学園生活1
僕は志朗・K・アストリア。ユグド軍士官学校の文科生6年生だ。
僕の朝は少々騒騒しい。寮を一歩出た瞬間、片足で踏み切って一気に加速する。
四方八方から飛んで来るゴミ屑やら、生卵やらをなんとかギリギリ避けていく。
よくこんな朝っぱらから面倒なことができるなと、呆れるしかない。
寮内は不可侵領域な為、危害を加えて来られることはないのだが、寮を一歩出れば関係ないということらしい。
そう、端的に言うと僕はいじめにあっている。
この世界にはアズガルドとミズガルドの2つの国土で成り立っており、それぞれ人種も違う。ここアズガルド皇国は、皇族至上主義の純潔至上主義社会。志朗はこの国の第16皇子という肩書きではあるが、表向きには皇族というのは隠して西領土の中流貴族の出身ということにしている。そして人種的には現国王である生粋のアズガルド人の父と記憶には無いミズカルド人を母に持つ混血種だった。混血種の特徴として、黒い眼と黒い髪があげられる。その特徴がそのまま露顕している志朗は、純潔至上主義が濃厚なこの軍士官学校では迫害の対象なのである。
文科の生徒は、正面切って喧嘩をふっかけてきたり、手を挙げてくるような生徒はあまりおらず、私物を隠されたり、朝のように物を投げつけられたりするような、身の危険はそうそう無いが、陰湿なものが多い。
いじめにしては低レベルだが毎日これが続くと地味にきつい。入学して4年、お互い平行線のままこのリクリエーションは続いている。
新年度初日にして、今日も今日とて代わり映えのない攻防も、教室に入れば終了だ。
後ろから飛んでくるゴミ袋が背中にぶつかるのを感じながら、教室の入り口まであと数メートルというところでいつもとは違う感覚が走った。
これは殺気だ
「きゃーーーーーーーーーーーー!!!」
ガラスの割れる激しい衝波音と女子生徒の叫び声。
衝撃に備えて思わず両手で頭を守るように屈もうとしたところで、身体が浮くような感覚。
「ユリア…!」
志朗の身体を抱き込むようにしているのは、護衛のユリア・オルガナイザー。
「志朗様、お怪我はありませんか。」
ユリアが身を呈して自分を庇ったのだ。
「僕は平気だ。ユリア…君、腕が…!」
ユリアの右腕は、ガラスの破片などで裂傷による出血があったが当の本人は全く意に介していないようだ。
「私は志朗様をお守りするのが勤めですので。この程度の傷、問題ありません」
か、かっこいいな…
と女の子に言うには失礼かもしれないが、もうその一言に尽きる
なんて現実逃避してる場合じゃない。
騒然としている中、ユリアと共に立ち上がり振り返ると、先ほどまで自分が居た位置に大量のガラスの破片と径100cm以上の陶器の植木鉢が割れた状態で転がっていた。
もし自分に直撃していれば、重傷は免れないし最悪死んでいてもおかしくない。
それを見た瞬間、ユリアが纏う空気が氷点下に下がった。
「ユリアさん、大丈夫????手当てを…きゃ!」
女子生徒の1人がユリアの傷を気遣ってその腕の触れようとした瞬間、ユリアはその腕を振り払って、その美しい真紅の長髪を振り乱した。
「貴様ら…!!」
揺らりと立ち上がったユリアに志朗は唾を飲み込んだ。
ま、まずい…
「貴様ら。この方をどなたと心得る!!!??この方はこのアズガルド皇国のだっむごっっ!!!」
「みなさんお騒がしましたーーーー!後片付けだけよろしくお願いしますーーーー!!!!!」
志朗は息巻くユリアの口を塞いでその場を離脱した。