表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/6

第三章


 Ⅲ.阿久間緋色の日常。



「……最近来てくれないと思ったら、ちっちゃな彼女と仲良しみたいね。阿久間緋色ちゃん、だったかしら?」


 窓の外は夕焼け色に染まっていた。


 玄武祭という非日常が終わり、また退屈な日々が戻ってきた。

 ……ただ、あのちびっこい転校生のせいで、なにかしら騒がしい今日この頃だが。


 はた迷惑な、自称魔女。

 射し込んでくる赤とも橙ともつかない色の光から燃えるような夕日を思い浮べれば、そいつの瞳が、顔が浮かんでくる。


「ねぇ、聞いているの?」


ほっそりした白い指が顎をなぞり、はっとして「なんでもない」と首を振る。それと、「彼女なんかじゃない」と釘をさしておく。


 あいつ――緋色がやってきてからは、遠ざかっていたこの習慣。

 もちろん俺は忘れてなんかいなかったし、“彼女”もまた、玄武祭の間は忙しかっただけだと言う。


「店長やったり、けっこう頑張ってたじゃない。青春ねー。そういうところは、ほんとに似て――」


 懐かしそうなその声は、ふいに途切れる。

 俺に戸惑ったような目を向け、「どうしたの……?」と問う。


「黙って」と言いもう一度唇をふさぐと、素直に目を閉じた。


 “彼女”は絶対、目を開けない。


 それが悲しくもあったし、同時に安心する。


 今の俺は、ひどく情けない顔をしているはずだから。


 “彼女”とこうして会うのは、いつも夕陽が校舎を染める頃。


 夕暮れどきは、逢魔が刻。人を惑わせる――。

 偽りのぬくもりに身を委ねるなか、一瞬だけ、夕焼けを映したような瞳が脳裏に浮かんだ。



―*―



「緋色ー、朝だぞー」


「…………う?」


 襖をノックすると、微かに返事が聞こえた。


「飯、できたから」


「うー……ぬー……」


「おーい……入るぞ?」


 唸り声は聞こえるが起きだす気配がないので様子を見ようと襖を開け、


「おはよーございまー……す?」


 ニュース番組のレポーターの真似をして片手にマイクを握ったふりをしたそのままの姿勢で、俺は見事に固まった。あ、デジャヴ。


「なによ、ましゃくに……。ヘンにゃ顔しちゃって……」


 緩慢な動作で布団から体を起こしながら、緋色がこしこしと目をこする。顔を洗う猫が頭に浮かんだ。


 乱れた黒髪がはらりと寝起きの顔に、肩にしどけなくかかる。

 片方の肩紐がずり落ちたキャミソールから覗く白い鎖骨、丸い肩とそこから伸びる引き締まった二の腕。軽く三角座りした白い足は、太ももまでしっかり見えている。


 これはあれですね、下着姿というやつですね。

 朝のぼうっとした頭でそこまで考えが至ったとき、緋色もようやく気づいたのか、顔色を変えたのが見えた。


 しかし寝起きの俺の脳は、危機感を持たずに観察を続ける。


(なるほど、今日は水色なのか)


「なに見てるのよーっ!!」


「おわっ!?」


 豪速球もかくやという勢いで飛んできた目覚まし時計が、後ろの襖に不吉な音をたててめりこんだ。ああ、襖が。


 やっと俺の思考回路も動きだす。


「あぶねーだろ緋色! 家壊すな。つーか、なんで下着で寝てんだよ! しかもどうして布団が部屋の隅っこにあるんだよっ」


「しっ、知らないわよ! ちゃんとパジャマ着て寝たわよ! 布団も被ってたわよ!」


 怒りのあまり失念しているのか、下着だけを身につけたスレンダーな肢体を隠そうともしない緋色が、腰に手をあて仁王立ちで怒鳴り返してくる。


 ぎゃーぎゃーと近所迷惑な大声で言い合っていると、


「そうそう、ほんと、芋虫みたいに丸まってたのよん、寝るまでは」


 猫姿のアムリタが、足元からそう補足してきた。


「アムリタさん、おはようございます」


「おはよう、ぼうや。それはそうと、早く出たほうがいいんじゃなあい?」


「え? ……あ」


 緋色が私物の巨大なトランクを頭上高く持ち上げているのを見て、俺は神速とも言える速さで廊下に出、襖を閉めたのだった。



「……ふあ、ねみー」


 玄武祭が終わって一週間が経ち、いつも通りの平々凡々な生活を送っていた。


 いつも通り、とはいうものの、緋色が来る前とは少し違う。


 異性と同居なんて、最初はどうなることかと不安もあったが、概ねうまくいっている。当初は頭を悩ませた洗濯も、今は分けてしているし。


 緋色の分の生活費は少し前にアムリタから札束を渡されたが、ひとり増えたところでたいした負担にはならないので使わずに戸棚にしまっている。ぽいっと渡された大金の出所が不明なのでこわいというのもあるが。


 変わったところといえば、朝食は毎日食べるものだと主張する緋色にじゃんけんで負けて、けど彼女は料理ができないため当然俺が毎朝飯を作るはめになり、そのため早く起きるようになった。


 また、俺が帰ってくるまで意地でも起きている緋色に根負けし、夜に出歩くことも少なくなった。


(……なんか、俺、弱いな)


 はは、と虚しい笑いをもらす。


 いや、じゃんけんが弱いのは仕方ないとして……。


 夜中の12時に、家に点いていた灯り。不思議に思いながら家に入ると、襖の隙間から緋色の顔がのぞいた。


「……遅いわよ、チャラ國」と不機嫌そうに唸ったその顔は、どこか安心しているようにも見えた。

 そして、「おかえり」という言葉。気づけば、「ただいま」と返していた。

 緋色は「……おやすみ」と言い残し襖を閉めた。


「ただいま」なんて言ったのは、何年ぶりだろうか。


 両親と一緒に暮らしていたのは小学六年まで。

 中学一年からは、高校生になった兄ちゃんと二人暮し。

 中一の夏、とある事件があってからは、兄ちゃんとはほとんど口をきかなかった。


「昌國、早く食べないと遅れるわよ」


 まだ不機嫌さの残る、緋色の声。


「あ、ああ、悪ぃ」


 二人での朝食。それが、気がつけば当たり前になっていて……。

 緋色はすっかり、俺の生活の一部になっていた。


 焼き鯖と奮闘している目の前の緋色を、観察してみる。


 艶やかに背中を流れる長い黒髪にはいつもどおり、オレンジ色のおばけカボチャの髪留めがあしらわれている。陶器のようにきめ細やかな、健康的に白い肌。

 夕陽を思わせるオレンジ色の大きな瞳。ツリ目がちな猫っぽい目を縁取る、長い睫毛。つやつやしたさくらんぼ色の唇は、目の前の魚に集中しているせいかちょっぴり尖っている。

 童顔に低い背丈なのに、魔女だからだろうか、圧倒的な存在感。見た目に似合わず、どこか憂いを帯びた大人びた声。


 けれど詳しく言えるのは外見だけで、内面も少しは理解したつもりでいるけど……。


 まず、猫が大好きで――もふもふした動物が好きらしい。

 甘党で、マイナーな「かりかりぱんだ」が特に好きで。

 それと一人前の魔女になるために、俺を殺したがっていて。

 態度はつんけんしていて傍若無人っぽいところもあるけれど、実は人一倍他人の感情に敏感で。

 人混みが嫌いで。

 ルシファーって奴が苦手で。

 俺の主観だけど、寂しがり屋で。

 意地っ張りで素直じゃないけど、ほっとけなくて……。


(あれ?)


 なんか違う方向いってね?


「? なによ」


 お詫びにと二倍のサイズにした卵焼き(見た目は気にしたら負けだ)を嬉しげにもぐもぐと咀嚼しながら、緋色が視線に気づいたのか訊いてくる。


「いや、なにも……」


「ふぅん。……今日の卵焼きもなかなかね」


「そりゃどうも」


「ご褒美に殺してあげるわ」


「謹んでご遠慮します」


「チッ」


「舌打ちしない」


「……」


「むくれてないではよ食え」


「わかってるわよっ」


 まあ、それはともかく。ようするにだ、俺は緋色のことをまだよく知らない。


「昌國ー、行くわよ!」


 手早く歯磨きなどを終え、鞄を手にした緋色が玄関から呼んでいる。起きるのは遅いくせに準備は早い。


「はいはい」と返事をしつつ――昨日、別れ際に“彼女”から言われた言葉がよみがえる。


『本当に、彼女のことをわかっているの?』


「……わかんねぇよ」


 何故か悔しく思った自分が、よっぽどわからない。


 他人なんてどうでもいい。人間関係は浅く広く、適度な距離感で。それが基本のはずなのに……。


 でもとりあえず、わからないなら調べるまでだよな、うん。

 こうして俺は居候、阿久間緋色の観察をはじめたのだった。



「おいで、おいで。にゃー、みゃーぁお」


 登校途中、緋色は土手で野良猫とたわむれている。


 黒と白の子猫が一匹ずつ。緋色はこの間見つけたこの二匹が大のお気に入りで、毎朝こうしてスキンシップを図っているのだ。

 しかし猫たちは、どこか遠慮がちな様子で近づいてこようとはしない。この理由はいまだに謎だ。


 携帯で時間を確認すると、8時29分だった。ホームルーム開始まで、あと10分ちょっと。


「緋色、もうそろそろ行かねーと、遅刻するぞ」


「にゃー……え、もう? 仕方ないわね……。じゃあね、クロ、シロ。みゃーお」


 わざわざ猫語(?)で挨拶をする緋色。猫たちはやっと解放されたとでも言いたげに、ぴゅーんと走り去った。


「にゃー……なによ、昌國」


「え? いや、なーんも?」


 遠ざかる背中にまだにゃーにゃー言っている緋色を見ていると、無性にいじりたくなってきた。


「猫の鳴き真似、可愛いなーなんて思ってさ」


「か、かわっ……!? なに冗談言ってんのよ、ばか! 耳腐ってんじゃないの!? チャラ國!」


 おお、ツンツン口調炸裂。


 ……つーか、いま聞き捨てならない単語が聞こえたような。


「おい、チャラ國って言うなって言ったよな、緋色?」


「えっ……」


 わざとらしく笑顔を浮かべ、身長差を思う存分利用して見下ろしてやる。すると勘のいい緋色は、踵を上げ背伸びをし、子猫が牙を剥いて威嚇するようにしていたのが、わかりやすいほどぎくりと顔をこわばらせた。振り上げられたちっちゃな拳もぴたりと止まる。


「ほんと、人が気にしてんのにひどいよなー、なあ、ネコ緋色?」


 ぽちっとな。


『にゃー、にゃー』


「ほら、ネコ緋色も同感だってよー」


「な、ななななな……っ!」


『にゃー、みゃーぁお。えへへ。うにゃあ』


 緋色の糖分百パーセントな甘ったるい声が、俺の携帯から響く。


「な、それ、私……っ!?」


「無自覚って怖いよなー、はっはっは。さて、海咲にでも売りつけるか」


「うにゃああああああっ!! やめなさい、ばか國ー!」


 絶叫した緋色は、パニック状態で携帯めがけて突進してくる。

 ひょい、と腕を高く上げると、小柄な緋色はぴょんぴょん飛び跳ねても届かない。顔を真っ赤にして懸命に手をのばしている。


 ……なんだ、これ。楽しい。


 男子としてはあまり背が高くない俺(平均以上はあると信じているが、中途半端なのだ)にとって、緋色みたいに低い背丈の奴はいじりやすくて仕方がない。


「よし、学校行くかー」


「あーっ! 待ちなさい、昌國! このーっ!」


「はっはっは」


 青空の下、心の底から笑う俺に、怒りに顔を真っ赤に染めた緋色が携帯を奪おうと必死にまとわりついててくる。


 一度ぴたりと立ち止まり、緋色が油断した瞬間、一気にダッシュ。


「こーこまーでおーいでー」


「もう……っ待て昌國ー!!」


 鬼ごっこを繰り広げながら教室に着いた頃には、緋色はもうへとへとになっていた。



『皆さん、おはようございます。今日は9月18日。天気は晴れ。玄武祭が終わって一週間ほど経ちましたね。わが校は文武両道がモットーですので、皆さん、そつなく頑張りましょう。もうすぐ、朝の読書の時間です。席に着いて、本の準備をしましょう。担当は、玄武高校放送部でした』


「お、放送部か」


 スピーカーから流れたアナウンサーばりの女子の声に足をとめる。さすが強豪と謳われる放送部、発音も滑舌も完璧だな。素人目(耳?)にそう思っていると、


「ま……昌國。あんたねぇ……っ。このっ、ばけー!」


 ぜぇはぁ言ってる緋色が、やたら重いカバンで殴りかかってきた。


「いって! え、『ばけ』ってなんだ?」


「えっ! ……う。ば、『ばか』と『ぼけ』が混ざっちゃった、のよ……」


 かああぁっと真っ赤になったあと、両手の人差し指の腹をちょんちょん合わせるという動きをしながら目をそらす。


「ははっ。ウケる」


「なっ! 笑わないでよ、昌國ー!」


「席着け阿久間ー! あと村崎!」


 また騒ぎはじめたところに、いけちゃんの怒声が飛ぶ。ホームルームとかのときにはやたら厳しいのだ、この担任は。そのことを、クラスの全員が4月のはじめに思い知った。


 また雷が落ちる前に、大人しく席につくことにする。


 はー、楽しかった。満足感に口元をゆるめていると、


「……意外ー」


「え?」


 前の席からのこの言葉に、きょとんとする。


「あ、はよ、花音かのん


 いつの間にか椅子に座ったまま振り返って俺を見上げている子リス……もとい、我がクラスの小動物、マスコットキャラ的存在の女子は挨拶した俺に、や、とフランクに片手を上げ応えた。


 机の上にちょこんと指先を置いた仕草が、(他の男子いわく)愛らしい。

 くりくりした大きな瞳、ぱっちりとした二重。肩にかかるくらいの、ストレートの黒髪。背は緋色とそう変わらない。


 緋色よりはるかに可愛らしい雰囲気の、仲原花音。


「おはよ。“あの”昌國が、みーちゃん以外の女子相手に素で話してるなんて。珍しくない?」


 淡々とした口調で、緋色に聞こえないようになのか小声で不思議そうに訊いてくる。ちなみに「みーちゃん」ってのは海咲のことだ。似合わないほど可愛い呼び名だな。


「え、そうか?」


 俺が自分相手には素で接してないと暗に指摘してきた花音に、とっさに愛想笑いをつくる。けれど花音は表情を変えず俺をまっすぐ見据え、


「自覚ないの? だって昌國って、体格がいかついし、目つきも不機嫌そうだし、見るからに近づくなオーラ出しまくってるし。女子は近寄りがたくてしょうがないって。男子でもこわがってるひと、結構いるらしいよ」


「……そ、そこまでなのか?」


 見た目に似合わずクールでシビアな花音の、身も蓋もない言葉に、俺は席につきながら眉根を寄せた。


 確かに自分でも愛想のない性格だとは思う。実際、人間嫌いだし。

 でも、まさかそんなふうに見られていたなんて……いや、思い返してみれば、ヤンキーもしくはヤのつくお家の跡取りなんじゃないかとか、ひそひそ言われているのを聞いたことがあるような……。


 考え込んでいると、「眉間に皺」と指摘される。


「そ。ほら、今もすっごい不機嫌そうに見えるし。だから、緋色ちゃんと話してるあんた見て、驚いたよ。あんなに表情がころころ変わるんだから」


 花音の言葉に目を見張る。驚いたのはこっちだよ。


「驚くほどか?」


「うん。なんか、変わったよね、昌國。緋色ちゃんが来てから」


 さらっと放たれた言葉に、どきっとした。


 緋色が……?


 そっと隣の席に視線を向けると、視線に気づいた緋色がぎろりと睨んできた。

 ほんとに勘がいいな。怖っ。


「仲いいんだね」とマイペースに呟く花音。おまえの目には特殊なフィルターでもついてんのか? 冗談じゃなく、殺気の含まれた視線だからな?


「昌國。ちゃんとさっきの録音消したでしょうね」


(……え? ああ。緋色のにゃんこボイスか)


 そういやすっかり忘れてた。もしかしてそれが気になって、俺と花音の会話が聞こえてなかったんだろうか。


「いや? まだ」


「は、早く消しなさいよっ。ばか國!」


 ホームルーム中なのを気にしてか、小声で話していたのが、「ばか國」のところだけしっかり大声を出している。


「そこー、痴話喧嘩はいいけど、ちゃんと聞けよー?」


 当然ながらいけちゃんに目ざとく見つけられ、クラスの奴らがこっちを向いた。くそ、最後尾ってなんか不利だな。いや、なにが不利ってわけでもないけど。


「……すみません」


 そして緋色、赤くなるな。なんでこういうときだけ恥ずかしがるんだよ。


「うむ、よろしい」なんて満足気にうなずいたいけちゃんは、ホームルームを再開する。


「昌國。緋色ちゃんが睨んでるよ」


 え、俺のせい?


「はい、じゃあ今日は特になんっにも連絡はありませーん! あ、そういえばテスト、もうすぐだからな~。じゃ、よろしく」


 なかなかに重要なことを「今日の朝メシ鮭だった」くらいのノリで口にして、いけちゃんが教室を出ていく。


「まったく。静かにしろって言うわりにいつも『特になにもなし』で終わらせるよね、いけちゃん」


「だよなー。はあ、かったりぃ……。つーか、なんか退屈だな。なんかない? 花音」


 一限目がはじまるまでのこの微妙な空き時間が、退屈だったりするのだ。


「退屈……するひまないと思うけど」


「え?」


「……まーさーくーにー?」


 あれ? 地獄の魔王みたいな声がするよ、おとうさん。


「魔王」っていうあの歌、妙に記憶に残ってんだよな……。「おとーさん、おとうさん」のとことか。

 そういや、「さぎり」ってなんだっけ?


 なんて現実逃避気味に考えながら、ゆーっくりと首を右に向ける。


「はーやーくー……」


 地獄の底から響くような低い声が、立ち上がった緋色の口からもれている。


 うつむいた顔は長い黒髪に隠され、だらりとした両腕も相まって魔王よりも某白ワンピースな永遠のホラーヒロインを思い出させた。


「録音、消しなさいよ……」


 前髪の隙間からのぞく瞳に、危険な光が宿っている。な、なにか目醒めかけていらっしゃる?


 命の危機を感じた俺が、サボり上等と逃走を図ろうとしたそのとき、始業を告げるチャイムが高らかに鳴り響いた。臨戦体制に入っていた緋色はスピーカーをひと睨みして「む」と呟くと、大人しく席についた。どうやら授業は真面目に受ける派らしい。


 いつもは煩わしいチャイムの音に、俺は初めて感謝したのだった。



「――つまり、この登場人物がこのときこうしたのは……」


 この単語はこういう意味だからうんぬんかんぬん。ここの文法がほにゃらら。古典教師が滔々と説明する声が教室に響くが、俺にはお経にしか聞こえない。


 机に頬杖をついた俺の耳に、隣からさらさらとシャーペンを走らせる音が聞こえてくる。

 緋色は生徒としては真面目なほうで、授業中に隣を見れば真剣な顔で前方を見据えている。


 いつもの仏頂面やら、怒った顔やらとは違って凛とした空気をまとった横顔を、授業なんざほとんど聞いていない俺は見るともなしに眺めていた。

 その視線にすら気づかないほど、緋色は集中しているらしい。こんなに勉強に励む高校生なんて、今どき珍しいよな。


 そっと見回すと、クラスの奴らはほとんどが小声で談笑したりうわの空だったり夢の世界に旅立っていたり、中には机の下に隠してケータイをいじったり漫画を読んだりする輩までいる。俺もその一人だが。最近はしてないけど。

 前の席では、花音がぱたりと突っ伏している。


 進学校である我が校のなかで、少々“やんちゃ”なメンバーが揃ったこの教室では、緋色が一番勉強熱心と言えるだろう。あ、あと小松とかもいるか。


(まあ、そうだよな……。こいつの境遇考えたら)


 アムリタから少しだけ聞いた、緋色の過去。あれが本当なら、緋色はこっちに来てはじめて、学校生活というものを送っているのだ。


 学校に来て、授業を受けて、海咲たちとじゃれあって(?)いるときの緋色は、いつもどこか楽しそうだ。小学校から中学校まで義務教育で、高校も「行っておいたほうがいいだろ」くらいの気持ちで入った俺は、そういう感覚が麻痺しているのだろう。


 ノートに書かれた字は筆圧が強いのか濃いめで、力強くも整っている。


(こいつの書、早く見てーな)


 書道部に入部し、めきめきと上達しているらしい(海咲談)緋色だが、「見るなバカ」といつも作品を見せてくれないのだ。この前なんかは冷血女子の柳川までもが参戦して、俺は久しぶりに参加したその日の部活のあいだ目隠しで過ごす羽目になった。……なにがあったのかはご想像にお任せします。


 まあいい。今度大会に出品するときに嫌でも見られるからな、ふはは。なんてほくそ笑んでいると、


「はい、じゃあ村崎くん、この助動詞の意味は?」


「へ?」


 ……当てられた。

 古典の松宮先生がにっこり笑顔でこちらを見ている。あれ、目が全然笑ってませんよ?


「ほらぁ、村崎くん。助動詞は夏期補習のときにさんざんやったよね? 私の血と涙と汗とこぼした紅茶の結晶たる助動詞特訓プリントを、無駄にするわけないわよねー?」


 あ、それで印刷したばかりのプリントのはずなのに、しみが付いてたのか……じゃなくて!


 平安時代にいそうなおっとりとした物腰と顔つき(余談だが、愛読書は源氏物語)で、周知の妄想狂でもある人妻で子持ちの松宮先生は、一度狙った獲物(生徒)は逃がさない、ある意味おそろしい先生だ。


 やべえ。助動詞なんてとっくに記憶の彼方だぞ?

 冷や汗がたらりと流れる。


 松宮先生が示している黒板の文字列を凝視する。


『白玉か 何ぞと人の問ひしとき 露と答へて消えなましものを』


 伊勢物語の『芥川』に出てくる歌だ。一緒に駆け落ちした女性が鬼に喰われてしまい、悲嘆にくれる主人公の“男”の心情を表している。


 ……と緋色のノートに書いてある。なるへそ。


『な』の横に、助動詞であることを示すオレンジの線が引かれている。


(うーん……。『な』……)


 だめだ、わからん。困ったので周りをそっと見渡すが、我関せずといわんばかりに俺と松宮先生の戦いを無視している。

 昔から文系教科は苦手なんだよな……と逃避気味に遠い目をするが、それがわざわいした。


 頭に浮かぶのは、魅惑的な闇色の長い髪。


(……助動詞はともかく、この“男”、なんか気に入らねえな)


 暗い感情がどろりと心を侵食してゆく。


 最初から身分違いの……“叶わない恋”だということくらい、この“男”もわかっていたろうに。

 駆け落ちなんかして、その後どうするんだよ、生活。現実見ろよ。

 そのうえ、あっさり“女”を鬼に喰われるなんて……。


 本当に大切なら、


 どうして、目を離した。どうして想像しなかった。


 どうして――!


「村崎くん……? 黙ってないで答えようか?」


 あ、鬼が見える。


「あのね」と松宮先生は重々しく語りだす。


「村崎くん、たしかに青春時代は一度きりよ。学校なんかより、小説や漫画を読んだり音楽を聞いたり恋をしたり、青春したいっていう、その熱い思いはよぅくわかるわ。でもね!」


 ……なんか俺の行動パターン、先生に完全に把握されてないか? おそるべし、松宮女史。

 あと、青春なんかしたくねぇんだけど。


 俺の心の声はもちろん届かず、松宮先生は舞台上でスポットライトを浴びる女優のように両手を大仰に、かつ優雅に広げ、高らかにのたまった。


「この、高校生活こそが! きみの青春の舞台なのよ! ボーイズ・ビー・アンビシャス! 夜は短し恋せよ少年! 燃えて散るのが華! はい、答えをどーぞ!!」


 誰か彼女を止めてください。


 クラスの奴らは「あーまたか」って顔で、完全に白けている。海咲はニヤニヤしてるけど。緋色は依然として真面目な表情……って、ノートにメモしなくていいからな?


 しかし松宮先生は空気を気にするひとではなく、


「ほらあ。早く答えないと、助動詞プリント秋の陣が起こっちゃうよ?」


 い・やー!


 ちょっと待てちょっと待て、ちょっと待ってつかあさい。それはつまり、あの膨大なプリントをまたやるってことか? 勘弁してくれ。


「えーっと、な……な……」


 くそっ、なにも浮かんでこねえ。確か、『なり』が『断定』だったよな? あ、『な』だから違うか。

 大量の『な』が頭のなかでくるくる回る。ななななな……。


 こんなに頭をフル回転させたのは、いつ以来だろうか。


 少しでも課題を減らしたいという俺の思いが今、宇宙の彼方からイスカンダルを突っ切って未知なる力を降臨させる!


(とかだったらいいのにネー)


 結論、わからん。


 頭が知恵熱を起こしそうだ。『な』ってなにそれ美味しいのか?

 松宮先生の細い目がぎらりと光り、雌雄が決しようとした、まさにそのとき。くいっ、とシャツの裾を引っ張られた。


 ん? と視線だけを下に向けると、緋色が机に『強意!』と書いていた。これは、もしや?


(緋色……)


 俺は不適に笑って、


「『強意』ですよね、先生?」


「はーい、よくできましたぁ」


 かくして、助動詞プリント秋の陣は回避されたのであった。……感動もなにもねーけど。


「ありがとな、緋色」


 椅子に腰をおろしながらそう言うと、緋色はむっとして答えた。


「別に、昌國のためじゃないし。授業が進まないじゃない、ばか」


 そう言ってそっぽを向いた顔は、少し赤くなっていて。

 照れ屋でもあるんだな、と俺はくすりと笑った。


「いやー、青春っていいねー、アクマちゃん最高。昌國消え失せろ。つーか爆発しろ」


「そうねぇ~。私も戻りたいわぁ。光の君に恋してたあの頃に……!」


 そこの二人、黙らっしゃい。



 さてさて、時は流れて百年後……じゃない、昼休み。俺たちはいつものごとく屋上で輪になって座り、各々の昼飯を食べていた。


「ねーねー、緋色ちゃんって前はどこに住んでたの?」


 サラダスパゲッティを食しながら、おもむろに花音が口を開いた。キャベツをはむはむと噛む様子はまさにウサギだ。


「そうそう。緋色、全然そういうこと教えてくれないしさ~。教えてよ」


 チョコ菓子を手にはきはきとした口調で話に乗ってきたのは、早々とパンを胃に納めた水戸あきほ。花音とは中学以来の友人らしい。

 そう、この二人も、屋上メシ組に加わったのである。緋色とは文化祭以来、親しくしている。


 すでに暑さがやわらいだ秋晴れの空の下、心地よい風が吹く昼時。屋上はなかなかに快適だ。

 本来ならば鍵がかかっていて、生徒は立ち入り禁止になっているこの場所を何故、一介の生徒にすぎない俺たちが占領しているのかと言うと……。


「あたしも知りたいな~、アクマちゃんのこと。ついでにその麗しい体のすべても。いや、むしろそっちがメインで」


「変態は黙っとけ、海咲」


 緋色ラブな変態という名の女子高生にしてやんごとなき家柄のお嬢様だという、海咲が鍵を持っているからである。どうやって手に入れたのかは、考えるだけでおそろしいから尋ねたことはない。知らぬが仏だ。


 こいつに会って以来、俺のなかの『お嬢様』像はどんどんねじ曲がっていっている。訴えてやろうか。


「変態とは失礼な。いっぺん氏んでこい、昌國。でもほんと、アクマちゃんは秘密が多すぎだよー。家にも行ったことないしぃ」


 いや違う漢字に変換しても誤魔化せないからな。

 じと目で睨んでやるが、そんなことを気にする華宮海咲ではなく。


「えいっ! 教えてよ~!」


「ひゃあっ!」


 がばっと抱きつかれた緋色はびくりと跳ね、エビカツサンドを落としそうになっている。いきなり触られるのは苦手らしい。


 あわあわと緋色がこちらを見るが、止めようとすれば海咲が俺にだけ殺気を向けてくるので、どうすることもできない。


「こら海咲、やめなよー」


「いーやー。アクマちゃんが洗いざらい吐くまで、離れないもん」


 あきほの注意も聞かない。吐くって。食事中だぞ、おい。

 すっかり甘えん坊の子どもと化してしまった海咲を呆れながら見ていると、


「ま、昌國っ。助けなさいよ!」


「いやムリ」


 焦った様子の緋色に、俺は即答。


「なんでよ!」


 だから、俺が殺されかねないんだっての。


 にやりと笑った海咲は意気揚々と、


「よっしゃ。まずはスリーサイズからお聞きしましょうか?」


「えっ」


 いきなりそれかよ。


「む、無理!」


「えー。じゃあこの場で測ってあげませう。まずはBから――」


「うにゃあああぁ!?」


 貞操の危機を感じたのだろう、緋色は火事場の馬鹿力で立ち上がると海咲を振り払い、狭い屋上を逃げ回る。


 それをハンターの目をした海咲が追い回し、それを止めようとあきほが追いかける。

 静かな空の下で、およそ穏やかではない鬼ごっこが繰り広げられる。


「――ごちそうさま。あれ、にぎやかだね」


 あっけらかんと呟く花音。


「おまえも参戦してみたらどうだ、花音」


「やだよー。あたし、足おそいし。てゆーか、昌國さ」


「なんだ?」


 すると花音は淡々とした表情のまま、少し間をおいて、


「ハーレム、だよね」


 いつも眠そうに見えるたれ目がちの大きな瞳をきらり、と光らせ言った。


 …………はい?


「だってさ、女子4人に男子1人だよ? シチュエーションだけ見れば、ハーレムフラグ立ってるよ。まあ、あたしたちは昌國のこと好きにはならないから……残念だったね」


 いや、なにがだよ。

 別に好かれようとは思ってないわ。


「あのな。俺は別に、そんな趣味はないからな?」


「でも、楽しそうじゃん」


「え……」


「いつもより、ずっといい表情(かお)してるよ、昌國」


 そう言って、花音は静かに笑った。



「ねー、あたしたちって、なんで走り回ってたんだっけ?」


 大の字に寝転んだ海咲に、座り込んだ緋色は、


「私知らないわよなにも知らないわよ覚えてないわよ」


 棒読み口調でまくしたてた。


「ありー? まあ、いっかぁ。

 あ、みんなっ、仰向けになって」


「はあ?」


「え?」


「ん?」


「なんだよ、海咲……あ」


 みんなして首をかしげながら、言われるままに寝そべってみる。温められたコンクリートが、案外気持ちいい。


 すると、どこまでも青く晴れ渡った秋の空が、いっぱいに広がっていた。いつもは見上げている空が、とても近く感じられる。


「きれー……」


 花音がちいさな声で呟いた。


 地上で起こっているもろもろのことなんておかまいなしに。空は好きなときに晴れて。好きなときに曇って。雨や雪を降らせて。


 だけど近い、空。どこまでも広がる、天――。


 心地よい風に誘われるように、言葉が口をついて出た。


「俺さ、空に行きてーな」


「え?」


「ん?」


「へ?」


「いきなりどうしたの、まーくん」


 緋色と花音、あきほに続いて海咲が、疑問の声をあげる。


「いや、なんかさ、気持ちよさそうじゃん。広い空に一人だぜ? 他には誰もいなくてなにもない。自由になれそうだよなー」


 あー、同感、と海咲たちがうなずく。


 チャイムが鳴り響き、五限目が始まる5分前になったため、いそいそと片付けを始めた。


「ほら、緋色。行くぞ?」


 まだ寝転んでいる緋色に手を差し出す。


「……私は」


「ん?」


 ぽつり、と緋色が呟く。


「私は、誰かがいてくれないと嫌。そう、思うわ……」


 秋色の瞳が陰る。痛々しい叫びが滲んだかすかな声に、胸を冷たい手ですっと撫でられた心地がした。


「……俺も」


「え?」


「俺も、誰かがいないとダメかもな、やっぱ」


 言ってしまったあとで気づく。


(そっか、俺、そう思ってたのか……)


 どうして、自分でも知らなかった本音を、もらしてしまったのだろう。


 この、澄んだ秋の空のせいだろうか。それとも――。


 三人の呼ぶ声がする。


「行くわよ、昌國」


 緋色が、俺の手を掴む。


 確かにここにあると言うように、強く。


「ああ」


 その腕を引っ張り立ち上がらせながら、俺は自然と、微笑んでいた。



 ―*―



 玄武祭の余韻に浸る生徒たちの尻を叩くように、ハードな授業が午後も続いた。


 進学校なんだからそこは当たり前なんだろうが――部活に向かう奴らの、すでに疲労困憊の様子を見るにつけても、『文武両道』を校訓に掲げたうちの学校の部活動への力の入れようは半端ない。吹奏楽部なんかは、運動部並みの体力を秘めていると噂されている。


 とはいっても、さすがは部活に生きる高校生。先輩を見かけるとすぐさま、大声で威勢のいい挨拶をする。

 今も俺の隣で、小松が空手道部の先輩を見つけ「ちわっす!」と叫んだ。いかにも青春してます、という声だが、隣の俺としては耳が痛い。


「じゃーな、小松」


「ああ、じゃーなー」


 空手道部の活動場所となっている空き教室の前で小松と別れ、昇降口へと足を向ける。


 昇降口で外靴に履き替え、中庭を抜けて外階段を四階まで登る。これらの面倒くさい道順を経て、ようやく書道教室に到着するのだ。


(いつものことだけど、ほんとだりぃな)


 コンクリの階段に足をかけながら、はあ、とため息が出る。いや、言うほど真面目に部活行ってるわけじゃないけど。


 もうすぐテストがあるから……明日からは部活動停止か。


(今日でこのくそ長い階段とも、しばらくおさらばだな)


 そう気を奮い立たせ、踏み出した足に力を入れた。



 まだ寒さを感じることのない秋の書道教室は、しんと静まり返っている。


 文化祭終了後、また元どおりのボロい……いや、年季を感じさせる深い味わいのある雑然とした部屋に戻ったそこは、墨の匂いが漂っている。


 ふつうの教室二つ分の広さで、木の棚やロッカーなんかが壁の大部分を埋めている。窓際には水道も設置されている。

 薄くかたいカーペットが床に敷き詰められた畳の上に敷かれ、さらに今はその上に毛氈もうせんが六枚、広げられている。


「はあ~。よっこらせっと」


 部活用のスリッパを脱ぎ、畳の上にあがる。薄っぺらい濃紺の毛氈に、ばったりと倒れこむ。なんか、眠ぃ……。


 心地よい室温に、やわらかな夕暮れの光。

 迫るテストについてうつらうつらと考えながら……俺は、いつしか眠っていた。



 ――――――

 ――――



 ――どうして?


 何度も頭のなかに響く、問い。


 ――どうしてだよ、答えろよッ!


 俺のものとそっくりだと言う声も、爆発するように響く。


 世界が割れた、心地がした。あの日。すべて壊れたんだ。あのときに。


 儚い容貌の女性の口が開かれる。


 ――だって。


 ああ。


 言わないで。頼むから。どうして。何度も何度も。思い知らされる。


 虚ろに響く、その澄んだ声。


 どれだけ忘れたいと願っても消えない、言葉。


 ――似てるんだもの


 似てるんだもの


 似てるんだもの


 ニテルンダモノニテルンダモノニテルンダモノニテルンダモノ


 もう嫌だ。


 許して。助けて。誰か。


 ダレカ――。



 ――昌國


 そうだ。俺は、昌國なんだ。“あいつ”の代わりじゃない。


 ――昌國


 もう一度。


「もういちど、呼んで……」


「呼んであげるから殺されなさい。私が魔女になるためと思って」


「丁重にお断わりします」


 反射的に答えた。


 一気に五感が覚醒するようになったな、俺。なんか切ない。


「即答っ!? 寝ぼけてるみたいだから、いけるかと思ったのに……! ばか昌國。永遠に眠りなさい」


 目を開けると、ふてくされた緋色の顔があった。なぜ罵倒されなきゃならんのだ。


 それにしても、またあんな夢を見ていて、緋色に起こされるとは……。なんか前にも、こういうことなかったか?

 ひとまずそれは置いといて――そばにぺたりと座り込んだ緋色を、目を細めて見上げ、


「寝込みを襲うとは卑怯な」


「あんたに卑怯なんて言われたくないわよっ。寝言なんか言って、隙がある昌國が悪いんだから。まったく、なんかうなされてたから、心配したのに……」


 最後のあたりは早口で、よく聞こえなかった。


「? なんか言ったか?」


「なっ、なんでもないわよ……! ええい、大人しく殺らせろー!」


 体を起こしつつ顔を近づけると、緋色の顔は何故か赤く、どんどん赤みを増していく。そして、急にやけになったように飛び掛かってきた。


 中途半端な体勢だった俺は、とっさに避けられるはずがなく。


「うおっ!? なにがあったか知らんが落ち着け緋色」


「知らないにゃらいうなー! ばかー!」


 緋色はぽかぽかと俺を叩きながら、子供じみた声で怒ってくる。顔は赤く、ろれつも回っていない。


 つーか、ひとつ言いたい。スカートのなかが見えそうなんだけど……! 動きにあわせて「ひらひら」と揺れるスカートから覗く太ももから必死に目をそらす。


 な、なんだ? 酒でも飲んだのか? こいつ。

 やわらかな重みを感じつつ目を白黒させていると、


「ぴんぽーん。まーくん、だいせいかーい」


 犯人はおまえか。


 先ほど俺が入ってきたドアががらがらっと開かれ、それはもう楽しげな笑みを浮かべた海咲が現れた。


「ふっふっふ。どんなアクマちゃんが見られるかと期待していたら、想像以上ですなぁ」


「なにしたんだよ、おまえ」


 睨みつけると海咲はあっけらかんと、


「ん? いやあ、アクマちゃんがだるそうにしててね。どうやら風邪ひいたっぽいから、あたしの秘薬、風邪薬代わりのお酒を少々……」


「ようするに酒を飲ませた、と」


 簡潔に話をまとめながら、俺は内心動揺していた。


(緋色のやつ、風邪ひいてたのか?)


 今日は緋色観察日と称し、緋色の様子をよく見ていた、はずなんだが……まったく気づかなかった。ちょっと反省。


 そんなこと知ったこっちゃないと言わんばかりに、リズミカルにぽかぽか殴ってくる緋色に手を焼いていると、


「それで、アクマちゃんお酒飲んだことなかったみたいで、結構たくさん飲んじゃったんだよねー。どうしようかと思ったんだけど、平気な顔で教室出ていったからさ、お酒強いのかなー、でも酔った様子が見たいなーってことで尾行してきたんだよん」


「尾行もなにも、おまえ書道部だろうが」


 呆れてツッコむ。

 サボり魔の海咲は、放課後になるとどこへともなく消えていくのである。最近は緋色目当てできちんと部活に参加しているらしいが。もう一人の幽霊部員については、俺は顔すら知らないし……なんというか、自由な部だ。


「それにしても」


 海咲がにひひと笑う。


「ずいぶん過激な単語が聞こえてきたんですけどねえ? 『寝込みを襲う』とか『やらせろ』とか」


「はあ!? そんなにヘンな言葉でもないだろ。おまえが変態なだけだ」


「そうだそうだーっ! やらせろましゃくにー!」


「落ち着け緋色正気に戻れ……!」


 やたら楽しそうに、赤ら顔の緋色がえへへと笑う。子どもっぽくて可愛いな、なんて思ったりしてませんよ?


「まあいいじゃん。つーかさあ、その体勢……いやーん」


「へ?」


 にやにやする海咲に、ちょっと待てよと今の状況を整理する。寝転がっていた俺に緋色が飛びついてきて、今現在も俺の上に乗っているわけで。


 つまりこれは――


「馬乗りってエロいよなー、さて柳川」


「いっぺん死ねば? 村崎と一緒に」


 ああ、さらにややこしい事に。


 吉井先輩が涼しげに笑い、柳川が無表情に殺気を放っている。わー、ひさしぶりに幽霊部員以外の書道部全員集合ですねー。


「……って」


 馬乗り……だと……!?


 いや、いかんいかん、まずい。なにがどうとかないがとりあえずまずいだろこれ! ジーザス!?

 がばっと起き上がり、膝に乗ったままの緋色を引き離しにかかる。


「緋色、とりあえず降りようか」


「いやー!」


 えええええ。


 どうやら緋色さん、酔っぱらって幼児化しているご様子。コアラのように、ぎゅっと抱きついてきて離れない。


 押しつけられた体は潔いほどに凹凸がないが、なにしろ女子だからやわらかいわけで。体温がどかんと上がるのを自覚する。


(どうすんだ、これ……ん? なんか、すべすべして……って)


「ぅなっ!?」


 あわあわと動かしていた右手が、スカートのなかの太ももを掴んでしまい、そのなめらかで温かく、なおかつやわらかい手触りに、頬がかっと熱くなるのがわかった。妙な声がもれ、慌てて手を離す。名残惜しさなんてない。ないったらない。


 し、心頭滅却心頭滅却……!


 それにしても、さっきからギャラリーが無言なのが気にかかる。ドアのほうへ視線を向けると、


「……なにしてんだてめぇら」


 先輩もいるけど、上下関係なんかクソくらえだ。今だけは。何故なら、


「え? あたしはアクマちゃんの貴重な甘えん坊ムービーを後世のあたしのために残そうと」


「いやあ、青春っていいよなー」


「先輩のなかの青春ってどうなってんの。とりあえず村崎の『犯行現場』を記録しておかないと――」


「全員携帯を構えるんじゃねー!!」


 海咲たちは全員、携帯電話のカメラのレンズをこちらに向けていやがった。ムービーモードか?


 ……なんだろう、殺意が芽生えた。


「緋色、頼むから離れて。マジで」


「……」


 困り果てた俺は、再度緋色に声をかける。すると、かくんっ、と緋色の体から力が抜けた。もたれかかってきた緋色のつややかな黒髪から、シャンプーだろうか、柑橘系の香りがした。


「わっ。おい、緋色?」


「……スー、スー……」


 はい、大変よく眠ってらっしゃいますね。


 ……今後二度と、緋色には酒を飲ませないようにしよう。脱力感を覚えながら、そう誓ったのだった。



 ―*―



 緋色の酔っぱらい事件から数日後。


「アクマちゃーん、パース!」


「はいっ!」


「おお……絶景かな絶景かな」


「なに言ってんだよ、たっつー」


 バレーボールの授業中、女子の使っている体育館西側を眺めながら感じ入った声をもらしたクラスメイトの「たっつー」に、ボールをパスしながらそう言うと、


「なぬ。昌國貴様、女子高生の神聖な太ももの良さがわからんのか」


「わかりたくもねぇよ」


 スパイクを打ち込む。ちっ、レシーブしやがった。


「ならば目覚めるがよい、昌國よ! まず、女子の太ももとはだな……」


 太ももの美しさについてむさ苦しいほど熱く、延々と講釈するたっつーをスルーしながら、海咲とペアでパスをしている緋色の様子を見る。ボールを必死に追いかけるその表情は凛々しく、他の女子たちに比べて存在感がある。


 バレーの間だけと、海咲に強制的にポニーテールにされた髪が、動きに合わせて楽しそうに揺れる。いつも通りに見えるけど……風邪が完治していないのか、ときおり咳をする。見れば肩を大きく上下させ、息も荒い。


 海咲に酒を飲まされた日、本当に風邪をひいてしまっていた緋色は、「すぐに治るわよ」と病院に行くことを拒んだ。


 が、そもそも、保険証を持っているのだろうか?

 第一、戸籍とかどうなってるんだとは思うものの、以前アムリタに訊いたところ笑顔でのらりくらりとはぐらかされた。細かいことは気にするな、ということらしい。


 緋色のお目付け役という名の世話係であるはずのそのアムリタは今、また不在だ。結構放任主義だな、魔界って。


 それ以前に緋色はどうやら大の病院嫌いらしく、無理に連れていこうとしたら魔法を使われそうになるのだ。


 実際に魔女がどんな魔法を使うのか知らない俺だが、緋色が呪文らしき言葉を発し始めただけで逃げ出してしまう。自宅の天井にブラックホールやらギロチンさながらの刃やらが出現したら、誰だって逃げるよな?


 そんなこんなで、緋色はここ数日、具合が悪そうなままなのだ。運動はできるだけするなよ、とは言っておいたんだが……聞いてないな。すっかりバレーに燃えていらっしゃる。


(緋色……本当に、大丈夫なのか?)


 いつしかパス練習は終わり、コートでゲームが始まっていた。

 緋色は不調を感じさせない素早い動きで、ボールを拾っていく。緋色の身体能力は見た目のか弱さに似合わず高い。中身を知れば納得だが。


 その同じチームで元バレー部の海咲も、見たことがないほど真剣な表情だ。強烈なスパイクに、相手チームの女子たちは恐れをなしている。これ授業ですよね?


(すげーなー)


「だよなぁ。華宮さんの太ももは神だ。神が作りたもうた脚線美……!」


「たっつー、黙っていてはくれないか?」


 つーか、おまえも人の心の声に割り込めるのな。


 もしかしてみんなそのスペックを持ってたり……いや、まさかな。

 嫌な想像を振り払い、さあゲームに集中すっか、と思った、そのときだった。


「アクマちゃんっ!?」


 海咲の悲鳴に近い叫び声が響き、ざわめきが体育館じゅうに広がった。


 嫌な予感がして、俺は女子のコートに向かって走りだした。


「昌國、来てっ!」


「言われなくても来てるよ……っ! っと」


 海咲の声に応えながら、コートの一ヶ所に集まった女子たちの前で立ち止まった。勢いのあまり、前につんのめりそうになる。


 ぎょっとしたような顔で女子たちが退き(少し悲しい)、割れた人垣の向こう。海咲たちが心配そうに見下ろしているのは――やっぱり、緋色だった。


 緋色は苦しそうに息をしながら、床に倒れていた。顔は赤く、汗が頬を伝っている。


「まーくん、アクマちゃんが、いきなり倒れて――」


 俺はすぐさま、緋色を抱き上げた。ぐったりとした細いからだは、異様な熱さを持っている。


「昌國……」


「保健室に連れてくから。先生に言っておいてくれ」


「わかった」


 いつもはふざけている海咲だが、この時ばかりはよけいなことを言うこともなく、しっかりとうなずく。


「頼むな」と言い置いて、緋色を抱きかかえた俺は、ざわめきのなかを入り口に向かって歩きだした。クラス全員の視線がそそがれる。けれど、今は腕のなかで荒い息を吐いている緋色のことしか、頭になかった。


「ひゅーう、お姫様だっこだー」


 前言撤回。

 海咲さん、黙りましょうね?



「舞子先生、いますか――って、あれ?」


 白いドアを開けると、部屋の主の姿はなかった。鍵がかけられていないにもかかわらず、薬品の匂いが漂う静かな保健室は無人だった。


 開け放たれた窓から、微かに風が吹き込んでくる。


(肝心の舞子先生がいないとなると……)


 薬品なんかは全て鍵のかかった戸棚にしまわれており、鍵の持ち主は無論不在だ。


 ともあれ、緋色をベッドに下ろし、そっと毛布をかける。


「はあっ、はあっ……」


 緋色はかわらず、荒い息を吐いている。


「おい、緋色。大丈夫か……?」


 大丈夫じゃないことは重々承知しているが、他にかけるべき言葉が見つからない。もっとがんばれよ、俺のボキャブラリー。


 ベッドの端に腰掛け、汗ばんだ額にそっと手を当てると、高い熱が伝わってきた。


「緋色……」


「うにゅ……まさ……く……」


 うっすらと目を開けた緋色が、潤んだ瞳をこちらに向ける。

 その弱々しい無防備な表情に、不覚にも心臓が跳ねた。耳がかっと熱くなる。


(って、いやいやいや)


 慌てて、頭をぶんぶんと振って邪念を追い払う。ひとが熱だして苦しんでるのに、なに考えてんだ。俺。


 すべてはこの状況が悪い。

 紅潮した頬に荒い息遣い、潤んだ瞳のほとんど無抵抗な女子と保健室で二人きりなんて……どんなシチュエーションだ、おい。


 すっかり馴染みとなっていた場所のはずなのに、緋色といることを意識したとたん、妙に緊張してきた。


「まさ、くに……」


「な、なんだ?」


 ああ、緋色に動揺が伝わりませんように。


「わた、し、もう、だめかも……」


 突然のマジな台詞に、俺はうろたえた。


「なに言って――」


「だから……だから、わたしに、ころされ……な、さい」


「話が繋がってないんだが」


「……人がこんなときまで頼んでるのにっ……!」


 と、緋色は急に起き上がると、


「昌國のばかー! 鬼畜! チャラ國っ!」


 元気に吠えながら、勢い良く枕を投げつけてきた。キャッチしてやったが。

 鬼畜って。また海咲にでも教わったのか? あいつめ。


(てか、アレ?)


 緋色さん、具合は……?


「おい、緋色」


「なによ?」


「熱は、大丈夫なのか?」


「……ぁ」



「……なるほど、つまり」


 数分後。


 こめかみが「ぴくぴく」なっているのが、自分でもよくわかる。


「熱が上がって倒れちまって、注目されて恥ずかしかったから、起き上がれなかった、と」


「……ぅん」


 真っ白なシーツの上にぴしりと正座し、うなだれた緋色がうなずく。


「それで、さらに俺が来て抱きかかえたもんだから、恥ずかしさのあまり黙っていた、と。んで、俺が心配しまくってる今なら殺れるかなー、なんて思った、と」


「……具合が悪かったのはほんとだもの」


「ほう?」


 じろりと睨んでやると、緋色はばつの悪そうな顔でますます身を縮めた。


「本当に、頭がぐらぐらして、目が回って……。でも、」


 額にそっと右手を当てながら、


「昌國がここ触ったときに、なんか楽になって……それで、魔が差しちゃったの、よ……。

 ……ごめん、なさい」


 すっかりしょぼくれている緋色に、俺ははあ、とため息をつくと、無造作に腕を伸ばした。


「っ!」


 緋色が怯えたように目を瞑る。


 ぽん、とちいさな頭に手を置くと、緋色は長い睫毛を震わせながらおずおずと目を開けた。どうやら叩かれるものとでも思ったようだが……そんな反応を見せられたら、怒る気も起きないっての。


「心配しただろ、ばか」


「昌國……」


「具合が治ったんならいいよ、別に。体育サボれたしな」


「……え」


 絶句する緋色にほら、と壁の時計を示す。ちょうどその時、授業の修了を告げるチャイムが鳴り響いた。


「……あー!」


「うおっ。なんだよ、緋色」


「バレー、終わっちゃったじゃない……!」


 ショックを受けたように、緋色ががっくりと両手をつく。

 oとrとzを並べた顔文字を体現する緋色に、


「おまえ、そんなにバレー好きなのか」


「違うわよ。花音たちと駅前のドーナツを賭けて、試合してたのに……」


 海咲がおまえのチームにいる時点で花音たちの奢り確定だろ、それ。


 えっと。つまり、ドーナツが食べられなくなったから落ち込んでんのか?

 緋色がじめっとした声でぶつぶつ呟く。


「駅前のドーナツ……。もふもふでおいしいって海咲が……」


「じゃあ、俺が奢ろうか? 一応、病み上がり記念ってやつで」


「えっ、ほんと!? ……あ、しょ、しょうがないから、付き合ってやらないでもないわ」


 目を輝かせ身を乗り出したかと思うと、顔を赤らめふいとそっぽを向いて偉そうにする。


(ほんとに見てて飽きないな、こいつ)


「じゃあ、海咲たちに言わないとね」


「へ?」


 軽やかな動きでベッドから降りた緋色の言葉に、俺は間抜けな声を出した。


「? なによ、みんなで食べに行かなきゃ意味ないじゃない」


 シューズを履きながら、あっけらかんと緋色が言う。


 あ、そうだよな。なんで俺、二人で行くと思ってたんだろ。

 自分でも首をかしげながら「いや、なんでもない」と言葉を濁した。


 窓のところでふわふわと揺れるカーテンに目をやると、ふと前の――文化祭の準備期間の頃のことを思い出した。女子に椅子で殴られて昏倒するというはじめての経験をした、あのとき。


「なあ。緋色、おまえすっかり海咲たちと仲良くなったよな」


「え?」


 緋色が黒髪をさらり、と揺らし首をかしげる。


 不思議そうにする緋色に、文化祭からこっち、思っていたことを伝える。


「いや、最初の頃はさ、もっとおまえら……なんつーか、距離があったんだよ。でも、今は海咲も花音も、あきほも――おまえの大切な奴なんだなって感じる」


 緋色の家では見られない顔を、学校でたくさん見てきた。


 俺とふたりでいるときとはまた違った、仕草や表情。


 そうさせているのはきっと、一緒にいる海咲たちなんだろう。


「大切、な……」


 言葉を噛み締めるように、ゆっくりと呟いた緋色の瞳が、ふっと陰った。


「でも……私は、海咲たちに隠し事をしているわ」


「魔女のことか?」


 こくりとうなずき、


「もともと、私は“掟”通りに昌國を殺して、そして魔女になるためだけに人間界に来た。人間と親しくなるなんて、考えてもみなかったわ。でも……」


 緋色が顔をあげる。


 窓の外。遠くの秋空を見据えながら、


「海咲たちに出会って、誰かと一緒にいることが楽しいって、また、思えたの。思っちゃったのよ。けれど、私は人間じゃない。本来ならヒトと交わってはならない、魔界の住人。ねえ……昌國」


 俺に向けられた魔女の夕焼け色の瞳には、戸惑いと、切望と、迷いと、渇望と――静かでいてそれでいて激しい感情が、滲んでいた。


「私は、海咲たちといても、いいの?」


 弱々しいその問いかけに俺は、


「答えなんて、もうとっくに出てるんじゃねえのか?」


「え?」


「一緒にいて楽しいってのはな、一緒にいたいってことなんだよ。それに、海咲たちは、おまえの友達だろ?」


 いつか、別れがくるとしても。そこまでは言わなかった。きっと緋色が一番よくわかっているはずだから。


「ともだち……」


 目を見開いたあと、視線を伏せた緋色は、そっとその言葉を繰り返す。


「友達、か。友達……」


 顔をほころばせて、くすぐったそうに何度も、いとおしむように囁く。


「一緒に、いたい……。……ッ!」


 と、急になにを思ったのか、緋色の顔がかあっと紅潮した。


「? どうかしたか?」


「え、あ、そ、そういえばっ。昌國、私、この間海咲に薬飲ませてもらったあとの記憶が曖昧なんだけどっ、なにか知ってる?」


 ぎくっ。


「エ? イ、イヤ、ナニモ? ナニモ知リマセンヨ?」


 慌てたような緋色の問いに、反射的にあさっての方を見る。


 いやあの、ね? 酔っ払った緋色が俺に馬乗りになって殴ってきたりした挙げ句、俺に抱きついて眠ったまま離れなくなったとか、それを海咲が携帯で連写しまくったり柳川が殺したそうな目で俺を睨んできたとか緋色のやわらかさはなかなかのものでしたとか。いや最後のはやっぱ無し!


(……言えねェー!!)


「なに百面相してるのよ、昌國」


「いや、なにも知らない知らない。俺はなにもやってない」


「……」


 緋色がじと目で見上げてくる。


「……言いなさい」


「いや、だからなにも知らな――」


「昌國?」


 据わった目付きをしないでください怖いです魔王降臨デスカ?


 じりじりと、壁ぎわまで追い詰められる。


「早く言いなさ――ぅにょっ!?」


 黒いオーラをまとい、勝利を確信したように邪悪な笑みを浮かべていた緋色はしかし、つまずいて頓狂な悲鳴をあげた。


 そのまま姿勢を崩して倒れかかってきた緋色を、難なく抱きとめる。


「っと。大丈夫か? 緋色」


 背丈の低い緋色は、こうしてしまうと俺には頭のてっぺんしか見えない。

 その髪の、黒蜜のようなつややかさに気づくたび、胸が騒いで。喉がかわく。


 なんて言うんだろうな……これ。あれか、俺はとりあえず綺麗なもんが好きなんだな、イルミネーションとか花火とか好きだし。それだけだな、うん。


 なんて一人で納得していると、


「ま、昌國?」


「なんだ?」


 緋色は何故か、密着した姿勢のまま……いや、気にすることすら忘れているのだろうか、どことなく弱気な声で続ける。


「わ、私ね、海咲たち以外にも、見つけたわ。一緒にいると、楽しいって……思う相手」


「え?」


「楽しい、だけじゃないんだけど……無性に腹が立ったり、胸が苦しくなったりもするんだけど……。そいつは、ね」


 表情は見えないけれど、緋色が緊張し、迷っているのがわかった。


 時計の針の音と、二人分の息遣いだけが、しんとした保健室に響く。

 そのまま固まってしまった緋色に、ぴんときた俺は助け船を出そうと、


「あ、わかった。あの猫たちだろ? あいつら、確かにおまえにまったく懐かないもんなー。苛ついてもしょうがないよな」


 そう言った。すると、緋色はぷるぷると体を小刻みに震わせたかと思うと、


「ばかー!」


「はあ!?」


 真っ赤な顔で怒鳴ってきた。


(な、何故に? なんかやらかしたか、俺)


「ばかっ! いっぺん地獄に堕ちなさい! そうじゃなくて……っ!」


 赤く染まった頬に潤んだ瞳で、緋色が唸る。


 とっさに、暴れるその両手首をそっとつかんで、


「ど、どうした? やっぱり熱下がってないんじゃ――」


「あらあ、昌國くん。女の子を泣かせちゃ駄目よー」


「いや、まだ泣かしてはないからセーフ……え」


「……ぅ?」


 どうやって音をたてずにドアを開けたのか、部屋の主のご帰還である。


 人気のない保健室の、壁ぎわで密着した状態の生徒二人を、白衣姿の舞子先生は困ったように笑って見ていた。


 あれ? これはあれかな、誤解を招くなんとやらというやつか?



「――鍵を掛け忘れたうえに、早く戻ってこなかったのは私の責任だけれど。でもね」


 数分後(例によって、パニくった緋色が落ち着くまで時間がかかったんだ、これが)。


 何故ここ――保健室にいたのかについて説明を終えた俺と緋色の前で、椅子に腰掛けた舞子先生は優雅に紅茶を一口飲むと、ふうとため息をついた。


 なんだか教師に叱られている気分だ。いや、実際そうなんだけど。


 隣に座った緋色は、先生から渡されたミルクティーの匂いを嗅ぎ、おっかなびっくり口をつけて「!」とおいしさに感激したらしく目を輝かせた。明日からうちでも作ってみるかな、ミルクティー。


 先生は教育者として諭さなければと感じたらしく、俺たちを見据えると、


「なんであんな状態になっていたのかは、訊かないけれど。あなた達は年頃の男女なのよ? もう少し自覚しないといけません。俗に言う間違いがなくても、勘違いが起これば……。もし、あらぬ誤解を受けたらどうなるか……わかるわよね? 昌國くん」


 名指しで言われ、一瞬びくっとした。「……はい」


「それならよろしい。緋色ちゃんも、わかったかしら?」


 こくりとうなずく緋色だけど……たぶんわかってねえな。ミルクティーしか見てねーもん。


 それを見てくすりと笑うと、先生は次の授業に遅れないようにと、俺たちを促した。


「じゃあ、ご迷惑おかけしました。失礼します」


「失礼、します」


 会釈して、ドアを閉める。がらがら、と音をたてて狭くなっていく隙間の向こう。


 先生が淡く微笑んだのが見えた。


「……」


「ね、昌國」


「なんだ?」緋色の声に、はっと我に返る。


「……なんでもない」


 俺と目を合わせ――何事か考え込むそぶりを見せたあと、結局そう言って、緋色は駆け出した。


「次の授業遅れちゃうわよ、ほら!」


「ああ」


 後を追って駆け出す。


 四角い廊下の景色が、少しずつ確実に、後ろに流れていく。


 一人だったら、いつまでも足踏みしてしまう場所なのに。緋色がいたら、走り出せる。


(隠し事、か)


 それは、誰にでもあるものなのだ。大なり小なり、秘密は誰でも持っている。


 人に知られてはならない、パンドラの(はこ)とも言うべきものも……。


 俺だって、例外ではない。


 もし知られたらと思うと、どうしてか怖くてたまらない。


 だから。ああ、だから。


(ずっと、知らずにいてくれよ、緋色……)


 情けないことだと自覚しながらも、俺は言葉に出さず、前を走る背中にそう懇願していた。



「え、ドーナツ?」


 ところかわって教室。なんとか間に合った最後の授業のあと、掃除の時間。


 箒で床を掃いていた海咲は、手をとめ目を丸くして俺を見た。


「どうしたの、まーくん。いきなり奢るからつきあえだなんて。……はっ! まさか……。まーくん、やっぱりハーレムの野望が!? あたしは加わらないからね!」


「おーい。海咲、戻ってこーい」


 オーバーアクションで箒を振り回す海咲は、どうやら妄想の世界に“逝って”しまわれたご様子。埃舞ってるぞ。


 残念ながらツッコミ役の花音とあきほ、そして緋色は別の掃除場所なので、今こいつの暴走を止められるのは俺しかいない。

 早くも頭痛を覚えながら、


「だからな、今説明しただろ? 緋色が、おまえらと食いに行きたいんだってよ」


「え。とうとうアクマちゃんがあたしと……イキた」


「黒板消しで顔面綺麗にしてやろうか?」


「ごめんなさい自重します。だってさー、まーくんが奢りなんて、なぁんか裏がありそうで……。餌付けじゃないんだからね? あたしたちは、人間だから」


 いや、いきなり真剣な顔で子どもに言い聞かせるみたいに言わないでください。まるで俺が問題あることを言ったみたいじゃないか。


 幸い、他の教室掃除担当の奴らはいつものごとく各々だべっているので、海咲の誤解を招きかねない発言は聞いていないようだ。


 黒板消しを手の中で弄びながら、


「んー、なんかさ……。緋色が喜ぶなら、いいかなって」


「……へえ。ふーん?」


 急に、海咲がにやりと妖しい笑みを浮かべた。蛇が格好の獲物を見つけたとでもいうような、サディスティックな微笑みにぎくりとする。


 しまった。こいつ最近、ボケ役が板についてきたからすっかり忘れてたけど、サディストに分類される人間だった……!


 しかし、なにがそんなに楽しいんだ? なにか突っ込まれるようなこと言ったか、俺。


「アクマちゃんのこと、ずいぶん大切にしてんじゃん? トクベツな存在、ってやつなのかにゃ~?」


「そんなんじゃねえよ。ただ……」


「ただ?」


「俺にできることは、できる限りやってやりたいっていうか……いや、これ以上はノーコメント」


「ふうん?」と意味ありげな視線を寄越し、案外素直に海咲は掃除に戻っていった。


 俺も黒板の掃除を再開しながら――ちいさくため息をついた。


(俺にできる限り、か)


 思いつくままに答えてしまったけれど、そうなのかもしれない。


 窓の外には、刷毛でさっと描いたような雲の浮かぶ澄んだ薄青の空が広がる。秋は深まり、時間も着実に進んでゆく。


 阿久間緋色は10月31日になったら、消える。それが決まりで、“掟”ってやつらしいから。

 だから、できるだけ緋色には思い出をたくさん、作ってほしい。


 殺されるのは無論、御免だ。今でもそれは変わらない。


 だけど。


 あいつのために、なにかしてやりたい。少しでも多く、ちいさなことでも。


 いつしか、緋色が俺にとって、ただの迷惑な居候ではなくなっていることだけは、確かだった。



 ホームルームが終了し、教室からあっという間に人がいなくなる。


 妙に空っぽな感じのする教室は、まるでにぎやかな人間たちが一斉に消えたことにぽかんと驚いているようだ。


 そんな閑散とした教室に残ったのは、俺と緋色と海咲、花音、そしてあきほの五人。要するに、いつもの屋上メシ組だ。


 ちなみに最近では、1:4という男女比に危機感を抱いた俺が小松を脅し……いや誘い、小松とその彼女である二年生の先輩も加わりつつある。

 ただ、いつも気がつけば二人きりの世界を作っているバカップルだが。く、悔しくなんかないからな……!?


 俺と緋色、海咲の三人はテストの二週間前から部活が休みと決まっていて、花音とあきほは料理部に所属しており、今日は活動がないらしい。つまり全員、暇してるはずだ。


「つーわけで、おまえら全員来るよな?」


 海咲たち三人を見回しながらそう訊くと、


「「「ごめん、今日用事あるからパス」」」


 完璧なハモリで見事にふられた。


「そ、そうか……」


「ごめんねー、うちらは用事あるからさ――二人で行ってきて! ね?」


 やたら『二人で』を強調しながら、あきほがゴメンネ、と手を合わせた。テンション高くね?

 花音はごめんと言いながらも、まったく気にしている様子はない。まあ、もとからクールな性格だしな。

 海咲は、残念がるどころかすげえ笑顔だし。


(なーんか、引っ掛かるような……?)


「行けないんだったら仕方ねぇか。じゃあ、緋色、どうする?」


 隣に視線をやると、


「……」


 わー、すんごいふくれっ面。

 まるで風船のように、ぷくっと頬がふくらんでいる。ちょっと笑いそうになった。


「緋色?」


「別に、なんでもないわよ」


「……みんなで、行きたいんだな?」


「……ん」


 唇を尖らせた、悔しそうな、怒っているような表情でちいさく緋色がうなずく。


「そっか。そしたら、また今度全員で行こうぜ」


「「えっ!?」」


 何故だか、海咲とあきほが声をあげた。


「どうした?」


「い、いや、なにも?」


「あきほ、目が泳いでるぞ?」


「おっ、泳いでなんかないし! じゃあ、また明日ー」


「またね、昌國、緋色ちゃん」


 逃げるようにあきほが、あきほに引っ張られるようにして花音が出ていき、残った海咲も、


「あーあ、ちょっと残念。ばいばーい、まーくん、アクマちゃん」


「え? 残念って……って早っ。またなー」


 ぼそりと呟かれた独り言に、どういうことかと訊こうとすると、かばんをひっ掴んで走り去ってしまった。無駄に綺麗なフォームだ。


「またね、海咲」


 緋色がちいさく手を振る。そして海咲の背中が完全に見えなくなると、はあ、とため息をついた。しゅんと肩を落としている。


 二人だけが残った教室は、次第に眠りにつこうとしているかのように、ゆっくりとした空気が流れている。


「来れないものは仕方ない、か。また今度があるし、気にすんなよ、緋色」


「別に、気にしてないわよっ」


 意地を張る緋色に苦笑しながら、


「ならいいけど。じゃあ、帰るか――……っ!」


 オルゴールの調べが突如、軽やかに流れた。


「わっ。今日マナーモードにしてなかったのか。あっぶねー」


 努めて平静を装いながら、携帯を取り出して開く。

 赤い、二つ折り式のそれを持つ手が汗ばむのがわかった。わざわざ見て確認しなくても、着信音でわかるのに。それはわかりきっているのに。


 携帯が奏でているのは、『アメイジング・グレース』。そして、その着信音に設定しているのはただ一人。あのひとだけだ。


 頭ではわかっていても……それでも送り主を確認しないわけにはいかなかった。


「……」


 題は無題。

 本文も真っ白。

 送信主は――“彼女”。


 ぱたんと携帯を閉じ、ポケットにねじ込む。


「緋色、悪いけど、さきに帰っといてくんねえか?」


「え?」


 怪訝そうな顔をする緋色に、必死でつくり笑いを向ける。


 どうか、どうか、気づかれませんようにと願いながら。


「ごめん、ちょっと用事できちまった。そだ、かりかりぱんだ買って帰るからさ、な?」


「……わかったわ」


 うなずいて踵を返すとドアに手をかけ――緋色が立ち止まる。振り返ることなく、


「昌國。……も、もし具合悪いんなら、早く帰ってくることね」


「……ああ」


 緋色の言葉に、こわばっていた頬から力が抜けるのを感じた。


「じゃあ、待ってるから……かりかりぱんだ」


 そう言い残して、緋色は出ていった。


「――っ」


 衝動的に、ドアに近寄って緋色の姿を見送る。夕暮れの廊下を、ちいさな背中が遠ざかっていく。


 金色の光に包まれた黒髪の少女の背中を、呼び止めたい衝動にかられて――ポケットのなかの携帯を、真っ白なメールを思い出し、がんじがらめにでもなったように動けなかった。


 知らず伸ばしていた右手をぐっと握り締め、ゆっくりと下ろす。こぶしは解かない。


「……行くか」


 自分に言い聞かせるように呟き、長く息をはいて、今度こそ空っぽになった教室から歩きだす。


 “彼女”の待つ場所へ――。



 いつもの場所のドアを開けば、いつものように“彼女”が微笑んだ。


 可憐な清い花のような、無邪気な性質であるがゆえに、残酷な“彼女”。


 いつも通り違う名で俺を呼ぶ“彼女”を、壊れ物を扱うようにそっと、抱き締める。


 むせ返るような、甘い花の香りで頭がぼうっとする。


 首をかしげ、甘い瞳で“彼女”が見つめてくる。とてもとても幸福そうな、輝く笑みを浮かべて。


 “彼女”は村崎昌國なんか、見ていない。その澄んだ瞳はいつも、遠くの過去を、違う男の姿を、見ている。


「――くん」


 紅い唇がとろけそうにやさしい声で紡ぐのは違う名前で。


「好きよ」


 天上からの贈り物のような言葉も、全部そいつに向けられたもので。


 だから何度も何度も、その唇をふさぐ。


 虚しいことだとわかっていても。誰のためにもならないことだと、頭では理解していても。


 純白のカーテンをぴたりと閉じた部屋には、夕暮れの光は入ってこない。


 空っぽになった心が、ふいに軋んだように悲鳴をあげる。それを掻き消すために、“彼女”を利用して、利用されて、熱いのに虚しいキスを、繰り返す。


 いつまで、こうしていればいい?

 もう解放して、許して……。


 そう思う一方で。


 まだ、終わらせたくない。手を離せば……。

 いやだ、イヤダ。いやだ!


 心臓をナイフで掻き回されるような痛みに、絶叫したくなる。頭に響く咆哮、けたたましい笑い声、幾度も打ち鳴らされる鐘の音。すべてがあるメロディーに変わる。知っている、あのオルゴールの調べ。


 狂ってしまえれば、どんなに楽だろうか。

 ぐちゃぐちゃになる思考を、心を、いっそ壊してしまいたい。


「――くん」


 “彼女”の声が。香りが。痛くて。苦しくて。悲しくて。


 ああ。

 お願いだから。

 もうなにも言わないで――。



 ―*―



 冷たい夜道をゆっくりと、うつむいて歩く。


 町中をうろついて、わざと遠回りして、繁華街を通る。夜独特の喧騒を、雑音を聞いていれば、よけいなことを考えなくて済む。


 華やかな出で立ちのキャバクラの呼び込み係に、寄っていかない、と声をかけられる。適当にあしらって、歩き続ける。


(一応、制服を着てるのにな)


 どんだけ俺は枯れているんだか。笑いたかったけれど、顔がこわばってうまくいかなかった。


 雑踏に紛れて歩きながら、何度も唇を手で拭った。


 家に着き、鍵を取り出したとき、かりかりぱんだを買い忘れたことに気づいた。


(あちゃー。まあ、緋色なら許してくれる……わけないか)


 すでに時刻は11時をまわっている。風邪気味だったし、熱も出たりしてたし、もう寝てたりしないかな。


 淡い期待を抱きながら鍵を開け玄関に入り、靴を脱ぐ。廊下を進んで、リビングの手前まで来たとき、ドアの向こうから、うなり声のような……苦しげなうめき声が聞こえた。


 アムリタは最近また魔界に戻っているらしく、今この家にいるのは一人しかいない。

 そう、


「緋色!?」


「ぐ、ぅっ。はっ……」


 慌ててドアを開くと、緋色はすぐに見つかった。


 制服に包まれたちいさなからだが、白いソファーの上に力の抜けた猫のようにぐったりと横たわり、細い左腕はだらりと落ちている。


 また熱が出たのだろう。だけど。

 ただの熱じゃない。


 緋色の様子は、俺の知る熱を出した人間のものとは、明らかに違っていた。


「う゛……っは、あ……ッ」


 細い、ちいさなからだから白いもやが立ち上っている。

 靄?


 腕を伸ばしてそれに触れ――熱さにさっと手を引っ込める。

 湯気!? 嘘だろ。


「と、とりあえず水か……っ!?」

 このままだとまずい。混乱し、バッグを放り出すとコップに水を汲み、触れたら燃えそうなからだに勢いにまかせて水をばしゃりとかけた。


 あり得ないことだが、水は肌に触れることなく、じゅっと音をたてて蒸発した。人体の限界越えてるだろ、これ……そっか、人間じゃなかったな。


「う……まさ、くに?」


「そうだ、俺だ。緋色、どうした? なにがあった!?」


 霧の向こうの夕陽のように虚ろな夕焼け色の瞳が、俺を見上げる。


「熱、上がって……。ちからが、おさえ、きれな……っう、ぅあ゛ああぁあああ!!」


「緋色!?」


 苦しげに身をよじり、胸を掻きむしった緋色が絶叫する。


 オレンジ色の瞳が異様に輝き――瞳孔が収縮し――明るさを増して――金色へと変わった。


 そして、夕暮れに見るはちみつ色とも、朝の清浄な輝きとも違う、目に痛い黄金の光が視界を埋めつくし――。


(ひい、ろ――)


 いきなり水中にもぐったかのように、息ができなくなる。平行感覚がなくなり、耳鳴りがする。体が浮くような感覚、リビングの景色がぐるりぐるりと回る。真っ赤な魔法陣のような、大きく奇怪な模様が一瞬、見えたかと思うと。


 ぶつん。と、テレビの電源を切ったような音がして、俺の意識は途絶えた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ