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マホウは物理でなぐるものっ!  作者: 唯野 みず
第一章 眠れる森の美女と時忘れの塔
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023.金の髪と水色の瞳

 ジュジュが立ち止まった所まで来てみると、彼女の言う通り、確かにその穴が入り口のようであった。中が少々暗いので見辛いが、上へと登る階段がここからでも確認できる。


「あ……」


「ん? どうしたの、ひだり君」


 つい声が漏れてしまい、ロロットに質問されてしまった。前にモルフォが、時忘れの塔の魔力は普段でも微かに感じることができる、という話をしていた。聞いていた当時は全く感じたことがなかったのでピンときていなかったのだが、今それを確かめることができた。目の前に開かれている塔の内部から、魔力だと思われる不思議な気配が漂ってきていた。


 質問への返答として、ロロットにそのことを伝えた。おれには少ししか感じられていないものだが、おそらく彼女やモルフォには魔力がより濃く感じられていることだろう。この辺はきっと、経験と実力の差である。


「確かに、ここだとハッキリと感じられるね」


 「そういえば」と言って、ロロットはモルフォへと顔を向けた。モルフォは、「ん?」といった感じで首を小さく傾げる。


「モルちゃんはどうして、この塔から魔力が出てるって気付いたの? 賢者見習いの私でさえ禁足地の近くに行くまで気付かなかったのに」


「ふふ。答えの半分はロロット自身がもう言ってるわよ」


「え?」


 今度はロロットが首を傾げる番だった。


「私が気付けたのは頻繁に禁足地に近づいていたから。もちろん、目当ての魔導具を探すためにね。ロロットが気付けなかったのは、たぶん領主の屋敷で寝泊まりしているからじゃないかしら。あそこは町の外れにあって、時忘れの塔からもルフォン湖からも一番離れている場所だし」


「あ、そっか。言われてみれば、確かにそうだね」


 おれたちは水曜の賢者アリスの取り計らいにより、領主の屋敷で寝泊まりをしている。だから夜はそこに帰って休んでいるわけだが、塔からかなり離れることになるので、塔の魔力の変化にロロットが気付けないのも当然ということらしい。思うに、アリスでさえ気付いてはいないのだろう。


「さてさて、雑談もこのくらいにしておいて、早速塔の内部を調査しましょうか」


 意気揚々とモルフォが先へと進んでいく。彼女の背中を見つつ、おれも足を動かして塔の内部へと入り込む。外にいる時は風で揺れる木々のざわめきや、鳥の声があちらこちらから聞こえてきていたのだが、薄暗い内部に足を踏み入れた途端、聞こえていたそれらの音は急に遠ざかったかの如く小さくなった。無音ではないが、心地よい静かな空間である。


 見渡してみると中は結構広い。だが、中央に大きな支柱があるだけであり、その他に目を引く物体は特にない。燭台すら見当たらない、まさに殺風景といえる一階であった。


「あれ? このフロアは調べなくていいのかい?」


 ロロットを連れ、すぐに階段を登り始めたモルフォの背中へと成平(なりひら)が問いかけた。おれは彼女が迷いなく階段を登り始めた理由が分かる気がした。彼女は塔の内部にあると思しき魔導具を探している。塔の魔力の正体は、その魔導具の魔力に違いないだろう。


 しかし、その魔力は塔の内部全体に薄ぼんやりと広がっているような感じがするのである。魔導具があれば、それが存在する場所の魔力が濃くなるはずだから、この階にはないと踏んだのだろう。


 おれのこの考えはどうやら当たっていたらしく、同じような内容をモルフォとロロットが成平に返した。少なくともこの階にはなく、進める先は上へと続く幅の狭い階段のみ。外から見た限りこの塔はかなり高いので、正直、階段で登っていくことに対して溜息が出そうだった。けれどそれ以外に選択肢もなければ行き先もないので、頑張って進むしかあるまい。


「なかなかしんどいね、この階段。途中で休憩できそうな踊り場とかがあるのかと思ってたけど、上を見上げても見える範囲ではそんなものはなさそうだ」


 成平の疲れた声が壁に反響しながらおれの背中に届いてきた。塔の内壁に螺旋状に造られた階段を登り続けてしばらく経つが、まだ天辺には到着しない。成平が言ったように休憩できそうな広い踊り場なんてものもこの先ありそうになかった。


「体力には自信のあるわたしも流石に疲れてきたよ。ねーねーロロット。感じてる魔力はどんな感じ? まだ全体的にぼんやりしてるの?」


「さっきと変わらずに均質な感じ。禁足地の入り口近くまで魔力が届くくらいだから、魔導具に近づけばどこにあるのかすぐに分かると思うんだけど……」


「ここまで登ってきてもこれだものね。最上階まで登っても見つけられない可能性が出てきたって感じかしら」


 反響するモルフォの声には疲れが滲んでいた。続いて、ロロットの情けない声が響く。


「残念だけど、モルちゃんの言う通りだね。そうなったらまた振り出しだよぉ~」


「でも振り出しに戻ってまた情報収集してもさ、これ以上有力な情報なんて出てきそうにないよね。みんなで手分けして町中聞き込みしまくっても、倦怠病(けんたいびょう)患者の話ばかりだったし。モルちゃんのくれたこの塔の情報だって、やっと見つけた手がかりって感じだったしさ」


「そういうこと今言うのはやめてよ、ジュジュ~。あっ! そうしたら、今度は調査の仕方そのものから考え直さないとかも。う~、考え始めたらどんどん悪い方に流れてっちゃうよぉ」


 後ろを振り向いて答えたロロットの表情は曇っていた。おれも同じ気持ちだ。


「倦怠病とかを解決しないと賢者のサインが貰えないんだったっけ?」


 モルフォの問いかけでロロットは再び前を向いて登り始める。


「そうなの。だからなんとかしなきゃなんだけど……先が見えないなあ。この階段と一緒で」


「嫌なこと言わないでよ、余計疲れてくるじゃない。それにしても不思議なしきたりよね。三人の賢者のサインを貰わないと一人前の賢者になれないだなんて。だって、賢者なんてなろうと思ってなれるものじゃないでしょ? 『星の杖』に選ばれなくてはいけないんだし」


「まー確かにそうだよな。『星の杖』と契約を結べるかどうかなんて生まれつきのものだし。そういえば、どうして賢者さまって揃いも揃ってみんな金髪でさ、淡い水色の眼をした人なんだ?」


 「なあ、ロロットー?」と言いながらジュジュは小走りで段を登っていき、ロロットのすぐ後ろにくっついた。


「どうしてって言われても……事実としてそうなってますとしか……ああでも、賢者のこの眼——“エンジェライトの瞳”って一般的には呼ばれてるんだけど、これが凄い特殊なものだって話は以前お婆様から聞いたことがあるな。なんでもこの瞳自体に小さな宝石並の魔力が眠ってるんだとか!」


「え、マジで⁈ ロロット凄いじゃん! じゃあ杖なくても魔法使えるってこと?」


「一応、理論上はジュジュの言う通りのはずだよ。ただ、普段は活性化してないから、もし瞳の魔力を利用するんだったらこれを活性化させないといけないんだって。でも、その方法がよく分かってないらしいんだけどね。どっかの賢者は活性化させているらしいけど、詳しいことは私にも分からないなぁ」


「ダメじゃん! 役に立たないじゃん!」


「んん? 『星の杖』を扱える人が賢者で、賢者はみんな金髪碧眼ってことは……ひだり君って何者なのかしら?」


 不意に発せられたモルフォの言葉で、ロロットはハッとしたかのようにこちらを振り返る。二秒ほど、おれのことをまじまじと見てくる彼女と目が合った。


「確かに。モルちゃんの言う通りだ。ひだり君、髪は藍色だし瞳は黒だし、絶対に賢者ではないはずなのに」


「でもコイツ、『星の杖』に似てるポーンって名前の杖持ってるよな。しかもそれ使って、未熟とは言え魔法らしきものが使えてるし」


 ジュジュも振り返っておれをじーっと見てきた。二人の少女からなにやらずっと見られ続けるというのは、どうにも居心地が悪い。別に特段悪いことをしたわけではないのだけれど、なぜか自責の念が湧いてくる。なんか、申し訳ない。


「とはいえ、あの大きな杖で魔法(仮)が使えてるってことは、何らかの形で杖との契約ができているってことだよね。…………う~ん。考えれば考えるほど、ひだり君の存在って謎だなぁ」


「ひだりは“あの杖は借り物”って言ってたけど、それが本当ならあの杖には二人の契約者がいるってことになるよな。ひだりと、どこかにいる本当の持ち主の賢者さま。でも普通、『星の杖』は一人の賢者さまとしか契約できないはずだから…………うん、やっぱ謎だな」


「あっ! 話しているうちに頂上が見えたわよ。ほら、すぐそこ! 階段が途切れてる!」


 モルフォの嬉しい報告に、おれのことをずっと見続けていた少女二人がモルフォの方へとバッと向き直った。そしてすぐに、距離の空いてしまった彼女のもとへと駆けていく。


 おいおい、あんだけ疲れてそうな素振り見せてたくせに、全然元気じゃないか。これが若さか。いや、おれも身体だけはあいつらとそう変わらんのだから、元気になれるのでは?


「なんだか、色々と大変だったね。お疲れさま、ひだり君」


 おれの肩を軽く叩きつつ、成平がへらへらと声を掛けてきた。


「笑いながら言ってんじゃねーよ。喧嘩売ってんのかお前は」


「ひだり君が賢者でもないのにあのポーンとかいう杖を使用できるのって、もしかしたらひだり君が来訪者であることに関係しているのかもしれないね」


「んなことおれが知るかっ! ほら、さっさとあいつらの所に行こうぜ」


 言って、おれは疲れた身体に鞭打ち、すたすたと残り数十段の階段を登っていった。おれの背中には、「やっぱりひだり君は色々と例外なんだなぁ」という成平の小さな独り言が、壁に反響して届いてきた。どういう意味なのかは考えないことにして、先を急ぐ。コイツにはまだ隠しごとが多いように感じているためだ。今あれこれと思考を巡らせてもきっと時間の浪費になるだろう。そんな予感を、おれは確信的に持っていた。



つづく

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