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空中




 マットと房に帰りながら話を聞いた。


 「俺はこの近くで鉱夫をやっていた。…まあ、仕事的には今と変わらないな…。穴を掘って、鉱石を探し、それを売って生活していた。あの崖の下辺りまで坑道もあったが、急にガスが発生してな….」

 

 俺は不思議に思ってマットに聞く。


 「急に毒ガスが発生するなんてあり得るのか?」

 「ああ、それなんだが…。近くに火山でもあればわかるんだが、あんな何も無い場所でガスが出るなんて聞いた事も無い。何か他の原因かも知れないな。例えば毒を使うモンスターが住み着いたとか」

 「なるほど、その可能性もあるのか?」

 「まあ、はっきり見たわけじゃ無いからな、なんとも言えないが。でもあれだけのガスを発生させるようなモンスターだとすると、相当危険な奴かも知れんな。どっちにしろ今はどうにもならんが」

 「そうか、坑道は結構あちらこちらに掘ってあるのか?」

 「そうだな、地下は迷路みたいなものだぜ、入ったら出られる保証は無いな。俺がいれば問題無いがな」

 「ヘェー、マット、あんたすごいんだな」

 「はは、それが仕事だったからな…」


 そんな事を話しながら房に着く。そこでマットと別れた。飛び降りる真似はやめろと注意されたが、明日決行する予定だ。

 房には皆がそろっていた。俺は獣人のレイとキコに話をする。


 「なあ、レイ、キコ、お前達もしここから出られたら何をする?」

 

 2人は急な質問にキョトンとしながらも喋りだす。


 「俺はとりあえず家に帰って親に会いたいな…」

 「俺はとにかく美味いものをたらふく食いたいよ。懐かしいな、野菜や肉をワインで煮込んで、トロトロになるまで…あんなシチューが食べたいよ…」

 「そうか、俺も腹いっぱい食いたいな…キコは料理得意なのか?」

 「ああ、俺は元料理人さ!結構評判の店にいたんだぜ。仕入れに来たらここに連れて来られた…」


 レイは猫系で、キコは犬系の獣人だ。もっともほぼ人と変わらないが。

 

 俺はそんな2人に声をかける。


 「いつか自由になれたら、俺にも美味いもの食べさせてもらうぜ、そして、キコの故郷も見てみたいな」

 

 2人は悲しそうに笑って、いいよと返事をする。俺は絶対に自由にしてみせる。そう心の中で強く思った。



……………翌日。


 いつものように作業を終え、俺は誰にも見られていない事を確認した後、また崖に向かう。

 よし、これなら大丈夫。今度こそ、行くぞ!


 俺は思いきり崖から飛び降りる。


 「飛翔!……」

 

 と呪文を唱える、しかし体は落下して行く…。ひ、飛翔!飛翔だってば!

 ずっとそんな事をやっていると、突然体が浮き出した。


 「や、やった!飛んでる」


 体は浮き出したが、なかなかコントロールが難しい。しかしバランスをとりながら何とか浮いていられた。

 やがて、崖の上辺りにたどり着く。俺は浮いたまま崖を見下ろしていた。何とかこの方法なら自由になれる。しかし、俺1人が自由になったところでどうにもならない。そんな事を考えていると、突然後方から声がする。


 「おや、何かお困りですか?」

 「うわっ!」


 俺は驚いて落下しそうになったが、声をかけた誰かが俺の体を浮かせてくれたみたいだ。何か空中で寝ているように、両手を枕に、足を組みながらその場に浮いている。浮いているのは俺と同じ魔法の力だと思うが、俺のようにやっと浮いている訳ではなく、何事もないように浮いている。かなりの魔力を感じる…。何者だ?

 見た目は金髪で細身の優男だが、この男からはとてつもない力のようなものを感じた。


 「ああ、驚かせて申し訳ない。いや、飛び降りたと思ったら急に浮いて来たものだから、ちょっと驚きまして。僕と同じ飛翔の魔法が使える人物にお目にかかるのも珍しい事ですので」

 「あ、貴方はいったい…?」

 「いや、挨拶がおくれました。私はマーシフル・フェイトと申します。以後お見知りおきを」

 「マーシフル…って貴方はもしかして、キング・ダイヤモンドの元王国魔導士長、マーシフル・フェイト様ですか?」

 「ええ、そうです。今や奴隷ですが…」

 

 この世界では、王族や貴族は宝石名によって位が決まっている。皇帝はゴールドで、次がダイヤ、エメラルド、ルビー、サファイアの順だ。この元魔導士長は、ランクはダイヤでその階級のトップの「キング・ダイヤモンド」と呼ばれていた。


 「で、ここでいったい何を…?」

 「いえいえ、私には予知夢の力があって、こうしてこの場に浮いていると誰か重要な方に会うというのを見たものですから…そうしたら貴方が現れたのです」

 「俺、ですか?…あ、俺はトオル・タイラって言う者です」

 「トオルさんですか、しかし貴方のような方が飛翔の魔法を使えるとは…これはかなり上級の魔法なのですが、不思議ですね。この大陸でも数人しか使えない程レアな魔法です」

「あ、いやー、そうだったんですか?俺何も知らないものですから」

 「それはそうと、何故崖から飛んだのですか?」

 「魔法が使えるかも知れないと思ったので、試しにやってみました。ぶっつけだった割に上手く行きました。そして貴方にお会いできた」

 「おやおや、それで自由の身になれたと言う訳でしょうか?」

 「いえ、俺はまた戻ります。逃げ道をひとつ見つけました。貴方は戻らないのでしょう?」

 「はい、私には肉体労働は向きませんので…貴方はまた戻るのですね、何の為に?」

 「俺はこの収容所を解放するつもりです。今日の行為もその為のひとつです」

 「ほほう、収容所を解放する為ですか?面白い事をおっしゃる。途方も無い事だとは思いませんか?」

 「はい、そう思います。でも俺の為になると思っていますので」

 「貴方の為?」

 「ええ、結果的に人が喜ぶ事をすれば俺にいい事があると信じているのです」

 「面白い…ならばひとつ助言を。龍人と仲良くなりなさい、龍人とは龍神、貴方の力に必ずなるでしょう。そしていつか私と再び会う事もあると思います。その時には2人の賢者を仲間にする事です」

 「2人の賢者?ですか…」

 「なに、もう1人の賢者とは会っているはずです。それではトオルさん、またお会いしましょう…」

 「あ、あの…行っちまった…」


 俺は再び崖に戻った。突然、魔力が消え、高い場所から落ちるように戻って来たので、腰と背中を打ったが大したことはなかった。


 しかし、マーシフル・フェイトが言っていた龍人ってリンコンの事か…?

 そして2人の賢者、1人はおそらくビスコンティ閣下だろう…。とにかく、帰ってリンコンと話をしてみよう。きっとそれが俺の為になるはずだ。





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