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マホウは物理でなぐるものっ!  作者: 唯野 みず
第二章 人類を導く正義の女神
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057.同盟の契り

「はあ? 星羅(せいら)騎士団に襲われたぁ?!」


 おれの隣で夕食の準備をしているフィオが驚きの声をあげた。


「ああ。森の入口でな。ほら、この辺を暴れてるっていう鬼と間違えられたんだよ。で、そいつの攻撃をおれが防いだんだ。これの何倍もの大きさの結界を張ってな」


「いやぁ、そんな障壁に覆われた右手を指さされてもな~。ひだり君がその右手でやってるの、反発力高めの障壁を鋭利に尖らせて包丁代わりに野菜切ってるだけだしなぁ。騎士様の攻撃を防いだことの凄さが全然伝わらな……ていうか、結界を応用して包丁代わりにするって地味に凄いな! 突っ込み忘れるところだったよ~」


「この宿に包丁が二本あれば、こんな小手先テクニックを披露しなくても良かったんだが」


 おれは右手を覆った結界を鋭く尖らせ、ジャガイモを適当な大きさにザクザクと切っていく。要はチョップみたいなもんで、切れ味は良好だ。障壁魔法しか使えないながらも、こうやって様々な場面で器用に応用させることが可能になったのは、自分の成長が感じられて嬉しいことだ。日々、トレーニングを積んだかいがあるというもの。


「で、誤解は無事に解けたのですかぃ?」


「それはもちろん。ロロットが賢者見習いだと言ってやったらこちらに謝罪してきたよ」


「それにしてもこの島も物騒になったもんだねぇ。はぉ……私も森に近づいたら騎士様に切り倒されちゃうな~」


「それはないだろ、フィオの魔力は並の人間程度だし。ただ、森には近づかない方がいいだろう。ていうか騎士の人らにも、しばらくは入らないようにと忠告されたんだ。あの人らも九人目の賢者を探す予定らしいが、捜索隊の安全確保のためにもまずは鬼を討伐するんだと」


「はぉ……気ぃ付けるよぉ。運悪く鬼と騎士様の殺し合いに巻き込まれたりしたら、シャレになんないもんねぇ」


 フィオは言って、切ったタマネギと肉を水の入った鍋の中に落としていった。おれも適当な相槌を打って切ったジャガイモを鍋に投入する。


「あ、これジャガイモは後にしとくべきだったか? 最初から入れたら崩れてしまうかな?」


「いいよいいよ~。スープカレーなんだし、溶けちゃったら溶けちゃったで、それを楽しめってことでぇ」


 香辛料とかを鍋に入れて火を掛けるフィオは少々適当気味だが、こなれている手際だ。彼女がそう言うなら、酷い大失敗にはならなそうだ。


「で、どうするんだい? モルフォさんの魔導具じゃあ上手く見つけられなかったんだろ?」


 鍋に蓋をするフィオが痛いところを突いてきた。


「君たちの作戦ってあのペン頼りだったっしょ? それが噛み合わないんじゃあ別のアプローチから攻めてくしかない、わけだけどぉ……」


 視線を感じる。フィオがこちらをじーっと見てきている。しかしおれには何も答えられない。まだ最善の次策を思いつけていないのだ。

 おれは大きなため息をつき、肩をがっくりと落として見せた。


「うんうん、なるほど。まだ何の作戦も考えついてないってわけだ」


「悪かったな! とはいえ、『ペナビゲーター』で上手く探し出せないからって、あれを使わずに探すなんて無謀だからな。せめてあれを有効活用できる方向性の作戦じゃないと、この島育ちでもない、九人目を直接見たわけでもないおれたちでは、九人目を探し出すことは現実的に無理だ」


 無理なんだが……おれも他のみんなも、宿に帰ってきてから数時間話し合ったけれど、未だ『ペナビゲーター』を活かした有効な手を考えついてはいなかった。


 九人目がこちらの同行を把握しているような動き方をしている、というのが一番のネックだった。また、鬼との遭遇の危険もあるため、長時間森の中にいることは避けたい。


 そうなると短時間で九人目を見つけ出し確保するための作戦が必要なのだが、いったい何をどうすれば迅速かつ的確に九人目の居場所を突き止められるのか、そしてその場所に向かうことができるのかが解決できていないのだった。


「じゃあ可愛いフィオちゃんからの提案なんだけどさ。鬼と会わないように気を付けながら九人目を探すっていうのをやめちゃってー、鬼を退治してから探すってのはどうよぉ?」


「は? お前は何を寝ぼけたこと言ってるんだ? おれたちは九人目を捕まえられればそれでいいだけなんだ。鬼を倒すとか、わざわざそんな危険を冒す必要性がないだろ。鬼は賢者に匹敵するくらいの魔力があるヤベー奴って聞くし、無駄なリスクは避けるべきだ。それに騎士団だって九人目を狙ってる。うかうかしてたら先に捕まえられて、ロロットが二つ目のサインを貰えなくなってしまうじゃないか!」


「あーっと……ちゃんと言わなきゃ分かんね? その騎士様だよ、き・し・さ・ま!」


 いったいフィオは何をおれに伝えようとしているのだ? その騎士様に先を越されてしまっては今回の依頼が達成できず、ダンカークからのサインが貰えなくなってしまう。


 いや、それだけじゃない。依頼が失敗すれば帝都で他の賢者におれを紹介して貰うという約束も無効になってしまう。ポーンの持ち主を見つけ出す千載一遇のチャンスが消えてしまうのだ! ロロット絡み以外では賢者との接点がないおれにとって、それはなんとしても避けたいところだった。


「まーだ分かってないって顔してんな~。しょーがない、特別サービスだぞ。よく聞けな。森で会った騎士様が『九人目の賢者の保護を目的としてる』って言ってたんだろ? ということは、騎士様たちはそれなりの人員をこの島に投入してきてるってことさぁ。だからその捜索隊に危険が及ばないよう、鬼退治を最初にしとこって話っしょ?」


「それは、うん。フィオの言う通りだろうな。人海戦術で探すことを前提にしているからこそ、一般騎士に危険が及ばないよう鬼を排除するってことだと思うし」


 …………ん? 待てよ。

 だとするなら、フィオの提案というのは、つまり——、


「おっ! 気付いたって顔したねぇ。そ、つまりはそゆことだよ、ひだり君~」


 九人目の賢者捜索の要であったモルフォの魔導具、『ペナビゲーター』がまさかの役に立たないという想定外の状況。加えて、人手で地道に探そうにも人員が圧倒的に足りない上に土地勘もない。とあっては、フィオの提案が現実的かつ最適解になりうるか?


「フィオ、星羅騎士団がどこにいるか知ってるか?」


「もちもちだよぉ。騎士様たちもこの村を拠点としてるかんねぇ」


「じゃあサクッと教えてくれ。交渉は早い内にやっとくべきだろうからな!」




 そうしておれは、事情を説明した仲間たちとともに翌日、フィオから教えられた星羅騎士団の滞在地を訪れた。森で出会った二人の騎士——剣の男はレイヴン、銃の男はアンドリューと名乗っていた——と、ウィンウィンな契約を交わすためだ。


「おや、君たちは昨日森の入口で会った……ようこそ、星羅騎士団の臨時宿舎へ。何かご用ですか?」


 入口の騎士に訪問理由を告げて待っていると、奥の部屋から出てきたレイヴンに声を掛けられた。昨日と同じ、白い外套に身を包んでいる。


「あなたたち星羅騎士団と交渉をしに来たんですよ」


「交渉、ですか?」


 おれの言葉をレイヴンが不思議そうに繰り返した。


「ええ。そちらにとっても絶対に悪い話じゃあないはず。だからまず、話を聞いて欲しいんですが」


 レイヴンは「分かりました」と返答すると、おれたちを宿舎の奥にある客間へと通してくれた。村長邸の一角を臨時宿舎としているとのことで、客間の内装もフィオの宿と比べたら豪華であった。

 ふかふかのソファに腰を降ろし、おれは手短に交渉内容を白い騎士に伝えた。喋った内容をレイヴンが自分にもう一度言い聞かせるように呟く。


「鬼討伐に協力するから九人目の賢者捜索を手伝って欲しい……」


 彼の顔は少々険しい。おれは間を空けずにこちらの事情を説明した。


「ここにいる賢者見習いのロロットに『土曜の賢者』から課せられた課題が、“九人目の賢者を捕獲すること”なんです。そうしないと二つ目のサインが貰えない。だからおれたちは九人目を追っているんです」


「私には人や物を探すのにもってこいの魔導具があるんですけれど、どうも九人目の賢者はこちらの動向を把握しているみたいで、頼りの魔導具を使っても近づくことすらできません」


 モルフォの言葉に続けておれは再び口を開いた。


「魔導具を使わずに探し出そうにも、こちらには土地勘も人手もない。けれど、同じく九人目を探しに来たあなた方には十分な人手がある。しかし人海戦術を使えば、一人ひとりの騎士が危険な鬼と遭遇する確率が高くなり、たぶん犠牲も多く出ることでしょう」


「そうですね。だから我々は捜索を始める前に鬼を討伐することにした」


「そこで先ほどのお話です。“鬼討伐にこちらも参加する代わりに、こちらの九人目捜索に協力して欲しい”、という。賢者見習いとはいえ、ロロットの実力は本物。彼女自身がまだ戦闘に不慣れなところはありますが、それでも十分に戦力増加が見込めると思います。それから、こちらには何かを探すのに特化した魔導具があります。鬼を見つけるのにもお役に立てることでしょう」


「未だ鬼の居場所を突き止められていない我々としては、その魔導具は確かに魅力的。もちろん、賢者クラスの力を秘めている鬼との戦闘において、未来の賢者様のお力を借りられるのも有難い。しかしこちらも団長の——『日曜の賢者』様からの命があります。君たちに九人目の賢者を渡すわけには…………」


 渋る騎士に、おれは最後の一押しを加える。


「『土曜の賢者』からサインを貰った後なら、九人目の賢者の身柄はそちらに渡してしまっても構いません。それでどうでしょうか?」


 レイヴンは机に視線を落としたまま、微動だにしない。人の息遣いだけが聞こえ、自分の鼓動がやけにはっきりと感じられた数分間後、騎士は、重く閉じられた唇を開いておれたちに言った。


「……分かりました。これより星羅騎士団は、あなた方と協力関係となりましょう!」



つづく

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