第38話[悲しみの重さ]
あの時、勇者は瞬時に覚悟を決めて、人魚の女王様の胸に剣を突き刺した。
アレは憎しみに囚われた姿ではなく、愛しい彼を覚えているまま死なせてあげようと考えて行動したからだろう。
勇者が何処かへ行って、しばらく沈黙が続いた。
誰も何も口にしない。
人魚の女王に見せた勇者の涙。
勇者だって、本当は人魚の女王様を救いたかった筈なのに……。
空気が重い。
そんな中、勇者がいつもの様に、ふざけた感じで帰ってくる。
「だ〜れパイ」
「んっ、日菜パイだぁ〜」
後ろから日菜の乳を揉む勇者。
「この、馬鹿ゆう……しゃ……」
いつもの様に殴ろうとする日菜だが、勇者の目を見て黙り込んでしまう。
すごく泣いたのだろう。
目が赤くなって腫れている。
無理して心配させまいといつも通りの自分を演じる勇者が居た堪れなくて、皆んなが黙り、下を俯いた。
「勇者殿、ごめんなさい」
「私が情け無いばかりに……」
「そんな事ないよ」
「てか皆んなどうしたの?」
「ほらっ、いつも通り変態って言って罵ってよ」
「私、ドMだからそれだけで元気に……な……」
勇者の目から涙がポタポタと地面に落ちる。
そんな勇者を見て日菜が勇者を抱きしめた。
私達は仲間だ。
悲しみを勇者にばかり背負わせてはいけない。
泣き叫ぶ勇者を日菜は強く抱きしめながら、そう決意した。
第38話 完