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リンコンと三賢人




 …翌日、俺は作業を終えて「自由への発射台」に向かう。今日は1人ではない、リンコンにもついてきてもらった…。

 俺はリンコンに向けて頭の中で意思を伝える。


 「…これから崖に向かって飛ぶ、リンコン、大丈夫だよな?…」


 リンコンは答える。


 「…ああ、大丈夫だが、この方が良いだろう…」


 リンコンはそう意思を伝えると、俺の肩に手を当てる。

 すると突然、俺とリンコンが空中に浮かび上がる。リンコンの能力だ、スゲェ…。


 「お、おお〜、リンコンすごいぜ!」


 俺は思わず、口に出してしまった。リンコンは何も答えず、俺達は上昇して行く。

 しばらくすると、空中に浮かんでいる人物が目に入る。フェイト卿だった。こちらに気がついて手を振っている。

 俺はフェイト卿に声を掛ける。


 「フェイト卿!今日はドラゴニスの王を連れて来ました。しかし、本当にシャドーキング卿の言った通り、ここにいらっしゃったのですね」

 「…だから、そう言ったろう…」


 突然、背後から声をかけられる。


 「うわっ!」


 俺は、思わず声を上げてしまった、声の方を見ると、シャドーキング卿も浮かんでいる…?

 うん…?それだけじゃなく、ビスコンティ卿も一緒だ…しかしどうやって…?


 「ホホホ、トオル様、このような所でお会いするとは奇遇ですな、しかし私もどうも落ち着きません…ヴィヴィアン殿、このような場所で会合とは聞いておりませんぞ…」

 「当然さ、僕も突然あなたを連れて来たのだから」


 …しかし、空中で三賢人に会うとは、何とも妙な感じがする。リンコンは余り動じていないようだ。

 俺はシャドーキング卿に声を掛ける。


 「シャドーキング卿、あなたはどうして空中に浮かんでいられるのですか…?」

 「あまり知られたく無かったのだが、僕にも不思議な能力があってね…そちらのドラゴニスの王に似た力だ。この前は未来予知しか出来ないと、とりあえず言っておいたのだけれどね、他人に知られると面倒だし…」


 フェイト卿が声を掛ける。


 「実はヴィヴィアンは1人で1000人くらい平気で倒すほどの力があるのです、まあ見せる事はないと思いますが…それより、リンコン王、よくぞおいでくださいました。元王都の役人として、ご挨拶申し上げます」


 フェイト卿は浮かんだまま、立ち姿勢で胸に手を当て頭を下げる。シャドーキング卿とビスコンティ卿もそれにならう。

 リンコンは皆にわかるように念を伝える。


 「…いえ、私も王都の三賢人にお会いできて光栄です。私の望みは数十年前から変わりません。アグナイトの供給です。…お分かりだと思いますが、現在ドラゴニス族は絶滅の危機に瀕しています。なにとぞ力をお貸し下さい…」


 俺はリンコンに聞く。


 「リンコン、アグナイトって何だ?それに絶滅って…?」

 「トオル君、私が答えよう」


 フェイト卿だった。フェイト卿は話を続ける。


 「ドラゴニス族は、我々人族と違い卵から生まれます。そして卵を孵化する為に、ある魔力を必要とするのです。言うなれば、ある一定の温度を保ち続けるという事なのですが、それをずっと同じ条件で持続させるのにアグナイトという鉱石が必要なのです。アグナイトはある一定の温度を保ち続ける特色があるのです」

 「じゃ、何故それをリンコン達に渡さないのさ?必要なら渡せばいいんじゃないか?」

 「その通りですな…」


 今度はビスコンティ卿が話し始める。


 「アグナイトは貴重な鉱石でしてな、中々見つからないものではあるのです。じゃが、毎年少量は取れていた物なのです。それが数十年にわたり取れなくなってしまった…というよりも、そう伝えられていたのじゃ…」

 「伝えられていた…?」

 「そう、王国ではアグナイトの発掘をある商会に委託しておったのじゃが、こちらから殆ど取れないとずっと伝えられておった。我々はその旨をドラゴニス族に伝えていたのじゃが、さすがに毎年となるとドラゴニス族には死活問題になる。そこで王自らが商会に向かい、話をつけるつもりで出向いたのじゃ…」

 「それでどうなったのですか?」

 「王はその途中で亡くなった…これは何かおかしいと感じた我々は王の葬儀が終わった後に、商会を問い詰めようと動き始めた…しかし、そんな時、新しい国王と宰相が決まってしまった。それが今の幼い王とゲルマールなのじゃ。ゲルマールはその商会の主人じゃった。そしてあっという間に我々は奴隷になり、今の状態じゃ。もうずっと前からゲルマールは準備していたのじゃろう。ゲルマールではなく、その背後にいる者が…」


 俺は言葉を失った。そこまで容易周到に下準備ができるということは、相当な力を持ち、さらに情報をしっかり握ってなくては出来ないだろう…。


 「いったい影の支配者は何者なんですか…?」

 「…おそらくだけど…」


 シャドーキング卿だった。シャドーキング卿は続ける。


 「王都に恨みを持ち、虐げられた者…そしてかなりの組織力のある一族。僕たちはヴェノムと呼んでいる。まだ確かな事は言えないが、魔族だろう」

 「魔族だって?魔族が人と事を構えると滅ぶのでは?」

 「ああ、そう言われてはいる…しかし、それはあくまでも人側の言い伝えでしかない。実際、僕達も秘密裏ではあるが、魔族討伐の任務を実行して来た。しかもかなりの回数にわたってだ。魔族はいずれ表に現れる、僕達はそう思っていた」

 「そんな事が知らないところで行われていたのか…そして今王都は魔族に握られているという事なのか?シャドーキング卿の力で何か見ることは出来ないのですか?」

 「うーん、僕の能力は未来を見て、その為にどう動くかを知るくらいしか出来ないのさ。今こうやって皆で話をしているビジョンを見て、その為に動いた…そんな感じかな?」

 「そうですか…」

 「でもね、僕は割と楽観している。あるビジョンを見たからね」

 「え、あるビジョン?」

 「ああ、1人の奴隷の青年が王都を取り戻し、幸せな世界を作り上げる、そんなビジョンだよ」

 「えっ?そんなのが見えたのですか…うん、それってもしかして俺ですか⁉︎」

 「アハハ、さあどうだろうね?」


 突然頭の中に声が響く。


 「…それでアグナイトはどうなるのだろうか?…」


 リンコンの意思にビスコンティ卿が慌てて口を開く。


 「そうでした、少し話が逸れましたな。そう、私が調べたところによると、アグナイトはかなり大量に保存されているようです。しかしゲルマールは何か別の目的に利用するらしいのです」

 「別の目的?何か悪い事に使うつもりなのですか?」

 「そこまで詳しくはまだ掴めておりません、しかし、いずれにせよ悪事に利用するつもりでしょう」


 頭の中に声が響く。


 「…そんな事に利用させはしない、トオル、そして三賢人の方々、私も力になります。どうぞよろしく頼む…」

 

 皆はリンコンを見つめ肯く。

 解放の組織が動き出す、そんな感覚を俺は実感していた。そろそろ日が暮れる。夕陽が空と交わり、うっすらと紫色に溶けて行くのが見えた。



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