レオンハルト side2
レオンハルト視点です。
彼の心境の変化少しでも伝わればとおもいます。
あの見舞いの後、あいつとは会っていない。
別に会う用事もないのだから、これが普通だ。むしろ今までが会い過ぎていたんだ。
大体用事もないくせに執務室まで押しかけてきて、俺が書類を読んでいる横で俺の興味のないようなことをピーチクパーチクと煩くして・・・。
だがあいつは変わった。それは見た目だけじゃなく中身まで変わったようだ。
体調を崩したと聞いて渋々見舞いに行ってからまだ二回しか会っていないが、それでもあれが演技では無いことはわかる。伊達に城で狸な大人達相手にはしていない。だからこそ戸惑っている。
今までのあいつだったらあり得ない。まるで別人になったみたいだ。
どうしてあぁなったのか分からないが、俺としては執務に専念できてありがたい。・・・はずなんだが、何故かふとした瞬間にあいつの姿が脳裏に浮かんでしまう。
いや、落ち着け俺。あいつだぞ。この間まで自堕落的な体型とその見た目のままな中身だったあいつだぞ。
なんで会えなくて少し寂しいような気がしてるんだ。鬱陶しいとさえ思っていたはずなのに。
大体、あいつがあんなに綺麗になっているのがいけないんだ。痩せるだけであんなに変わるなんて・・・。
あいつ以上に綺麗な女や可愛い女に言い寄られたことだってあるのに何故かあいつの姿が頭から離れない。そのせいでせっかく静かなのに執務に集中できない。
女に惑わされるなんて俺らしくない。
「はぁ」
手にしていた書類を机の上に投げるように置く。
「どうしましたか?明日から行く隣国のことでも考えていたんですか?」
斜め前に置かれた机で作業していた宰相の息子で俺の補佐をしているヴィルムが怪訝そうな顔でこちらを見てくる。
黒髪に緑の目は少しきつめで冷たそうな雰囲気を出している。けれど、こいつが実は情に厚いことを昔から付き合いのある俺は知っている。
「いや、そうじゃない」
「なら、なんなんです?少し前から可笑しいですよ」
ヴィルムとも長い付き合いだ。俺が可笑しいことは分かっていたようだ。
だが俺自身なんと言って良いか分からない。まさかあいつのことを考えていたなんて言えないしな。
俺が言葉に出来ないでいると、ヴィルムは一息ついてから「そういえば」と話し出した。
「最近アーネスト嬢が来られませんね。まぁ、正直いて良かったことはないので助かっていますが」
「あ、あぁ。そうだな」
「大体、あなたがもっと分かりやすくはっきりとここには来るなと言えば、いくらあのアーネスト嬢でも来なかったんじゃないですか?婚約者だからと図々しく執務室に居座り、まだ黙っていれば良いものの煩く騒いで執務の邪魔をしてきて。・・・あぁ、体調が悪いんでしたか?それでは体調が戻れば、どうせまた来て執務に関係ないことを騒いで「あいつはそんなことはしない」・・・は?」
ヴィルムの言葉をつい遮ってしまった。当然ヴィルムは怪訝そうにこちらを見ている。
「何を言っているんですか?あなたが一番迷惑だと仰っていたじゃないですか」
「あ、いや、そうなんだが」
歯切れの悪い俺に更に怪訝そうな視線を向けてくる。
俺だって今のあいつに会ってなかったら同じ事を思っていただろう。だが俺は今のあいつを知ってしまった。
どういう心境の変化かは知らないが、体のことだけでなく勉学やマナーなど真面目に取り組んでいるらしい。本来であれば王太子の婚約者として学ばなくてはいけなかったことだから、当たり前といえば当たり前なんだがついこの間まではなんだかんだと理由をつけて避けていたというのに、本当にどうしたんだ?
さっぱり分からない。
何か企んでいるのかとも思ったが、会ったときは戸惑いこそ感じたが何か企んでいるような気配はなかった。
まぁ何かは考えてはいるようだったが、悪い感じはしなかった。むしろ頬を染め、こちらを気にしてチラチラと見上げてくる様子はなんとも言えず、思わず抱きし
「めようなんて思ってないぞ!」
「は?一体何なんですか?」
「あ、いや、何でもない!」
「はぁ、言いたくないなら無理に聞きませんが、明日から隣国へ行くのですから、しっかりしてくださいよ」
「あぁ、わかっている」
俺の突然の呟きにしては大きすぎる声に驚きながらも、明日からのことを釘を刺してくる。
全く優秀な補佐だ。
暫く離れればこの気持ちも落ち着き、何故このような状態になるのかも分かるかもしれないな。
その時の俺は安易にもそう考えていた。
それが隣国に行って一ヶ月経っても分かるどころか、早く会いたいとさえ思ってしまう自分に困惑は更に酷くなってしまうなんて思ってもいなかった。
レオンハルト視点が続きます。