脱出!
翌日、俺達は収容施設の全員に脱出の話を伝えるべく、奔走していた。もちろん普段と変わらず作業をしながらだが…。
キコとレイには主に獣人に伝えるよう頼み、他の者はそれぞれ顔見知りの者から伝えるよう手筈した。その内容は、明日の早朝に「自由への発射台」に向かえというシンプルなものだった。全員に話は行き渡る筈だ。その日は朝から看守達がいないからだ。
ジェイの薬をその日の夜に看守達の食事に混入させる。効果は6時間程後に効く予定だった。まあ多少の誤差はあるだろう、しかし薬が効き始めて、その前後の記憶がなくなる効果があるとのことだ。
看守達は収容所の別棟に住んでいた。さすがの俺もそこに入った事は無かったが、さすがはジェイ、ちゃんとリサーチ済みだったようだ。
俺達は出来る限り慎重に事を進めた。その日の作業を終え、その日は仮眠だけを取り、全員で外に向う。
徐々に他の部屋から人が集まって来る。そこに見張り役の看守の姿はない。ジェイはやはり頼りになる奴だ。
俺とジェネラルとリンコンの3人が最初に崖の付近に近づく。リンコンは力を使って、昨日作った入り口を開く。地下に降りる階段がちゃんと作ってあった。
やがてマットとその鉱夫の仲間らしい者達数人が集まって来た。マットの仲間達に何百人かごとに引率するよう頼んだ。
崖の付近に収容施設のほぼ全員が集まってくる。昨日の作業で相当な疲弊をしている筈だが、皆気力を振りしぼってここに集まって来ている…。
俺は絶対に全員を解放しようと改めて誓った。
集まった順に地下に降りてもらうことにした。まずはマットが最初の一団を率いて降りて行く。坑道は暗い為、マットが松明を片手に他の者を率いる。
俺は降りて行く者達に暗いので足元に注意することと、決して急がないように移動するように伝える。
わかったと声を出す者、うなずく者、また何も言わずに降りて行く者もいた。
ゆっくりだがしっかりした足取りで、皆降りて行く。俺は入り口付近でゾロゾロと降りて行く集団に声をかけ続ける。
相当な時間がかかっているが、俺はずっと見守っていた。何百人かごとにマットの仲間に松明を持たせて降りてもらった。
数時間が過ぎ、他に誰もいなくなったのを確認した。一番最後に来たのがビスコンティ卿とシャドーキング卿だった。俺は声をかける。
「もう誰もいませんか?」
「はい、私達で最後のようですな」
「ああ、僕も確認しながら来たが、他には誰もいないようだ」
「わかりました、ではシャドーキング卿はビスコンティ卿と共に手筈どおり下に移動願います。俺はジェネラルと一緒に地下へ降ります。リンコンはどうする?」
「…私もトオル達と共に降りよう、何かの役に立てるだろうし…」
「ああ、助かるぜリンコン!それじゃ行こう」
ジェネラルはわかったと頷き、リンコンは何も伝えずに俺達の後に続く。
ビスコンティ卿はシャドーキング卿の肩に手を置き、その場から姿を消した。いつの間にかジェイも姿をあらわし、俺達と共に地下に降りる事になった。
俺はジェイにねぎらいの言葉を伝える。ジェイは当たり前の事をやっただけだと答えた。さすがビスコンティ卿、素晴らしい部下を持っている。
俺達は地下に降りて行く。リンコンに入り口を閉じてもらう。これでこの施設の全員が突然消えたと大騒ぎになるだろう。
坑道で崖の下まで移動するのに、ほぼ半日は見た方がいいだろう。川沿いに上流にのぼって行けば、廃村に辿り着く。辿り着いた者から食事を取り、さらに先の町まで移動してもらう。かなり厳しい移動になるだろう。しかし、フェイト卿がしっかり準備をしてくれている筈だ。
俺は松明を手に、地下に降りる。中は思ったよりも広い。日の照りつける外に比べるとかなり涼しく感じる。そして少し風が流れているのも感じた。
「へぇ、ちゃんと空気が流れているんだな、よく出来ている」
ジェイが答える。
「鉱夫達はここで何日も過ごす事もあるからな、空気の確保は絶対に必要な事だろう」
「なるほど、ここではどんな鉱石が取れたんだろうか?」
「…おそらくアグナイトだろう….」
リンコンだった。
「…もうかなり前に取れなくなってしまったようだが、かすかにアグナイトの気配を感じる…」
「そうか…リンコン、必ずアグナイトも手に入れてやる」
「…期待している、トオル…」
俺達は足を進める、ゆっくりそして確実に。そしてそれは俺が王になるための一歩でもあるのだ。ゆっくりとそして確実に…