第6話 此処から始まる異世界生活。
早速だが…
「時間停止移動!」
「…ッ」
もしも格上だったら色々と困るからな。
初手から相手の行動を止めさせて貰うのは定石だろう。
……って何故か動いてる気がするんだが
「まぁいい」
美人を蹴るのは心が痛むが、能力値にモノを言わせてハイキックからの空中コンボ。
着地して…蹴る!
「…今ッ!」
「うおっと!?」
足を掴まれて投げられた。
「時に干渉できる…一体何者…」
一旦、歩行を解除して離脱。
「…なんで動けた」
「そちらこそ…何故」
流石にあれを防がれるとなると、銃を使うしかないな…
「…左は使わないでおくか」
両手で一丁を持って撃ってみることに。
「ってなんでだよ!?」
六発とも瞬きのうちに落とされていた。
「その程度でしたか。…次は此方から!」
「危ねえっ!」
寸前でガード。
その後の連撃もなんとかいなす。
「吹っ飛べ!」
脇腹を壁まで蹴り飛ばす。
「カハッ…」
「…ふぅ……」
一息入れてリフレッシュ。
集中すると頭が痛くなるからな。
「…絶対付与。」
この双剣は痛みを与えるがダメージはあまり与えない。
…Complete.
「これで心置きなく…コレが使える。」
既に相手は立ち上がっている。
ダメージはまだ浅いらしい。
「で?まだやるか?」
「…当たり前でしょう…!」
無拍子でくる突進。
「その手は食らうか!」
それを大きめに回避。
同時に数回切りつける。
「あがっ!?」
「っ…」
あれだけ避けたのに切り傷を一発食らったらしい…
「だがこれ程度で……って動けねえ!?」
身体が何かに拘束されているように動かない。
「引っかかった…」
二振りの刀を合わせて急に大道芸を始めた。
回す意味はあるのか?
……と思っていたら、いつのまにか傷が癒えている。
「おい嘘だろお前」
「残念でしたね」
「ちっ…」
ゆっくりと近づいてくる。
まだ警戒もされているらしい。
トマホークの方を解除し、
「絶対付与!」
この銃はわしが持たずとも自ずと迎撃する!
取り落としていた右が浮遊して自動迎撃を開始。
牽制してくれているおかげで少しだけ縛りが緩くなった。
今なら、いける気がする。
「………破ァ!」
何かが切れた音と共に自由が帰ってきた。
「さてさて……」
銃も解除して手に戻す。
回転銃とトマホークの変則二本持ち。
「次はどうする?」
忘れずにリロードはしておく。
「…刀身一体…!」
……双夢が白黒の螺旋状の魔力に包まれた。
多分コレ攻撃したら駄目なやつだな。
白と黒の二つに分かれた。
そして……力は爆発する。
「ぐっ…」
圧がヤベえ…
「あーア…結局オレモ闘うンダナ…」
「…文句言わない」
……………増えた?
「氷結閃!」
刀に氷!?
「…」
奥の黒い方は何もしてこない…?
って危ねえ。余所見してる場合じゃないか
「絶対付与ォ!」
刃に炎を。銃に光を!
「やバイ!」
原理は分からんが黒い方まで燃えている。
「ドールッ!今行く!」
双夢が余所見し緩めた間に右腕を撃ち抜く。
「あぐぁっ!?」
「流石にこれ以上するとお互い殺しかねん。それでもまだ続けたいか?」
折角の仲間候補なのに出会ってすぐに殺しあうとかどんな異世界だよ……こんな異世界か
「…私の…降参です。」
泣かれるとな…こっちも罪悪感が出るからやめてくれ…
「はい、そこまで。二人とも武器を下ろして。それ以上すると本当に取り返しがつかないから。それと腕を出して。治すから。」
「………はい」
黒い方は跡形もなく消えていた。何処へ行ったんだろうか。
「ちょっと痛いけど我慢してね。………『再生』」
穴がみるみる塞がっていく。
ビデオの巻き戻しみたいだな。
「あ…ありがとうございます…」
「みんなには秘密だよ。じゃ、あとは僕の部屋で話そうか。いろいろ手続きがあるらさ。」
連れられて例の部屋へ。
「…大丈夫か?その腕」
「癒してもらったので…大丈夫です」
まだ顔が青いが…本人がそう言うなら気にせずに置いておこう。
「条件はどうするんだい?」
「…給金は多くは望みませんが…修練のものは都合していただきたいです。」
「こっちとしてはきちんと家のことをしてくれるのであればなんでもいい。依頼だって開けてもらってもいいいいから。」
「…わかりました」
「うんうん。やっぱり君に双夢君を紹介してよかったよ。その内容で契約書を作ってくるね。」
机の方にある紙に魔力を纏った万年筆を使って何かを書いている。
「少し気が早いが、よろしくな。」
「…よろしくお願いします。」
ギルマスが速記で書き終えたものを持ってきた。
「よし、あとはこれに二人ともフルネームでサインしてくれ。」
……真名の方でもいいんだろうか。
「おや…?この名前は…君の名前はわかめじゃなかったのかい?」
「少し訳ありでな。そっちが真名だ。」
「ステータスにもわかめって書いてるんだけどねえ…確かに契約書の魔法も発動してるからいいんだけど。」
それなら良かった。
「これで君達は晴れて主従関係だね。早速屋敷へ行くかい?」
「鍵も貰ってるし大丈夫だ。自分で行ける。」
「……仕事を堂々とサボれると思ったんだけどね…地図は渡しておくよ。」
「礼は言うが、働け」
ギルドを後にし、二人と合流。
一瞬双夢の目がおかしくなっていたのは疲れだ。気のせいに違いない。
地図の通りに進み、目的地へ到着した。
貴族街に近い位置だ。
「ここかー」
「門がヤクザのソレだな」
「…なんで…和風屋敷…」
「ここが…」
四者四様の反応をした。
わしとしては何処となく落ち着く雰囲気でいいと思う。
……門だけはヤクザドラマに出てきそうだが。
庭園も広く、少し整備すれば修練場もできそうだ。
大きな桜の木もあるから花見もできる。
いい物件を買えた。
縁側も南向きだし、異世界だからこそ無駄に高いビルも無いから日もよく当たる。
賃貸じゃなく分譲にしておいてよかった。
「御主人様、私はひとまず台所の方に行ってきます。そのあとも家事動線の確認もしてきますね。」
「いってら」
スラリンを池近くに置いて縁側に腰掛ける。
拠点としてここを活用する為には…
ガレージ、工廠、鍛冶場、etc…
……おい 待て
「スペースが足りないじゃねえかぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「…うるさい」
「アッハイ」
縁側で寝ていたしゃけに怒られた。
「確かに。雰囲気はいいけど地上にスペースが無いよな。」
BOYもそう思うか。
「だから地下室を作ろうぜ」
「地下…室…だと…?」
さらに悪い笑みを浮かべてBOYは話を続ける。
「まだ俺のスキル的にキツイが、どうやら成長するらしい。いつかはSFアニメのような基地だって作れるはずだろ…?」
「………よし、それ採用」
地下なら防犯もしやすいしな。
地下への道を隠せばいいし。
「なら俺はあの古倉庫を改造してガレージにしてくる。基地は成長してからにしようぜ。今はその第一歩って事だ。それでいいよな?」
「…おう。頼んだ。」
スキルが成長する…ゲームみたいだな。
BOYを送り出して、こっちはこれからのことを考える。
この世界にやってきてから…どれぐらい経ったか覚えてねえ…
…ダンジョンの戦利品で、ここで一生を暮らせる金は手に入れた。
素晴らしい拠点も買えた。
従者も雇えた。…手はかかるが。
あとは何をすべきか…
「…今は思いつかないな。」
暫くこの街で暮らしてみよう。
この世界に馴染めば自然と思いつくハズだ。
「そうと決まれば早速…!」
メシを食べにいk…………
「…御主人様?何処へ行くんですか?」
背後から首締めの体制で拘束される。
「…………街の散歩。」
手汗…恨むぞ…!
「金貨を、持って?」
耳元で口を開かれた。
「…ッ」
手を突っ込んだポケットに入れていたのに…何故…ッ!?
「買い物なら私が行きますし……ね?」
目が金貨を渡せと物語っている…無駄遣いだけはさせないと叫んでいる…!
契約してから1日も経っていないのにこの遠慮の無さ…いいんだが……
「わしは知らん!そんなものは持ってねぇ!」
時を止めて駆ける…!
ここまで逃げれば問題ないだろう。
女一人で来るのは躊躇われる歓楽街の一角。
異世界だから少し期待していたが…やっぱりいい人はいないか。
酒は旨いが、一杯だけに留めておこう。
……地球じゃ飲めなかったからな
「じゃ、本来の街探索へ赴こうか」
マスターへ金を払い、絡まれないうちに別の区域へ。
次は商店街。
色々な商会や商店が建ち並ぶ、港区域に近い商業区域だ。
海から続く川沿いには倉庫が多い。
輸送費を抑えるための工夫だろうな。
食材から日用品まで。
流石に嗜好品はないから、売るならそこら辺だろう。
元の産業を潰してまで商売してもな…金なんて狩りで充分だ。
「さっき帰ってきた魚船からの直送便だよ!」
「そこのお兄さん、ディア産の高級茶葉は如何かな?」
「美味しい、おいしーい野菜はいらんかねー」
少し小さい筋に入ればB級グルメの店や武具店も見つかった。
ここら辺は歓楽街と違ってスラムが付け入る隙はないな。
さらに歩いていると、今度は住宅街が見えてきた。
流石にここまでくると人通りが少ない。
街の探索を切り上げて帰宅する。
流石にもう許してくれるだろ。
「御 主 人 様 ?」
…駄目だった。
「何故逃げたんですか?別に私は理由を聞いただけですよね?」
「あー…えっと……あのー…」
何を言っても墓穴を掘る気がする……双夢の後ろで煽ってる二人は後で覚えとけ。
「…理由によっては今日の晩ご飯は抜きです。」
「なん…だと…」
「金を勝手に使う御主人様が悪いんですよ。」
「ちく…しょう……」
…さっき買っておいてよかった…生命の水1.5L…これがあれば半日と少しは生きられる…
「わかめが倒れた」
「このひとでなし?」
「疑問形かよ……」
仲間の心配に心がこもってない…ひでえ…
双夢が台所の方は向かったのを確認して全快。
「…カーッ!…旨え…」
…仕方がないから寝るか…やる事もない…
布団を敷いて寝る。
「おやすみ………」
「……ハッ!」
…朝か。
変な夢を見たな…あの桜の木の下で…暇を持て余すのも癪だし…
「調べるか」
流石に朝食のおにぎりは用意してくれたので、海苔を巻いて食べる。
味噌汁が欲しい。
「わしは桜の木の下に行くが…どうする?」
「あの桜の木の下か?俺はまだ色々とやりたい事があるからいい」
製作系持ってるからな…わしも欲しい…
「寝る」
…おう
「結局一人で来る事になるのか…」
双夢は見るからに忙しそうだったので声をかけていない。
あの調子だと暫くは無理だな。
スラリンが池で遊んでいる様子も見える。
楽しくしているなら何より。
「夢だとここら辺に……あった」
邪魔な蓋を取り、▼状のボタンを見つけた。
「これを押して…」
すぐ横の壁が音もなく開いた。
中は小さいエレベーターのようで……
「…ってマジでエレベーターだなこれ」
キチンと開閉ボタンに1と-1のボタンが付いている。
…B1ではないのが謎ではあるが。
そんなことを考えていると-1階に到着した。
目の前にはテレビで見た道場のような空間が広がっている。
「こんな空間が…」
ふと前に視線を戻すと、奥に石碑があるのが見える。
調べても分からないし、鑑定の結果も『スキルステーション』という名前しか出ない。
名前からしてスキルに関するものだとは思うが、今は使えないのかもしれない。
ここだけ窪地になっていて、横の壁にはドアが一つずつあった。
折角だからわしは左のドアを選ぶ。
出た先は……
「…何処だここ!?」
SFな世界観の巨大な街の一角だった。
見渡しても人っ子一人いない。
建物もビルばかり。
面白みも最初の一つ目の目新しさしかなかった。
そう思っていたらついに人影が…
「危ねえっ!」
人だと思ったソレはロボット。
両手に銃口が見える。
いつのまにか、空にも大量のドローンが。
「…まだ駄目な奴だコレ」
間一髪でドアから帰る。
少し脇腹を抉られて貴重な服が破れた。
いつかぶっ壊す。
だが、今は治すことが先決。
無理をしないように、ゆっくりと屋敷へ戻った。