第25話[二つの果実]
緑が舟を漕いだお陰か、モーターボート並の速さで、あっという間に陸が見えない所まで一同は来ていた。
舟がボロいせいか、船酔いで顔を青くする日菜とスタリエ。
更にはララまでもが船酔いで苦しんでいた。
そんな中、勇者が釣り糸をたらし魚釣りを始める。
「勇者殿、まさか人魚を釣る気で?」
「もちろん、海の中じゃ奴らに分がありそうだからね」
「陸に釣り上げてナイフでブスリと……」
想像し、スタリエと日菜が更に気持ち悪くなる中、緑は勇者に餌は何かと尋ねた。
すると……。
「日菜ちゃんの使用済みパンツだよ」
ハッとなり、日菜が咄嗟に下半身を手探りで確認する。
そして日菜の船酔いが一気に覚め、顔が別の意味で青くなっていく。
いつの間に脱がしたのか?
脱がされた覚えはない。
そんな時、ふと勇者の会話を思い出す。
陸に釣り上げてナイフでブスリ。
ナイフでブスリ。
ナイフで……。
コイツ、ナイフで私のパンツを……。
「ちょっと、私のパンツ返してよ」
「大体、パンツで人魚何か釣れる訳無いでしょ」
日菜がそう言うと勇者は「きた」と叫び、釣竿が大きくしなった。
(人魚も変態かよ)
心の中でツッコミを入れる日菜。
勇者は人魚を釣り上げ、ナイフを取り出した。
その時、勇者は違和感を感じる。
同様にスタリエも感じたらしく、それを口にした。
「ねぇ、下半身が冷たいんだけど……、それに日菜は?」
船酔いでまだ意識がハッキリしていないのか、スタリエは気づいていなかった。
舟に穴が空き、沈没しかけている事に……。
「皆さん、少しは私の話しを聞いて下さい」
一部始終を見ていたララは皆んなに一生懸命、語りかけていた。
勇者と緑は釣りに夢中で、スタリエは船酔いでダウン。
誰もララの話しを聞く者は居なかった。
「ごめんごめん、それで日菜ちゃんは?」
「それが、舟の底が日菜さんの所だけ抜け、そのままストンと海の中へ……」
それを聞いた勇者が人魚の背後から胸に手を回し、海の中へダイブした。
舟が完全に沈み、人魚が群がる中、勇者は日菜と一緒に海から顔を出した。
「皆んなも適当な人魚の胸につかまって、でなきゃ溺れちゃうよ」
勇者に言われるがまま、一同は人魚の攻撃を交わし、背後から胸を掴む。
「人魚が海へ沈めようとしたら首を絞めるといいよ」
「そうしたら、観念して言う事を聞くようになるから」
色々と問題行動だが、背に腹は変えられない。
一同は勇者のアドバイス通りにして、何とか一命は取りとめた。
第25話 完




