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アンジェラとの戦闘

 太陽が高く登る頃、ジェームス、ジェイ、リンコンと俺はゴーストタウンにたどり着いた。

 収容所から抜け出した者達は既に食事を済ませている者、疲れて眠りにつく者、今までに見たことの無い穏やかな表情で談笑している者、千人は軽く超えるだろうか?

  

 この脱出の下準備をしっかりとしてくれたのは「キング・ダイヤモンド」こと、マーシフル・ファイト卿とその部下達だった。


 俺は脱出した多数の人々の無事を確認し、少しほっとしていた。少し疲労も感じていたが、今までの能力上昇のおかげでまだまだ動ける状態だった。

 ひととおり周りを見回し、フェイト卿の姿を確認し、話しかける。


 「ファイト卿、おかげで全員無事にここまで辿りつくことが出来た。感謝する」


 フェイト卿はやっと来たか、というような表情をしながら答える。


 「おや、トオル君、お待ちしていました。良く無事にここまで辿り着きましたね。さて、これからの準備をしなくてはなりませんね」


 フェイト卿の話を遮るように、女性が俺に話しかけできた。


 「あなたが、トオル・タイラ様ですね!私はあなたを認めていません!私と戦ってもらいます!」

 「な、何⁉︎、ちょっと待て、あんた誰だ?戦うってどういう事、意味わからないんだけど?」

 「私は元王国魔導部隊副隊長アンジェラ・ゴート!トオル・タイラ!問答無用!!」


 フェイト卿が遮るようにアンジェラを宥める。


 「アンジー、何を言っているのかな…?トオル君と戦うなんて…」

 「フェイト様、黙って頂きます!これは私が彼を認めるために必要な事なのです!」

 「しかしだね…アンジー…」 

 「フェイト卿、俺は構わないぜ。これは俺に必要な試練かもしれない。戦う事でアンジェラさんを納得させればいいんだろう?」

 「トオル君…」

 「大丈夫、俺はまだまだ元気だし」


 そんなやり取りを脱出した人々が興味深そうに見ている。ジェームスはやれやれといった表情で口髭を撫でている。ジェイとリンコンは無表情だった。


 やがて、朽ちた町の広い場所に移動して、アンジェラと俺は対峙する。


 町の中の大きめの家屋の中からビスコンティ卿とヴィヴィアン卿も騒がしさに気づいて出てくる。何やらフェイト卿と会話をしている。心配そうに見ているが、興味もあるといった表情だった。ぽつりとヴィヴィアン卿が呟く。


 「…大丈夫、トオルは何もしなくてもアンジーは納得するだろう」



 そんな周りを気にせずに、アンジェラは戦闘をそくすように叫ぶ。有無も言わせぬ迫力があった。


 「さあトオル・タイラ!戦う準備はできたか?こちらはいつでも大丈夫だ!」

 「アンジェラさん!俺が何を使ってもいいのか?魔法やその類のものでも?」

 「ほう…魔法戦闘で我に勝てるつもりなのか?こちらは構わん、どんな方法でも使ってくるがいい!」

 「わかった!」


  2人が納得したように対峙し、アンジェラは構える。同時に俺は叫ぶ。


 「ギドラ!15メートル!!」

 「…承知しました主人(マスター)!」



 構えるアンジェラの眼前に突然巨大な影が現れる。影はやがて実態を帯び、黄金に輝く3つ首の竜に変わる。キリキリと鳴きながらアンジェラにその6つの目を向ける。


 アンジェラはその姿を口を開けたまま見上げている。


 「…な…………⁉︎」

 「アンジーさん、これも俺の能力のひとつさ。こいつが相手をするぜ、問題無いよな?」

  「…、おのれ、卑怯な!」


 やり取りを見ていた人々達は、巨大な3つ首竜の出現に思わず声を上げる。ヴィヴィアン卿はアンジェラの表情を見てなのか、クスリと笑って見ている。


 アンジェラは呪文を詠唱し、ギドラに魔法攻撃を仕掛けるが、ギドラには何事も無かったようにキリキリ鳴きながら3つの頭を交互に動かす。

 アンジェラは幾度となく魔法攻撃を仕掛けるが、ギドラには全く効果が無い。


 「ギドラ!軽く衝撃波!」


 ギドラは真ん中の頭部の口から稲妻のような衝撃波をアンジェラに向けて放つ。かなり加減をしているのだろうが威力は相当に強力だ。

 アンジェラは防御魔法を展開しているが、ギドラの衝撃波にはあまり意味が無く、衝撃波は地面ごとアンジェラを吹き飛ばす。


 「いやーーーーっ!」


 アンジェラは叫びながら吹き飛ばされる。やばいと思った俺は、アンジェラを受け止めようと移動するが、心配なかった。

 飛ばされたアンジェラはフワフワと浮かび、やがて地上に降りる。自身も何が起こったのかよくわかっていないようにキョロキョロと周りを見ている。

 いつの間にかヴィヴィアン卿が能力を使い、アンジェラを守っていたようだ。俺はヴィヴィアン卿の方を向く。ヴィヴィアン卿はウィンクして合図する。俺は返事代わりに頷いた。

 俺はアンジェラの無事を確認し、話しかける。



 「アンジェラさん、まだやるかい?」

 「くっ、な、何だあのドラゴンは…?」

 「こいつは俺の使い魔、ギドラって言うんだ」


 いつの間にかギドラは小さなもとの大きさに戻り、トオルの肩に乗っていた。俺はギドラの首を撫でながら話す。

 突然アンジェラが笑い出した。


 「ふふっ、あはははは…。フェイト様が興味を持つのもわかりました。トオル様、負けを認めます。改めてよろしくお願いいたします」

 「へへっ、なんか卑怯な感じだったけど、俺のこと認めてもらえたのかな?」


 やり取りを見届けていた人々から歓声や拍手が起こった。

 俺は周りを見渡しながらあまりに多くの人々が注目していた事に気づき、驚きと共に照れ臭さも感じていた。

 恥ずかしさからなのか、俺はずっとギドラの首を撫で続けていた。わかったと言うようにギドラのキリキリとした鳴き声が聞こえたが、どこか遠くから聞こえたような不思議な感覚を感じた。



  


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