わそうとしない彼女にリーサは笑顔を向け、日菜から頼まれたお願い事を彼女に話した。
両親の病気が治りそうな事をペンダに伝えて欲しい。
その事を伝えられ、彼女は直様反論した。
「はっ?」
「ふざけないでよ」
「そんな事言ったら、私キャバクラで働けなくなるじゃない」
「別に止めろと言っている訳じゃないの」
「日菜さんはもうペンダさんを騙さないで欲しいと言ってるの」
「簡単な事でしょ?」
「何が簡単よ」
「大体あんな金ヅル、そう簡単に手放せる訳無いじゃない」
「やっと、お店でトップ取れたっていうのに……」
当然ながら日菜のお願い事を断る彼女に、リーサは笑顔のまま、何処か冷たく彼女に向かって言葉を放つ。
「いいから黙ってやれよ」
「じゃなきゃ、店ごと潰しちゃうぞ☆」
こんな事だろうと思った。
腹黒で一部有名なリーサに呼び出されたんだ。
きっとロクな事が無い。
かといって彼女に逆らえば、この街で住みづらくなるのも事実、だから……。
ペンダから巻き上げた金の一部、二百万ベルをリーサに差し出す。
「コレで今回の件、手打ちにしない?」
「私もあんたを敵に回したく無いからさ」
リーサは作り笑顔を止め、無言で彼女を見つめた。
「足りなかった?」
「五十、いや百上乗せするわ」
「だから……」
「私が聞きたいのは、やるか、やらないか何だけどなー」
しばらく沈黙が続き、彼女はお金をしまい「やります」と答えた。
リーサは再び笑顔を作り、彼女にお礼を言ってその場を去ろうとする。
「どうして、どうしてそこまでするの?」
「勇者達に恩を売っておきたい為?」
リーサは立ち止まり答える。
「さあ、別にあなたに答える必要なんて無いと思うんだけど」
そう言い残してリーサはその場から去って行った。
第32話 完




