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やっぱり、あなたしかいません。

昨日あげられなかった分、今日は二話。


「さぁアーネスト嬢、私と共に・・・」

「ここにいたのか、アーネスト」


アシュガード様の手が私の腕に触れたと同時に別の声がアシュガード様の後ろから聞こえる。私は俯いていた顔を勢いよく上げ、その人を見た。


「っレオンハルト様!」


若干涙声になってしまったのは許して欲しい。

アシュガード様も振り返ったが、手はそのまま私の腕を掴んでいる。レオンハルト様は私の顔を見た後、アシュガード様が掴んでいる腕を見て、眉をピクッと動かしたがすぐに笑みを浮かべてアシュガード様の顔に視線を向ける。


「お前は、ブルーノ伯爵家の次男だったか?」

「は、はい。ブルーノ伯爵家次男、アシュガードと申します」

「そうか。・・・それでいつまでそうしているんだ?」

「・・・は?」


レオンハルト様は笑みを浮かべたまま問いかけているが、その目は笑っていない。

アシュガード様は分からないといった様子だ。私の腕を掴んでいることを忘れているのか腕を掴んだまま離していない。

そんなアシュガード様にレオンハルト様は笑みをなくし、イライラとした様子でアシュガード様を睨みつける。


「だから、いつまで人の婚約者の腕を掴んでいるのかと聞いている」

「っ!も、申し訳ございません!」


バッと勢いよく掴んでいた手を離し、謝罪しながら私たちから離れていくアシュガード様を目で追いかける。するとその少し苛立ったような声が上から聞こえてくる。


「おい」

「は、はい」

「・・・」

「・・・」

「・・・」

「・・・」


私は慌ててレオンハルト様に向き直り返事をするが、レオンハルト様はぶすっとした様子で私を見るだけ。

先に沈黙に耐えきれなくなった私は思いきって声を掛けた。


「で、殿下。無事お戻りになり安心しました」

「・・・あぁ」

「・・・」

「・・・」


え、えぇー。それだけ?

どうしたらいいの?この状況。

隣国は楽しかったですか?って遊びに行ってたわけじゃないんだから、不謹慎かしら?

ドレス似合いますか・・・なんて聞けるはずもないし。・・・あ、そうだ。


「あ、あの殿下」

「なんだ」

「ネックレスありがとうございます。とても美しくて、本当に嬉しいです」

「そうか・・・・・似合っている」

「え・・・・・あ、ありがとうございます!!」


レオンハルト様の言葉が初め理解できなかったが、理解した瞬間泣きそうなほど嬉しくなって思わず声を大きくしてしまった。淑女としてまずかったかなと思ったが、レオンハルト様は少し驚いた表情はしていたもののフッと笑っていた。


あ、この顔好き。


ゲームで見たことのある、ヒロインに向けていた笑顔が目の前にある。私に、向けられている。

私が正面から見ることは叶わないと思っていた笑顔が、私に向けられている。

もう好きになってもらわなくてもいい。

この笑顔が見られるなら、少しでも隣にいても良いと思ってくれるなら、私はそれで。


それまでのマイナス思考はどこへやら、単純な私はレオンハルト様の笑顔を見ただけで気持ちがあっという間に浮上した。

人になんと言われようと努力することを止めなければ、きっと少しは関係も良くなっていくはず。今だって、前だったら絶対見せてくれない笑顔を見せてくれたし!



私が改めて決意していると、目の前のレオンハルト様は少し視線を泳がせ口を動かしていた。


「?いかがなさいましたか?」

「あーその、なんだ。・・・一曲踊らないか?」

「・・・・は、はい!踊ります!一曲でも何曲でも!!」


まさかのレオンハルト様からダンスの誘い!断るなんて選択肢にあるはずもなく首を勢いよく上下に何度も振りながら返事をする。するとふっと笑い声が聞こえる。


「そんなに一生懸命返事をしなくてもっ。まぁ、何曲もは無理だが踊れるだけ踊るか」

「はいっ・・・はい!」


レオンハルト様に促され会場の真ん中へ移動する。移動していく途中でレナイナたちにもすれ違い二人とも笑顔で見送ってくれた。お義兄様も見えたが私がレオンハルト様と一緒にいるのを確認すると、軽く手を上げ同じように見送ってくれた。

周りもレオンハルト様に気づいたようで、それまで踊っていた人々がサッと脇に避ける。音楽が一度鳴り止み、私たちが中央へ移動し落ち着いたところで改めて音楽が流れ始める。

会場中の視線が私とレオンハルト様に集まる。

練習したおかげでダンスもなんとか踊ることが出来ている。

一曲目が終わると拍手がわき起こる。そして二曲目の音楽が流れ始めれば、周りも踊り始める。


「アーネスト」

「はい、何でしょうか?殿下」

「その、さっきはレオンハルトと・・・」


そういえば、さっきは思わず名前で呼んでしまった。ここは先に謝罪しておいた方が良いだろう。


「先ほどは失礼致しました」

「いや。・・・以前は名前で呼んでいたんだ。これからも、その、名前で呼んでも良いぞ」

「・・・良いのですか?」

「良いと言っている」

「・・・ありがとうございます。・・・レオンハルト様」


どういう心境の変化なんだろう。ダイエットを始める前は名前を呼ぶ度に眉を寄せて不機嫌そうにしていたのに。

でも、名前で呼べるのは単純に嬉しいから良いかな。

ダンスも踊れて、笑顔も見れて名前呼びも許可を貰って、こんなに嬉しい日はもうないかもっていうくらい嬉しい。

この時間が永遠に続けばいいのにと願わずにはいられない。


けれど終わりは必ず来てしまうもので、ダンスが終わると夜会も終わるようでレオンハルト様がチラッと陛下の方を見てから私に視線を戻した。


「夜会も終わりのようだな」

「・・・はい」


名残惜しいけど仕方ない。それに実を言うとダンスを二曲続けて踊ったせいで足も限界にきている。


うー、まだまだ筋力と体力をつけないと。

そんなことを思っていれば、気づかない内にレオンハルト様が私の耳元に顔を近づけていた。


「少し話したい。庭園の東屋で少し待っていてくれ」

「え」

「帰りは城から馬車を出す」


レオンハルト様はそれだけ言うと私の返事を聞かずに陛下の元に行ってしまった。


・・・話ってなんだろう。待っていてくれってことはお父様たちにも伝えなくちゃ。

あれ?でも結婚前に二人っきりって良いのかしら?

でも城の中ならきっと護衛が近くにいるわよね。


そう納得して私はお父様たちのいるところに向かうことにした。


やっぱり彼でした。

彼の変化については、また後程・・・。

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