学園生活10
ルミアスの所属するルーン文字研究室は、その名の通り文献や遺跡に記されるルーン文字を解析、応用を目指す学校公認の研究室だ。
学生の部活動のようだがこれが侮れない。ついこの間ルミアスが主導で進めていたブロジェクト論文が国のルーン学会で優秀賞をとったばかりだ。
「会長〜〜!連れてきましたよ〜〜!」
「おー!待ってたぞーー!」
「失礼します。ユアン・マックェル先輩」
ルミアスの後に続いて研究室に入ると、予想通りボリュームのでかい声と過剰なスキンシップが志朗とユイを迎えた。
ルーン文字研究室の会長、ユアン・マックェルは、カイ・レクス総代と同じ最高学年だ。
校内に3人しかいないルーン学科SSランクの1人だ。スミレ色の長髪が際立つアズカルド人、長身痩駆のモデルのような外見だがなにせ中身が異常に暑苦しいルーンオタクだ。
「いやーー硬いなーーー!!志朗くんならいつでも大歓迎だよーーー!むしろ我が研究室に入って欲しいんだけどなー!ユイくんもどうだい?君みたいな優秀な後輩が入部してくれたら我が部も安泰なんだけどなーーー!」
肩に腕を回されバシバシ叩かれてもあははーと2人とも苦笑するしかない。
「会長!引いてますよ2人とも」
「いやーすまんすまん。あまりにも嬉しくてな!志朗くんに来て貰えたら百人力だよ」
「ご期待に添えるかどうかはわかりませんが」
「謙遜しないでくれたまえ。この間の論文も君の助言がなければあそこまでブラッシュアップできなかったからね」
「さぁ会長。志朗にあれを見てもらいましょう。来月まであまり 時間がないんですから」
「来月?実技考査と関係が?」
志朗とユイは揃って首をかしげた。
「ああ。今から見せるものは、くれぐれも他言無用だよ」
アルブス棟最上階にある研究室の奥にある階段を登ると厳重にロックがかけられた扉の前についた。
「これは、国のセキュリティコードですね」
「正解。さすがはユイくん」
「なぜユグドラシルでアズカルドのセキュリティコードが?」
「それはこの先にあるものが、国保有の代物だからさ」
ユアンが手をかざすとロックが解除され扉が空いた。
ユアンに続いて3人が部屋に入ると、部屋の中央に青白く発光しているものがテーブルに置かれて居た。
「これは…先日公表された新作の戦闘用トランスデバイスじゃないですか!?」
トランスとはルーンを顕在化する媒介装置で、ルーンを操る法術使用者はこのトランスが必要である。
志朗とユイの目の前にあるトランスは、先日アズカルドが発表した、超戦闘特化型のトランスデバイスモデルであり、ユグドラシルの生徒がおいそれと所有できるわけがないのだ。
「実はな、どうやら国もこの戦闘特化型トランスの実用化に苦戦しているようなんだ。思った以上にルーン解析処理容量が必要そうでね、実践で使用するには解析効率をあと30%は上げないと軍用化が難しい」
「それで、この前学会で成績を出したうちの研究室に白羽の矢が立ったわけ。学会で発表したルーンの素体流動理論が、この苦境を救うかもってね」
「解析効率を上げるにはルーン素体へのアプローチが欠かせないんだが、これがどうにもうまく行かなくてな。素体の流動層が思った以上に狭い。戦闘特化型のシェイプだから、かなり素体層が圧縮されていて、非分散化作用が強すぎるせいか素体アクセスが厳しい」




