会合
いつの間にか太陽は高く、照りつける暑さが肌を焼く…。
汗が止めどなく流れ、作業効率は低下する程の暑い季節になっていた。
まあ、俺は能力の上昇で、それほどの影響は無かったが、他の者たちは辛い様に見える。
この収容施設はゴツゴツした岩場の多い山の近くにある。俺達奴隷労働者は、この山まで登らされ、岩を掘削し、運ぶ。
この山には貴重な鉱石があって、それを人の手によって掘り起こし、運び出す。その繰り返しだった。
収容施設からこの岩場にかけて、取り囲むように魔法の結界が張られていて、巨大な城門のような砦が築かれている。砦には様々な罠や仕掛けがあり、近付く者には確実な死が待っていた。
岩場の山の裏側は崖になっており、ここから逃げたそうとする奴はいなかった。ここに来る者は、死を選ぶ者で、そんな奴らはここから飛び降りる…。
いつの間にか「自由への発射台」と呼ばれるようになっていた…。
いつものように日々の作業をしていると、話しかけてくる奴がいた。
誰かと話しているのが分かると、容赦なく監視役のムチが飛んでくるので、そいつは一言だけ俺に伝えた。
「うちのボスがあんたと話したがっている」
見た目は屈強そうな奴だ。疲れ、やつれてはいたが、短く刈り込んだ髪、背は高くは無いが、筋肉質で何か修羅場をくぐり抜けたような不屈の意志をその目に宿している。
俺は一言だけ、分かったと答える。
夜間にある場所に来るよう伝えられた。
俺は日々のトイレ掃除などで、収容所の場所はほぼ把握していた。伝えられた場所は直ぐに分かった。
その日の作業が終わり、うまくもない飯を食べた俺は、昼間言われた場所に向かう。
俺がその場所に行くと、1人の痩せた小柄な老人が待っていた。男は静かに声をかけてきた。
「トオル・タイラ様ですかな?私はアラン…アラン・フォー・ビスコンティと申します」
「アラン…?ってまさか、前の宰相のビスコンティ閣下ですか?」
「今は貴方と同じ奴隷です。閣下はおやめ下さい」
「いえ、しかし…はい…」
「トオル様、貴方は人の為に様々な行動をしておられる。しかし、何故そのような事をしてらっしゃるのか不思議に感じまして、何か考えている事があるのか話を聞きたく、ご足労願いました」
「は、はあ…」
「私はこのような老骨ゆえ、余り力にはなれませんが、何か貴方には不思議な感覚を覚えます。私にも少し魔力がありますので…」
俺は少し考えた。前宰相のビスコンティとは一度話したいと思っていた。しかし唐突にその機会が訪れた。ここは素直に自分の考えを伝えるべきか、腹を割るのはまだ後にするべきか…。
俺は自分の行動について当たり障りのない事を話す。
「俺は自分の為に人を助けるような行動をしているだけです…」
「ほほう、貴方の為ですか…」
「ええ、俺はそうすると自分にいい事があると信じているので」
「なるほど、しかし貴方は見た目よりも屈強な様に見えます。私と話していても余り動じていないようですね、いや、なかなか腹の座っている御仁の様ですな」
「とんでもない!さっきから心臓はバクバクしてます、何か企みにでも加担させられらないかとか…そんな事を考えてしまう俺は小心者ですよ」
「ほっほっほっ…貴方は本当に面白い方ですね。わかりました、貴方とはまた話す機会があると思います」
「俺の方からひとつ質問があるのですが、いいですか?」
「はい、何なりと」
「貴方は俺を部下にしたいのですか?」
「いえ、そんなつもりはございません。私は誰かを補佐する事には力を発揮出来るかも知れませんが、自らが頂上に立てる器ではないと良く分かっているつもりです。それに…そんな事を望む歳でもありませんからな、ほほほ」
「そうですか、わかりました。貴方の本心だと感じました。俺は、今はまだ俺の為に誰かの手助けをし続けます。そんな答えでいいでしょうか?」
ビスコンティの目が光を浴びた様に見えた。
「ほっほっほっ、面白い答えですね。では私は貴方を見ている事にしましょう」
「値踏みされている感じがしますが、然るべき時には俺も…」
「おや、今はまだその先は聞かないでおきましょう」
「えっ、ああ…ではまた後でお会いしましょう。今日はいい話ができたと思っておきます」
「そうですね、私もそう思います」
俺はビスコンティと別れ、自分の部屋に戻って来た。監視役にも怪しまれてはいない。いつもトイレを掃除している甲斐があった。
部屋にはいつもの様に俺以外の4人がいる。俺はベッドにいるジェームズに話しかける。
「ジェネラル、ちょっと聞いてもいいか?」
「…なんだ、何か気になる事でもあるのか?」
「アラン・フォー・ビスコンティについて聞きたいんだ」
「何?」
「前の宰相について聞きたいんだ」
「唐突だな、ビスコンティ閣下か…俺は余り話したことは無いが、人望もあり、政治的手腕もかなりのものだと聞いている」
「そうか、きっと人を惹きつける何かを持っているのかも知れないな」
「お前おかしいぞ、突然どうした?」
「いや、ちょっとそんな話を聞いただけさ。あんたなら知っている事もあるんじゃないかと思ってな」
「…そうか、ならもう寝ろ。明日も明後日もずっと労働だ。休むに限る」
「ああ、悪かったな」
ジェネラルジェームズはもう話す気は無いように横を向いた。
俺は寝床に入って考えた。俺の行動を見ている者たちがいるのかも知れない…。
確かに俺の行動は特異なものだろう。ただでさえ人に手を差し伸べる余裕など無い状況で、俺は進んで人に手を差し伸べる。勿論俺自身の為にやっている事だが、その行動を見ている者達がいる。
おそらくビスコンティは何の為に俺がそんな事をしているのか興味本位の部分もあったろう。俺はビスコンティに少しだけ自分を見せてみたが、どう受け取っただろうか…?
とにかくまた俺はポイントを稼ぎ、力をつける。誰にも負ける事の無い程の能力を手にして、その時に俺は行動を起こす。そう、俺は王になるのだ。