学園生活3
ユグド軍士官学校、通称ユグドラシルとも呼ばれている。ユグドラシルは、アズガルド、ミズガルド、2つの国をつないだ巨大軍事教育施設であり、不戦条約が結ばれた区域である。校内には2つの国から軍人や文官を目指す12歳から20歳までの男女が通う。入校には国からの推薦状が不可欠であり推薦状を貰うには、各国基準の選考試験をパスする必要がある。
2つの学科があり軍科と文科に分かれている。軍科は卒業後は国軍や近衛兵などへ配属。多くはユリアのようなエリート騎士を目指す。文科は卒業後、政に関わる政務官や外交官といったエリート官僚を目指していく。
この2つの科の生徒はそれぞれ軍科は黒、文科は白の制服を着用しており、所属を視認できるようになっている。
17歳の志朗は文科6学年に所属している。
4年前、城内の自室で目覚めた時、自分の名前以外、年齢、身分、生い立ちなどの己に関する情報を思い出すことができず途方に暮れた。しかし、日常生活に支障をきたすような常識的な知識や作法は何故か覚えていたので、それだけは不幸中の幸いだった。さすがに混血の自分がアズガルド皇国の第16皇子という境遇であることは飲み込みずらかったが、随分と恵まれた環境に居れたものだと今では前向きに捉えている。
記憶喪失になって、しばらくした頃、皇室の者として武芸の嗜みも、ということで騎士団顧問に簡単な型や太刀を指導して貰ったのだが、これが向いてないの一言だった。
法力なら!と法術の学びを請うこともしたのだが、従来混血種は法力が弱く、その道を極めることができないというのがセオリーだったので、選択肢すらあげられなかった。
「志朗様は軍官には向いておられません」
当時から護衛についていたユリアにそう断言されたのが、今でも少し胸にしくしく刺さる。
通常王位継承権を保有していても、第10位下の者は、若い頃から将来の身の振り方は考える必要があるため、志朗は己の武の才の無さから文官を志すことに決めた。
自分の過去の記憶が無いせいか、知識を得ることには貪欲になれた為、勉学には苦なく励んでいった。ユグドラシルの文科へ途中入学できる推薦状も貰うことができ、無事14歳の時文科3年生への入学を果たしたのだった。
意気揚々と入学したのはよかったのだが、入学後志朗を待っていたのは、軍科と文科の間の対立構造という非常に面倒な環境と混血に対する差別的な態度の生徒たちだった。
文科と軍科の生徒たちは、制服が白黒はっきり分かれているように、双方壊滅的に仲が悪い。アズガルドとミズガルドの国や人種的な境界よりも、この両科の溝の方が圧倒的に深い。理由を聞いても「なんとなく嫌いだから」「気に入らないから」といったような極めて抽象的な者で、これは一種の校風であると言うしかない。
「中で物書きばかりして、根暗の臆病者だな!」
「そっちこそ、剣振るしか芸がない単細胞でしょ!」
という具合で、お互いを毛嫌いし、日々罵り合っている。