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兄の手記 2018/8/16
母は立派な人だった。
母は昔、父の暴力に耐えかねて、
幼い三人の子供を連れて逃げ、
以降、末の子供が成人するまでの18年間を働きながら彼らの育児に費やした。
母は厳格な性格であったので、
努力を怠らず、自身に厳しく、我慢をし、子供を信じてくれる人だった。
ただ、母もやはり人間だった
機嫌が悪くなると愚痴を溢すこともあったしその頻度も低くはなかった。
内容は概ね金銭面の事で
片親で、三人の子供の家庭。
子供が育つにつれて、出費も増え、
養うのは難しくなる一方だったと今なら容易に考えられる。
だが私はこの兄弟の長男であったから、
母が暴力を受けていた時既に物心がついていて、
母が受けた「それ」を理解するだけの知力があった。
だからこそお金の事も察しはついていたし、
頑張っている母を責めるのは、どんな理由があっても間違いだと認識していたので、
愚痴を溢すことに不満はあれど、口には出さず、
母への感謝として私なりの我慢をし、
将来、恩を返すと決めていた。
父から逃げて18年。
母は子供に殺された。




