高鳴る胸と不安な心
昨日あげようと思って、ちょっと間に合いませんでした。
あの方の登場です。
バンッ!
入ってきた人に視線が集まる。その人は白い詰め襟の正装姿で堂々と入ってくる。
「遅くなってしまい、申し訳ない。夜会も終わりに近づいていると思うが、私も今から参加したいと思う」
その人は決して大きくはないがはっきりとした口調でそう言った。
「っ!」
その姿を、声を、聞いた瞬間私は泣きそうになった。
待つと言ったが今日はもう無理だと、間に合わないと私自身どこかで諦めていた。
久しぶりに見るレオンハルト様の姿。
隣国に行っている間も手紙はあの夜会の迎えの件と帰国について書かれたものだけ。私からは、遊びに行っているわけじゃないのだからと送らなかった。
だから手紙が届いたときは驚いたけど、嬉しかった。一緒に送られてきたネックレスを見たときは思わず泣いてしまった。
ダイエットしてる時も長く会えなかったが、あの時はまだ実際にレオンハルト様に会っていなかったからまだ大丈夫だった。でも、会ってしまったら、もうダメだった。
隣に立つにはまだまだと思いながらも、会いたいと声を聞きたいと願ってしまった。
そんな彼を久しぶりに見てしまえば、気持ちが高鳴るのを抑えるすべはなかった。
レオンハルト様は何かを探すように辺りを見回している。
もしかして、私を・・・?
いや、でも違うかもしれない。ただ友人を探しているだけなのかも・・・。
それでも手紙に迎えに行くと書かれていたことに否応なしに胸が高鳴る。
レオンハルト様の視線がこちらに向き、私と視線が合
「・・・え?」
私とレオンハルト様の間に誰か立つ。いや、誰かではない。
先程からずっと私の前にいたアシュガード様が、レオンハルト様が会場に入ってきてから同じ方向に向けていた視線を私に戻し、自身の体で私を隠すように位置を変えたのだ。
私はキッと睨むようにアシュガード様の顔を見上げる。
「殿下が来られましたわ」
「えぇ、そうですね」
ニコニコと笑顔で答える。
わかってるなら、どいてよ!
「私、殿下の元に行きます。退いてください」
「殿下も長旅でお疲れで、ダンスは踊らないでしょう」
「それでも私は殿下の婚約者ですわ。挨拶に行かなくては」
「・・・」
私がそう言うとアシュガード様はそれまで浮かべていた笑みを消し真顔で私を見下ろしてくる。ずっと笑顔だったアシュガード様が急に真顔になり、私は一瞬寒気のようなものを感じる。
身長も私より頭一つ分高い為、威圧感が半端ない。
アシュガード様はそんな私の状態を分かっているのかいないのか、先程とは違い口の端を上げ、馬鹿にしたような笑みを浮かべる。
「知っているのですよ」
「・・・何を」
「アーネスト嬢、あなたは殿下に疎まれている」
「っ」
「少し前に偶然、殿下がご友人と話しているのを聞いてしまいましてね」
「・・・」
「何て言っていたと思います?『別に見た目の好みを言っているんじゃない。あの自分勝手で思い込みの激しく周りを見下している、どうしようもない中身が嫌なんだ』と」
「・・・」
「あなたは確かに美しくなった。けれど、疎まれている理由は外見ではない。長旅で疲れているところに疎んでいるあなたが出ていって更に殿下を疲れさせるのですか」
「・・・」
私は何も言えなかった。言われている内に顔も上げていられなくなり、自分のドレスの裾を見つめる。
そうだった。
忘れていたわけではないと思っていたけど、体型が変わり友人も出来、周りに励まされたことで思い上がっていた。
この姿をレオンハルト様が見れば、私を好きになってくれるかも、と。
レオンハルト様がそんな見た目だけに惑わされることはないと、私は分かっていたはずなのに。
もちろん中身だって変わろうと色々頑張ってきた。それでもレオンハルト様が私を好きになってくれるかはわからない。
そもそもヒロインがいる。この後少しすればあのヒロインが登場する。誰を選ぶかは分からない。けれど、あのゲームの中のヒロインは私から見ても魅力的な女の子だった。それにシナリオ通りにいけば、攻略対象者はヒロインが誰を選んだとしても全員好意的な態度だった。レオンハルト様があの子を好きになる要素は充分にある。
さっきまであった自信が泡のように消えていく。
元からそんな大きな自信はない。少しでもレオンハルト様に不快な思いをさせないよう、隣に立って少しでも彼を支えられるようにと頑張ってきた。それなりに結果も出ていると思うが、それでもと思ってしまう。
ぐるぐると思考の渦に飲み込まれていく私は、アシュガード様の手が再度私に伸びてきているのも、更に私たちに向かって進んでくる人にも気が付かなかった。
主人公の感情というか浮き沈みが激しいです(^o^;)
ポジティブだけどすぐ凹みます。