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マホウは物理でなぐるものっ!  作者: 唯野 みず
第一章 眠れる森の美女と時忘れの塔
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002.二人の少女に連れられて

 ロロットと呼ばれた娘の言葉に、銀髪の女の子は開いた口が塞がらなかった。「連れていけばいい」と聞こえたが、これはもしかして、そういう展開になるということか。


「今、なんて?」


 銀髪の娘がロロットの方に顔を向けて尋ねる。肩にかかるほどのセミロングの髪も、その動きに合わせてふわりと揺れた。もふっとしている尻尾は先ほどからずっと垂れ下がったままである。感情がダイレクトに現れているとみた。


「この子、私たちの旅に連れていけばいいんだよ! 悪事を散々働いた男の子だよ? ここで刑を決めても真面目に取り組むかは分からないし」


「そりゃそうだけど」


「だから、私たちと一緒に旅をさせて更生させるの! 言うなれば、罪滅ぼしの旅だよ。私たちで監視もできるし」


「う~ん……。でもこの子、一応とはいえ、ひとりで山賊倒すくらいには強い子だよ? いくらロロットが賢者見習いでも、女の子二人旅にこの子連れてくのは危なくない?」


「大丈夫だよ。私、そこそこ強いから!」


 心配そうに獣耳を垂れさせている少女に対し、ロロットは胸の前で両手をグーにしてみせた。その表情からは若干の頼りなさを感じるものの、同時にやる気の高さも窺うことができた。


「それも知ってるよ。でもやっぱり心配なんだよ。あの子が持ってたこの杖、ロロットや他の賢者さまたちが持ってる『星の杖』とよく似てるんだもん。賢者さまではないにしろ、何かしらの秘密がこの子にはあるんじゃないかな?」


 そう言って、彼女は握っていたおれの杖を少し掲げた。杖に視線を移したロロットは眉を寄せ、何やらむつかしい顔をした。この杖がそんなに珍しそうな形状をしているとはおれには思えないのだが。


「確かにその杖は賢者様の持つ『星の杖』に似てはいるけれど……」


 おれの杖は最下部と最上部が少し膨らんでおり、最上部には宝石のように輝く大きな玉が付いている。玉の部分を含め、全体が琥珀色で統一されており、落ち着いた雰囲気を纏った代物だ。琥珀色と言ってピンとこない人には、ウィスキーみたいな色と言えば分かってもらえるだろうか。それでも分からなければ自分で調べてみてほしい。


 おれはこの杖を“ポーン”と呼んでいた。理由は単純だ。この杖のシルエットがチェスで使う駒の一つ、ポーンに似ていると、ある時ふと思ったからだ。最弱のポーンの如きあの杖が、この世界で重要な地位に就いている『賢者様』たちの杖に似ているとは、いったいどういうことなのだろう。実際に賢者の杖を見たことがないから何とも言えないが、少女たちの勘違いではないだろうか。


「……そういうことも含めて、やっぱり私は旅に連れていく方がいいと思うな」


 しばらくしてから、ロロットは銀髪の娘の質問に答えた。どうやら彼女の中で考えがまとまったらしい。さらに言葉を続ける。


「この子と一緒に旅をしていれば、この子がどうして『星の杖』に似た物を持っているのかも分かるかもしれないし。色々気になることがある子だから、近くでじっくり調べるべきだと私は思うの」


「言いたいことは分かった。たぶん、考えを変える気はさらさらないんだと思うけど、ロロットのことがホントに心配だから、もう一回だけ訊くよ? どうしてもこの子を私たちの旅に連れていく気なの?」


「うん。連れていくことにする」


「ロロット……」


「私のこと、すごい心配してくれてありがとね。ジュジュ」


「うん」


 おれの杖を握っている銀髪の少女、ジュジュの手に、ロロットは自分の手を重ねた。被せるように乗せられたその手は小さくて色白だった。

 ジュジュは少し掲げていた杖を降ろし、ロロットの目を見つめる。髪や耳と同じ銀色の毛並みをした大きな尻尾が、左右に小さく揺れている。


「安心して、ロロット。わたしはロロットみたいに強くはないけれど、だけどロロットのことは何があっても絶対に守るからっ!」


「うん。ありがとう、ジュジュ!」


 手と手を重ね、目と目を合わせたまま力強く宣言するジュジュと、それを受けて答えて感謝を口にするロロット。留置場という場所には似合わない光景だと思ったが、二人のこの会話にはなんだかほっこりしてしまった。


 同い年くらいに見えるから、おそらく二人は友達同士なのだろう。その二人がこのように仲睦まじくしている様子は、生きるか死ぬかという一人旅を冗談抜きに続けてきた結果、すっかりすり減ってしまったおれの心をぽかぽかと暖かくしてくれた。やはり女の子同士が戯れているのは目の保養になる。


 ふと、今気付いたことがある。今後おれがこの二人の少女の旅に同行、もとい連行されるということは、つまり彼女たちのキャッキャウフフを眺め、満喫することができるということなのではないか。


 一回りほど年下の女の子たちに監視された罪滅ぼしの旅など、最初はくそ面倒くさいことになったとばかり思っていたが、彼女たちに癒やされながら旅ができるのであれば、まあ悪くはないか。


「この子どもの処遇、お決まりになったということでよろしいですか、シャルロッテ様?」


 これまでの会話を聞く限り警備隊長という地位に就いているらしい男が、二人の少女のそれぞれに目を向けつつ言った。相変わらずの渋い声であった。二人の少女は一度顔を見合わせてから、声を揃えて答えた。


「はいっ!」


 こうして、見た目は子ども、頭脳は大人な某名探偵と若干キャラが被っているおれは、まだ幼さの残る少女二人と共に旅に出ることになった。確かロロットが“修行の旅”と言っていたから、どこに向かうのか、旅先で何をするのかは彼女次第ということになるのだろう。ついてに言えば、おれの目的も果たせるかもしれない。


 なかなか楽しそうな旅になりそうだ。けれど今のおれは見た目が幼いことから、実質的には子どもだけの三人旅ということになる。しかもみんな十代前半といったところだ。内面的にはともかく、外見的に大人がいないことから、予期せぬ方面からの苦労が出てきそうな気がする。


 ただ、屈託なく笑い合っている彼女たちを見ていると、先のことに対するそんな気掛かりはどうでもいいことのように思えてきてしまうから、まったく不思議なことである。


「分かりました。では、この子の連れ出しを認めましょう。実際、一般人よりも高度な魔法を扱えるという噂が立っている子どもの扱いは、こちらとしても隊員や市民に対する安全面から難しいと思っていましたから。処罰としてお二人の旅に連れて行ってもらえるというのは有難いことです。どうか、怪我や病気にはお気を付けますよう。ご武運を」


 男は席を立ち、少女たちに一礼した。隊員の安全面がどうのこうのって、おれは猛獣扱いか。下手に刺激すれば大暴れするとでも思っているのか。……もし本当にそう思われているのだとしたら、ちょっと悲しい。


 男の別れの挨拶に、ロロットは「はい」と丁寧に返し、ジュジュは「はーい!」と元気そうに答えた。まだ会って間もないけれど、ここでの会話を見ていて彼女たちそれぞれの性格をなんとなく掴むことができたような気がする。きっとこれからもっと意外な一面が見えてくるのだろう。そう思うと、今後の旅がますます楽しみになってくるのだった。



つづく

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