学園生活11
「ルミアス、君さっき文献を見て欲しいって言ってたよね」
「だって〜戦闘特化型トランスの事なんて、あんな場所じゃ言えないし、本当のこと言ったら絶対志朗来てくれないでしょ」
ルミアスの言う通りこんな代物があると分かっていたら、絶対無視を決め込んでいた。
「そんで、どうやってそのルーン素体にアプローチするかだろ。俺じゃあ全く思い浮かばないな、圧縮された素体へのアプローチなんて」
ユイは最初から考える気がないらしい。部屋の隅の椅子に座り込んで傍観を決めている。
「志朗くんならどうする?ぜひ君の見解を聞きたいな」
ユアンとルミアスに期待の眼で見つめられ志朗はため息を吐いた。
「わかりました。解析してみます。でも期待はしないでください。僕だって超特化型トランスなんて代物見るのも初めてなんですから」
志朗はトランスの1つを手にとった。トランスは3つあった。ハンドガン型、サーベル型、チェーン型だ。一番手に取りやすいハンドガン型を手に取って解析をする。
解析は手からルーンを読み取るものと視認できるルーン素体へとアプローチする。ルーン素体は青白い粒子状のものなのでトランスが青白く発光しているように見える。このルーン素体の解析処理スピードや容量が人によって差が出てくるのだ。
そしてこの超特化型トランスデバイスモデルは、この素体アプローチが常人ではうまくできず汎用化できない。
なるほど。これは素体1つ1つを分解してチェーン状に連結・読込しないと解析できないな。
志朗は、法術の才がないとされているが、実はルーン解析処理に関しては常人離れしていた。それはルーンに関する知識が豊富であること以上にルーン解析処理の才能があると言える。
ただ法術はルーン解析ができるだけでは扱えない。ルーン解析したあとは、ルーンの持つプロパティを顕在化するためのトランスを介して放出する必要がある。この放出には法力が必要であり、法力は人によって潜在領域に差があるため、鍛錬を重ねて領域を広げる努力が必要なのだ。志朗はこの法力を体内にとどめておくキャパシティが少ないため、法術を使うことが困難だった。
ふーん、これはいい線言ってるかもね。
志朗は解析を終え内心呟くと、トランスを台座へ戻した。
「志朗、どう?何かわかりそう?」
「うん。このデバイスモデルの場合は圧縮された素体層から1つ1つルーン素体を取り出して解凍連結させる必要がある。じゃないと素体が潰れたり重なっていたりしてまともな解析ができないからね。不十分なまま法力を放出しようとした場合は解析不良で使用者はタダじゃ済まないだろうね」
「そのアプローチなら我々も試した。ただ処理スピードが格段に落ちる。だから効率化が必要なんだ。」
「そうですね。まともに解析してたら放出する前に敵に殺されます。解析処理の一部にショートカットを作るのはどうでしょう?」
「ショートカットだと?」
「ええ。ルーンをわざわざ解凍連結させる時間が惜しい。だからある程度のルーンイディオム(熟語)を素体層に上書きしておくんです。その代わり、イディオム以外のプロセスは自力で行くわけなので、そこには個人差が生じますが、全体的な効率化はクリアになるでしょう。」
「なるほど。イディオム化か。ルーンにはある程度の一貫性があるからな。毎回毎回リーディングする必要はない。」
「すごい。そんな方法があったなんて…志朗、あなた一体何者なの?」
ルミアスが信じられないと言った眼で志朗を見つめた。
普通、数分トランス触れただけで、トランス自体の性質と改善内容を弾き出すなんて芸当、国のルーン研究機関の人間だってできないはずだ。
「ああ、君はほんとにルーン解析能力が化け物染みているね!本当に素晴らしいよ!!!」
「化け物扱いはひどいですね。先輩とルミアスがここに連れてきたんじゃないか」
志朗は抱きつかんばかりのユアンを躱しながら憤慨した風に言った。
「とにかく!これで来月の考査に間に合いそうだ!志朗くん!本当にありがとう!」
「その考査とこのトランスとどんな関係が?」
「実はね。このトランスのメディア向け実演披露を来月のユグドラシル実技考査試験で行うことになったみたいなの」
「おいおい。そんなあぶねーもん学校で使う気かよ!?」
「もちろん、事前にトライアルは重ねてセーフティデモンストレーションになる予定よ」
「ユグドラシルの実技考査は、アズカルドとミズガルドの各国両軍の賓客も来る一大イベントのようなものだからね。リリースには持ってこいの場のようだね」
「つまり、その実技考査には実用レベルにする必要があるってこと。志朗のおかげで、だいぶゴールが見えてきたわね。」
「ああ、明日から寝ずの研究の日々だな。志朗く
ん。君さえ良ければこのプロジェクトに参加してくれないか。正式に加わってくれれば君の貢献が国に認められる。君のおかげで我が軍は法術戦闘において他国を圧倒できる」
「いえ。僕はそんなつもりは無いですから。クラスメイトと先輩の力になれればと思ってやったことです。研究頑張ってください。ユイ行こう。」
「あ、ああ。じゃあなルミアス。先輩もありがとうございました」
志朗とユイは研究室を後にした。
「おい、志朗、良かったのか?すごい発見だったんじゃないのかよ?」
「良いんだ。2人の助けになれればよかっただけだし。そんなにうまくはいかないと思うし」
しかし、来月この出来事が志朗自身を窮地に追いやるとは、この時は知る由もなかった。




