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悲しみのアンジー




 坑道の出口から、廃村までは1時間程で辿り着いた。軽く食事をとり、また直ぐに出発する。

 収容施設から逃れた者の大半は既に移動を開始していた。現在は数百人が食事を終え、移動する準備にかかっていた。

 俺は怪我や体調の優れない者を確認し、調子の悪い者にヒールの魔法を使い、回復させる。覚えておいて良かったぜ…。

 回復した者達は、また歩き始めて行った。

 最後に来た6人が他の者達が移動したのを確認してから、軽く食事を取る。果物と水くらいな物だが、空腹は満たされていく。これもフェイト卿の用意してくれたものだった。

 俺達は今後の事を確認する為に話し合う。


 「何とかここまで来たが、この先のゴーストタウンまでは、まだ数十キロある。またビスコンティ卿とフェイト卿は様子を見ながら瞬間移動で先に行ってもらえませんか?俺達は最後尾で進んで行きます」

 「…わかった、それよりもフェイトの怠け者は大丈夫だろうか?」

 「ホホホ、問題ありませんな。フェイト卿は1人ではありませんからの」

 「ビスコンティ卿、フェイト卿が1人では無いとは、どういう事でしょうか?」

 「うん、僕も聞きたいな」


 ビスコンティ卿は優しい微笑みを浮かべたままで話し始める。


 「フェイト卿には心強い仲間がおります。実は彼の部下は各地に散らばっておりまして、まだ数十人は難を逃れ、潜伏していたはずです。彼はその部下達を使って準備しているのでしょう」

 「ああ、そうか、彼ら、いや彼女達なら大丈夫ですね。あの怠け者がのんびりしてられるのは彼女達のおかげですからね」

 「それは魔導士部隊の部下という事でしょうか?」

 「まあそういう事ですな。しっかり者はどこにでもおるものです」

 

 ジェネラルが何か思い出したように声を出す。


 「…もしかして、悲しみのアンジー…」

 「ホホホ、さすがにジェネラル閣下はご存知でしたか。そうです、彼女がおれば大丈夫でしょう」



 ……その頃、ゴーストタウンではフェイト卿達が脱走した者達を受け入れる準備に追われていた。


 「フェイト様、どうしてこんな安請け合いをなさったのですか!本当に私達がどれだけ大変かわかっておられるのですか!!よりにもよってこんな寂れた町に人を受け入れるなんて…まったく考えられませんわっ!!!」

 「あ、はいはいアンジェラ、それはもうわかりましたので準備を急ぎましょうね、はい….」


 フェイト卿を一方的に怒鳴っている相手は、大柄な女性で、男性顔負けの体格をしているが、決して女性っぽく無いという訳ではなく、タイトな服装がスタイルの良さを際立たせていた。金髪でその目は力強く、彫りの深い顔をしていた。名をアンジェラ・ゴートという。

 フェイト卿率いる魔導士部隊の副隊長で、しっかり者として有名だった。何もしない割に難しい依頼を引き受けてしまうフェイトにいつも困らされており、「悲しみのアンジー」と周りから呼ばれていた。


 そんな2人を横目に、他の隊員達はいそいそと準備に余念が無い。今この場で作業している者は全てフェイトの部下であり、直属の隊員だった。いつも見慣れた風景のため、何事もないように作業に取り組んでいた。


 「…それに、大体準備には期間というものがありますよね、こんな短時間でやるなんて、普通無理に決まってます!どうして閣下はその辺をわかってくださらないのですか!今まで何度も何度も、同じ事をなさって我々がどれだけ苦労していると思っておられるのですか!」

 「はい、そうです、でも今は準備をしないと…」

 「大体、準備準備とおっしゃいますが、閣下は何もなさらないじゃ無いですか!誰がやると思っておられるのですか!本当にいつもいつも…」

 「言いたい事はわかりましたので、ね、アンジー」

 「いえ、絶対にわかっておられませんね…あ、そこには物をおかずあっちに、そうですその辺り、それで」

 「それで…?」

 「奴隷達を解放した者、三賢人を動かした者はどんな人物なのですか?三賢人がまた動き出すなど、ちょっと考えられなかったものですから…」

 「ふふ…そうですね、不思議な方です。でも何かをやってくれる、そんな人物でしょうか」

 「まあ実際、実行してしまったからには本気で王都を敵に回す事になります。本当に大丈夫なのですか?」

 「そうですね、私が彼に初めて会った時、彼は飛翔の魔法を使っていました。それだけ言えばわかりますか?」

 「飛翔…?まさか、あの魔法は閣下が何年もかけてやっと手に入れたもののはずでは…?」

 「ええ、それをほとんど魔法を使った事のない彼が使っていたのです。面白いと思いませんか?」

 「なる程…あ、それはそこじゃ無い!そっち!…で、フェイト様はその者に従うのですか?」

 「どうでしょう…彼がただ解放だけを目的にしているのなら私も手を貸す事は無かったでしょう。しかし彼は王になると私に言った…。今は彼が今後何をするか見定めようと思っているところです」

 「…わかりました。しかし、今回のこの準備はまだ話す事がありますので、後ほど….」

 「ええっ?これで終わりじゃないの…?」


 アンジェラはジロリとフェイトを睨み、その場を離れて行く。

 残されたフェイトはげっそりとした表情を浮かべ、その場に立ちすくんでいた…。



 …その頃廃村では、まだトオル達が話していた。トオルはヒュドラの事が気になっていた。


 「リンコン、そう言えばヒュドラはどうしたんだ?」 

 「…今は姿を隠している、ヒュドラはひっそりしていたいのだろう…」

 「なあリンコン、ヒュドラを俺達がこれから行く町の番人、番龍?みたいにできないだろうか?」

 「…可能だ。そうするのか?…」

 「ああ、しかし皆町に辿り着いてからだ。町に落ち着いたとして、一週間から一月くらいで王都にはわかってしまうだろう。俺達がまずやらなくてはならない事は、守れる戦力を保持する事、そしてそれに応じた食料と資金の確保だ」

 

 ビスコンティ卿が声を出す。


 「ふむ、その通りですな。軍事、資金、食料これらのどれも欠けてはならないものです。当面はしのげても、永続的にこれを保持し続けるのは難しい事です」

 「そこで俺の考えなんですが、まずは交易することが1番良いと思うのです」

 「ふむ、その通りでしょうな。しかし資金も無い状況です。これではそれ程の効果は得られないでしょう…何か考えがお有りで?」

 「はい、ビスコンティ卿、(忘れられた黄金の山)の話を聞いた事はありますか?」

 「.もちろん、先史文明の遺産が残っている伝説の事でしたな?…まさかトオル様はその遺産を手に入れようとおっしゃるのか?」


 ジェネラルが声をかける。


 「おい、トオル…そんなものがあると思っているのか?」

 「確かに伝説ではあるけど、今、早急に巨額の資金を手に入れるなら、そういう物に頼るのも悪くないと思うぜ。そして俺はそれを見つけられると思ってるんだ」

 「しかしだな…」

 「…面白い。僕もその話に協力しよう」


 シャドーキング卿だった。


 「シャドーキング卿….」

 「僕もそういう事に興味があってね…実は大体の場所は検討がついている」


 リンコンが突然念を送ってきた。


 「…その場所ならば、私も知っている。多分そこに存在するだろう。しかし厄介な場所で、歩いて行けるところでは無い…」

 「リンコンどういう事だ?」

 「…つまり、その場所にたどり着くには毒ガスが発生している場所を通り抜ける必要がある。ガスは低い場所に溜まる。しかし上空からなら可能だろう…」

 「じゃあリンコンも手伝ってくれるか?」

 「…ああ、構わない…」

 「ではシャドーキング卿も御同行願えますか?」

 「ああ、いいだろう。それから、僕の事はヴィヴィアンで構わない」

 「わかりました。ではリンコンとヴィヴィアン卿と俺で探索してみます。この3人ならばそれ程時間もかからないと思います。ビスコンティ卿、いかがでしょう?」

 「あまりおすすめできる事ではありませんが、リンコン王が場所を知っているのならば、そこにかけるのも悪くないかも知れませんな。しかし、この状況が落ち着いてからですな」

 「ええ、その通りです。俺達もそろそろ出発しましょう!」


 皆が立ち上がり、行動に移る。肩で寝ていたギドラも目を覚まし、キョロキョロと辺りを見回す。三本の首がそれぞれ別々の方向を見回している。その姿が少し可愛く思えて、俺は何となく微笑んでいた。


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