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マホウは物理でなぐるものっ!  作者: 唯野 みず
第二章 人類を導く正義の女神
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056.命狙うは騎士の剣《つるぎ》

 ゲコ爺と会った翌日、おれたちは早速九人目の賢者ノエルの捜索を行っていた。地図とコンパスを頼りに歩く成平(なりひら)が先頭だ。昨日手に入った情報を元に、モルフォが『ペナビゲーター』でマークを印した場所はユオニ島の森深く。そこを目指し、道なき道を進んでいく。


「よし。じゃあこの辺で温存していた魔力を使ってもう一度『ペナビゲーター』を使用するわよ。これできっと詳細な位置が分かるはず!」


 モルフォは張り切ってダークブラウンのペンを握るも、一分と経たずして成平に島の地図を要求した。彼から横暴に地図を引ったくると、彼女は今いる場所から北東に離れたところ一帯を丸で囲んだ。


「なーモルちゃん、これはいったいどういうことだ? もしかして、九人目はここにいない……とか?」


「え、ええ。でも、こんなに離れた場所にいるなんて。私たちの行動を事前に知っていないとあり得ない動き方よ。常に動き回っているなら納得できるけれど、子どもの体力でそれができるとは到底考えられないし」


「距離的には一時間くらいか。ここにいても仕方ないし、とりあえずこの印の場所まで行ってみよう」


 ジュジュから地図を受け取った成平が再び森の中を進み始めた。彼の言う通りだ。この場にいても仕方がない。

 おれたちは休む間もなく、新たに印の付けられた北東の場所へと向かう。すでに『ペナビゲーター』を二度使用している。魔導具の条件的に本日はもう使用不可だろう。おそらく、ここからは魔力感知による捜索が中心だ。だからおれは、目的地への道中も周囲への警戒を怠らずに進むようにした。


 一時間後、おれたちは目的の場所に到着するも、辺りには何の気配もなく、ただ静寂だけが満ちていた。


「…………この辺、だよね。間違ってないよね? 成平さん?」


 歩みを止める成平にロロットが少し困惑気味に質問する。


「ああ、間違いないよ。地図を見ることに関しては僕の右に出る人はいないと自負しているからね」


「そっか。間違ってないんだ……」


 ここまで、おれたち以外の魔力は全く感じられていない。そのことをロロットとモルフォに伝えると、彼女たちも同じ感想を呟いた。それが示すのは、九人目は再び別の場所に移動したということだ。

 九人目は本当に、こちらの動きを先読みしているのだろうか?


「これは思った以上に手強い相手だね。一度宿に戻って作戦を練り直すかい?」


「わたしも成平さんに賛成だよ。モルちゃん、今日はもうペンの魔導具使えないし。ここに来て欠片ほども魔力を感じられていないってことはさ、また遠いところにいるってことだろ? そんなの闇雲に探し出せるわけないしさ」


 ジュジュは悔しそうに下唇を噛んでいる。


「『ペナビゲーター』があるからって舐めてたわね。今日の結果を見るに、私の魔導具頼りじゃあ難しそうだし、探し方から根本的に見直さないとダメそうね」


 日はまだ高いが、戻るなら早く戻って作戦会議を開くのが賢明だろう。おれはみんなに声を掛け、今日の捜索を打ち切って村に帰ろうと促した。さて、明日からはどうしたもんか。




 帰路、人の手の入っていない森ももうすぐ終わるというところで、それは起きた。


「————おれから離れろッ!」


 迫り来る敵意むき出しの魔力に気付き、おれは素早く叫んだ。背負っていた杖ポーンを掴んで紐を外し、すぐさま自身を球状の結界で覆う。

 その一瞬後、草木を分けて飛び出してきた何者かの剣の切っ先がおれの障壁に触れた。雷鳴と聞き間違うほどの衝突音が響き、握る杖に重い負荷が掛かる。おれは歯を食い縛って耐え、剣を突き付けてきた空色の髪の男をなんとか弾き返した。


 男は白い外套をはためかせて空中を一回転。そのまま華麗に着地すると、おれから目を離さずに左手を挙げた。

 「なんだ?」と思ったのも束の間。男の背後から何発もの銃弾が飛んできておれの結界に被弾する。一つ一つの威力は強力とは言えなかったが、不意を突かれたこともあり、おれは少し体勢を崩した。その隙を突いて、剣の男が再び距離を詰めてくる。


「はああああああッ!!」


 振り下ろされた剣を障壁が受け止めるも、バランスを欠いた今のおれでは先ほどのように男を吹っ飛ばすことはできそうにない。


 ——防御に徹するのが難しいのなら攻勢に出るべき——!


 そう判断したおれは、結界を解除する際の反発力でもって剣を弾き、男の構えを崩す。続けて、隙ができた男の横っ腹目掛け、握るポーンをバットのように振った。男の体に触れる直前、杖先を障壁でコーティング。

 スピードと障壁の反発力が乗った杖は、おれの狙い通りに男を捉え、


「————グァハッ!」


 苦悶の声とともに男を森の奥へと吹っ飛ばした。


 心臓が今頃バクバクとし出している。いや、ずっと大きく脈打っていたけれど、それに今おれが気付いただけなのかもしれない。なんにせよ、突然の襲撃に対してきちんと反応することができたのは、高速移動を繰り返すショコラとの一戦をロジューヌで経験していたおかげだろう。


「ひ、ひだり君……大丈夫……?」


「まあ、なんとかな」


 あまりに突然すぎる出来事で、何が起きたのかまだ理解できていない様子のロロットへおれは短く返答し、立ち上がりつつある剣の男に向けて強く言葉を言い放った。


「突然攻撃を仕掛けてきて、なんの真似だ?」


 しかし、剣の男は何も答えない。

 おれは視線を銃弾の飛んできた方向へと移す。


「もう何人かそこに隠れてるんだろ。出てこいよ。まずは対話だ。こっちにはおれ以外にも賢者見習いと腕の立つ魔導具使いがいる。正面切ってやり合うのは不利なんじゃないか?」


「…………賢者見習い、だと?」


「ああ。そこの緑のローブ羽織ってる金髪の女の子だ」


 男の濃紺の瞳がロロットを捉える。震える唇をきゅっと結び、強気な姿勢を崩さない彼女に、男の疑心で塗り固められた表情が氷解するように緩んでいった。


「まさかあなた様は、『月曜の賢者』様のところのシャルロッテ様、ですか……?」


「はい。えと、そうですけど」


「では、白いパーカーの彼は?」


「旅の仲間です、私の。私は今、一人前の賢者になるための修行の旅、三人の賢者様からサインをもらうための旅をしていまして。彼はそれに付き合ってくれているんです」


「…………そう、だったのですか」


 男は吐息混じりにそう答えると、さっきまでおれに対して振るっていた剣を腰に下げた鞘にしまい、片膝をついて頭を下げた。


「とんだ無礼を働いてしまい、大変申し訳ありませんでした」


 これまた唐突なことでぽかんとしていると、銃弾が飛んできた方の木陰からさらに別の男が一人出てきた。プラチナブロンドのマッシュヘアで、剣の男と同じ白い外套をビシッと着こなした彼は、剣の男の隣まで歩いてくると、同じように片膝をついて謝罪した。


「誠に申し訳ありませんでした。異様に強大な魔力を感知した故、ここら一帯を荒らし回っているという“鬼”なのでは、と。本当に早計がすぎました」


「は、はあ。ええっと、他に、銃弾ぶっ放してきた人たちは出てこないのか?」


 おれは掴んでいた杖に再び紐を括り付けて背負い、目の前でこちらに謝意を表明する男たちに尋ねた。

 マッシュヘアの男がゆっくりと顔を上げる。


「いえ、あれはボク一人によるものです」


「へ? でもそれにしては弾数が凄い多かったけど」


「まあ、特殊な銃ですから」


 特殊な銃ね。おおかた魔導具の一つといったところだろうか。どんな魔法が使える代物か、この短時間では判断できないが。


「それで、おれたちをこの島で暴れている“鬼”だと勘違いし」


 おれは一呼吸ついてから、白い外套に身を包む目の前の男二人へと質問を投げ掛けた。


「突然襲撃してきたあなた方は、いったい何者なんですか? ロロットのことも知っているようですし」


「はい。我々はヘリアポリス帝国を守護する星羅(せいら)騎士団の騎士でございます」


 空色の髪の男は片膝をついたまま顔を上げ、おれの目を見ながら凜とした声で答える。


「噂に聞く九人目の賢者の保護、およびユオニ島に出没した鬼討伐の任を受け、この地に参りました」



つづく

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