レオンハルトside 3
とりあえず夜会までのレオンハルトsideの話です。
なんなんだ、一体。
隣国に着てから二ヶ月が過ぎていた。
初めの二週間程は外交などで忙しく他のことを考える暇もなかったが、それを過ぎてからは時間にも余裕ができた。
良くも悪くもそれによってあいつ、アーネストのことを考える時間が出来た。
正直、外交などのストレスもあり、また覚えることも多かった為、アーネストのことは忘れていた。それがあるきっかけで、それ以降気がつけばアーネストのことを思い出すようになった。
それは手紙だ。
頻繁ではないがヴィルムやロイドなどと手紙のやりとりをしていた。もちろん遊びに来ているわけではない為、もっぱら内容は執務のことであることが多い。だがロイドに関してはその中に学園のことや友人などのことが書かれていた。
ヴィルムもそうだが気を許せる友人の一人であるロイドは息抜きになるようにと色々な話を手紙に書いてくる。ヴィルムとはまた違った方面で支えてくれている。
その中にアーネストのことが書かれていたのだ。
少し前は俺と同様に義妹であるアーネストに対し、嫌悪感を抱いていたはずだが知らない内に随分仲が良好になったらしい。アーネストが体のことだけではなく勉学なども真面目に取り組んでいることを教えてきたのもロイドだった。
手紙には最近ダンスやマナーを中心に頑張っていることが書かれていた。そしてそれは全て俺の為で、隣に立った時に俺が恥ずかしい思いをしないように、少しでも支えられるようにと頑張っているようだと書かれていた。
何か考えているようだとは思ったが、まさかそれが俺の為。それも今までのような押し付けがましいものではない。
一瞬、そのように思わせる為の作戦かとも考えたがロイドがそれに協力するとは思えない。
しかもアーネストはそれを俺に知らせるどころか隠そうとしているようなことも書かれていた。努力はするがそれを見せびらかすような真似はしない。ロイドも気が付くまでは、その姿を目にすることがほとんどなかったと言う。
ただひたすらに俺を思って・・・。
そう思った瞬間、何かが胸の中に芽生えたような気がした。いや正確には元々芽生えていたものを認識したというか、更に意識したといえばいいのか・・・。
ロイドからは定期的に手紙が送られてきた。
そうして俺はアーネストの努力を知ることになる。
そうか、ダンスに苦戦しているのか。
気づけば帰国の予定も一月を切っていた。
ヴィルムは相変わらず執務のことを手紙で報告してきていたし、ロイドも変わらず手紙を寄越していた。
俺は知らず知らずの内にロイドの手紙が待ち遠しくなっていた。
今日届いた手紙にも学園のこと、そしてアーネストのことが書かれていた。もうすぐ社交界シーズンが始まる。それに向けてダンスを特に頑張っていることが書かれている。
前回の時は体調を崩し結局一度も夜会などには参加していない。もちろんダンスも踊っていない。現在は体調は回復したようだが、せっかくつけた筋力や体力が衰えてしまったと嘆いているような様子とのこと。そしてもちろん俺のことも意識していると書かれている。
城で開かれる夜会となれば王太子である俺と婚約者のあいつは最初に踊ることになる。必然にその間周りの視線は俺たちに集まるから、無様なダンスは出来ない。
以前は憂鬱でしかなかった。あいつはダンスもまともに踊れず何度も俺の足を踏んだり、あいつが転倒しそうになるのをなんとか誤魔化したりして踊った。もちろん周りがそれに気がつかないわけはないが、そこは王太子と婚約者という立場があり、なんとか一曲躍り終わると拍手は起こるが、またかという嘲笑とも受け取れる視線が送られる。そんな中にありながら、あいつは馬鹿みたいに笑い次のダンスをねだるのだ。周りの視線とあいつのバカみたいな笑顔に冷静な態度を保つのをどれだけ努力していたことか。
だが今はあいつとダンスを踊ることを楽しみにしている俺がいる。ロイドの手紙からあいつがどれだけ努力しているかがわかる。ダンスの練習を始めた頃は足を痛め、夜痛みでなかなか寝付けず翌日は眠そうにしていたとか、ステップが思うように出来ずダンスの講師が帰った後、時間があれば繰り返しそのステップを練習していたとか・・・。今までのあいつであればすぐに投げ出していたであろうことも泣き言一つ言わず懸命に頑張っている様子が手紙には書かれていた。
前に会った時は体もだいぶ痩せていたが、あれ以上細くなっていないだろうな?
また無理をして今シーズンも体調を崩したら、頑張っているダンスが踊れないじゃないか。
俺の為に頑張っているらしいが、それで体を壊したら意味がない。ロイドから声を掛けさせて、休息もとらせた方がいいな。
ロイドへの手紙に俺が言っていたことは伝えず、休息もしっかりとるよう声を掛けるようにと書いた。
そこで俺はアーネストへ手紙の一つも送っていないことに今更ながらに気がついた。今までだったらあいつから用もないのに手紙が来て、何通かに一回その返事を書いていた。だから俺から手紙を送ったことはない。
あと一月しないで帰る。それに帰国後すぐに夜会が城で開かれるな。・・・エスコートもしなくてはな。
今までだったら嫌々書いていた手紙は、違った意味でなかなか進まなかった。
なんと書けばいいだろう。
とりあえず体調を大丈夫かと、俺は元気にやっていることを書けばいいか?
あとは、夜会のことか。・・・いや、普通にエスコートするから屋敷で待っていろと書けばいいだけのことだ。
・・・だが、何か気の利いたことの一つでも・・・いや、別にそんなこと書かなくても・・・だが随分離れていたし。
そもそもあいつはなんで手紙の一つも寄越さないんだ!普通婚約者がこんなに離れているのだから、手紙の一つでも送ってくればこちらも書きやすいというのに。
・・・わかっている。今のあいつだったらきっと俺が外交や留学に集中出来るようにと手紙を書かないようにしているんだろう。
手紙を書きたい思いを抑えて、ダンスを励んでいるあいつの姿が思い浮かぶ。
そういえば、この間町であいつに似合いそうなネックレスを見つけたな。あれを送ってやるか。
きっとあいつは泣きそうな顔で礼を伝えてくるに違いない。
俺の瞳と同じ色のサファイアのネックレスを付けたあいつを思い浮かべると、自然と笑みが浮かんだ。
そう思うと早く会いたいと思った。今までだったらありえない。
あぁ・・・そうか、俺はあいつに惹かれているのか。
ストンと胸の中に落ちる。その答えに少しの気恥ずかしさを感じるものの、開き直ってしまえばそうだったのかと納得できた。
早く会いたいな。
きっとあいつは更に外見も内面も美しくなっているだろう。そしてドレスを身に付け、俺が送るネックレスをつける。
それも全て俺の為。
口元がにやつくのを抑えられない。誰もいない自室だが、俺は口許を手で押さえる。
こんなに夜会が楽しみなのは初めてだ。
やることもそこまで残っていない。もう少し頑張れば、予定より早めに帰国することも出来るかもしれない。
そう考えていた俺は、予定より早いどころか予定日を過ぎ、あいつを迎えにもいけなくなるとは思ってもいなかった。
つまりは見た目がレオンハルトの好みだったということで、更には中身まで自分好みになっているということですね!
次はアーネスト視点に戻ります。