第9話[光山影前編]
一通りガチュミから魔王軍について情報を引き出せたが、何だかガチュミの様子がおかしい事に気付く。
「お主ら本気で魔王軍と戦うなら止めた方がいい」
「魔王軍には、妾達魔族より恐ろしい人間がおる」
敵ながら心配してくれているのだろうか、ガチュミの表情は先程と比べて、とても暗くケーキを食べる手を止めていた。
「へぇ、魔族より恐ろしい人間ですか」
「すごく気になります」
好奇心からか、ララがガチュミにその人物について尋ねるが、ガチュミは黙ったまま、何も話さないでいた。
そんなガチュミを見て、ララが溜め息を吐く。
勇者はしばらくララを見つめ、そして口を開いた。
「魔王軍幹部の情報を聞けただけでもいいじゃん」
「あんまり聞くとガチュミちゃんが可哀想だよ」
勇者の優しさに触れ、ガチュミは話す事を決意する。
光山影、彼女について話す事で、魔王軍と戦うのを諦めてくれるのなら、そう思いガチュミは重たい口を開いた。
奴と初めて会ったのは、異世界から奴が召喚された翌日の事だった。
仮面を被り、素性は分からない。
だが、奴の性格が悪いというのは、その日で分かった。
奴は、人や魔物を殺すのに何の躊躇いも無い。
それ所か、命を奪う事に喜びを感じているとさえ、思えた。
ガチュミは目を閉じる。
今でもあの時の事が鮮明に思い出されていく。
黒騎士が保護した子供達。
それを実験と称し、一人残らず殺していった。
泣き叫ぶ子供達。
それを妾は救う事が出来ず、ただ傍観するだけだった。
唯一動いたのはペンダだけ。
だが、影の強さは圧倒的でペンダの心は簡単に折られてしまう。
そして帰宅した黒騎士の部屋には無惨にも人体実験で亡くなった子供達の遺体が転がっていた。
それを見て放心状態の黒騎士に奴は……、奴は……。
第9話 完
後編へつづく。




