第36話[憎しみ]
君は見た目だけじゃなく心も美しい。
彼がそう言って私を褒めてくれた。
だけど、それは彼の方。
私は知っている。
波に打ち上げられた人魚を人知れず助けていた事を……。
炎天下の中、陸に打ち上げられ、弱っていく人魚を私は見ている事しかできなかった。
そんな所に彼が現れ、人魚を救ってくれたのだ。
付きっきりで看病し、人魚を励ます彼の姿を見て、私はすぐに恋に落ちてしまった。
彼と付き合い、私と同じ寿命を与えた。
一緒に海で生活をしよう。
私の提案に彼は首を横に振り応えた。
病弱の母と妹が居るのだと言う。
それならばと私は彼の家族に血を分ける事を提案するが彼は再び首を横に振った。
どうやら私の血を飲むのにも覚悟がいるらしい。
確かにそうだ。
私の血を飲む事により寿命は長くなるだろう。
だけどそれは人を止めるという事、人魚にもなれず人でも無い。
それはとても辛い事だろう。
それなのに、彼は私と共に人生を歩んでくれると誓ってくれた。
私はそれがとても嬉しかった。
それなのに……。
彼は死んでしまった。
溺死だ。
悲しく辛かった。
それでも私は前を向いて生きていく事を決意する。
天国に居る彼を心配させまいと……。
「あれが、事故とでも?」
魔王からの使いで来た仮面を被った少女が語る。
「彼は歳を取らない事から化け物だと言われ嫌われ続けた」
「村人達からの酷い仕打ちを受け、薬も買えず、母と妹も死んだ」
「失意のドン底に陥る彼に村人達は何と言ったか貴女は知っているの?」
「海に飛び込めよ」
この事を聞かされた私は憎しみを抑える事が出来なかった。
「そんな人魚の女王様にプレゼントがあるの」
私は彼女から壺を渡され、蓋を開けた。
「さあ、今こそ復讐の時です」
復讐……?
何を言っているの?
「憎いでしょ?」
「恨めしいでしょ?」
「あなたと同じ苦しみを与えたいでしょ?」
憎い?
恨めしい?
フフフ、そうだ。
奴ら人間が憎い。
私の大切な人を奪った村人達が憎くて仕方がない。
私の心に湧き上がる憎しみ。
それらに身を任せ、私は村人達に復讐する事を決意した。
第36話 完




