第7話[鬼神中編]
ある日、いつもの様に子供達と遊んでいると、旅人が倒れているのを発見する。
急いで村に担ぎ込み、看病するが医者の居ないこの村では大した治療も出来ず、翌日には旅人は息を引き取り、帰らぬ人となっていた。
助けられなかった事を悔やみ、村人全員で旅人の遺体を手厚く葬る事にする。
これが悪夢の始まりだとも知らずに……。
異変は数日後に起きた。
村長のジジイが風邪を引いたとかで、私は薬草を摘み、ジジイの元へそれを届けていた。
「いつもすまんな」
「気にすんな、オメーとは赤ん坊の時からの付き合いだろうが」
ケラケラと笑う私に対し、ジジイは弱々しく笑う。
流石に歳か……。
今まで数え切れない程、人の死を見てきた。
出産の時と違い、悲しく辛い瞬間だ。
「ジジイ、あんまり無茶すんなよ」
ジジイを寝かしつけ、私は狩りに出かけた。
肉をたらふく食わせとけば、その内元気になるだろう。
そう私は考えていた。
狩りを終え、村へ帰るとジジイの葬式が始まっていた。
事情を聞き、私は手に持っていた肉を落とす。
両手で顔を押さえ、両膝を地面につけ、私は声をあげて泣いた。
それから更に数日後、村中に風邪を引く者が増えていった。
薬草を摘んでは村中を駆け回る日々。
何の成果も得られず、私は次第に苛立ちを露わにしていた。
「くそっ、何でだよ」
「何で誰も治らねーんだよ」
そして遂に、村人全員が風邪を引き倒れてしまう。
中には悪化して、そのまま死ぬ者まで現れた。
村中が死臭の匂いで包まれる。
時間を作っては死んだ村人を埋め、後は食料の調達や薬の調合に看病。
出来る事は全部やった。
「オラ、坊主」
「肉だ食え」
「勇者になって村を救うんだろ」
「なら風邪何かに負けてんじゃねぇよ」
無理矢理にでも肉を食べさせてみるが、坊主はソレらを全部吐き出し、弱々しく私に謝ってきた。
「何だよ、お前が謝る事じゃねぇよ」
「無理矢理食べさせた私が悪いんだ」
「悪かったな」
坊主は私にとびきりの笑顔を向け、数日後、覚める事の無い眠りについた。
「何でだよ」
「チキショウ」
この日から、私は何処か諦めていた。
どうせ、何をやっても助からない。
ならばせめて、楽しい時間のまま死なせてやろう。
そう思い始めていた。
ジュジュリ、お前はおままごとが大好きだったよな。
「ほら、あなた」
「シチューが出来ましたよ」
そう言って肉の入ったスープをジュジュリの口元へ近づけた。
すると……。
「めちゃ……く……おい……しい」
いつも泥団子を食べた時に私が言っていた言葉だ。
おままごとをすれば食べてくれる。
私の前に一筋の希望が見えてきた。
「ジュジュリ、テメー、どれだけおままごとに命かけてんだよ」
そう言いながらも私は喜び、泣いていた。
村人達の看病をしながら、ジュジュリに会いに行っては、おままごとをしながら看病する。
そんな日々が続いたある日、とうとうジュジュリも食べ物を食べなくなった。
私の手を弱々しく握り離さない。
「ペ……ダ……だい……すき」
彼女は最後にその言葉を私に残し、この世を旅立った。
「私もだ」
「ジュジュリ、今まで楽しい時間をありがとう」
涙と鼻水で顔をグシャグシャにして、私は彼女の体をギュッと抱きしめた。
やがて村人達は全員死に、私は一人一人、感謝の言葉を述べて、遺体を土に埋めていく。
そして、私は村の入り口に座り、考えるようになった。
あの時、旅人を助けようとしなければ、こんな事にはならなかっただろう。
私は自分の行いを悔い、やがて鬼神と呼ばれる様になった。
第7話 完
第8話へ続く。




