第3話 下り坂ありゃ上り坂もあるさ
「はてさて…どれだけぶちのめしたのか…」
地面に現れたクレーターの中で呟く。
魔力はともかく、体力も削られているから少し休憩だ。
ドロップ品はあれだけドラゴンを消しとばしたのに全て取得できていた。
幸運だな
大体は皮や肉で、所々に牙や鱗がある程度。
…普通は皮より鱗の方が多い気はするんだが。
「さて…それじゃ、あいつらを探すか。」
…あっやべ
「どうやって探そう…」
地表ごと吹き飛ばしたとはいえ…
「探しにくいよなー…」
どこから手をつけるべきか……
「そうだな……」
…ふと周りを見上げると.
「山、か…」
途轍もない程の岩の山脈。
ただ、一つだけ問題が。
「…なんかいる」
その頂点付近で、二つの大きな影が空を羽ばたいているのだ。
こちらにはまだ来ていないものの、一度登ればこちらを襲ってくるだろう。
いくらダンジョンとはいえ、あそこの山の高さは異常だ。
絶対に何かがあるに違いない。
「だが…大丈夫か…あれ…?」
ここからでも1mくらいに見えるから…実際はどれだけ大きいんだろうな?
「………さて、そろそろ全快したし…行くか」
自転車でもあれば楽なんだがな…
「ま、走るか」
今のわしなら前までの数倍で…いけるか?
全力で走ること数分。
麓まで到着した。
足場になりそうなものを探すが…
「…ない、か……」
少しデコボコしてるだけであり、足場と言えるような突起は見つからない。
少し上に行けば窪地はあるので、とりあえずそこまで行く。
「時間停止歩行。」
気持ちだけの足場で跳ねる。
所々に小さな鉱脈があるものの…正直今はいらないな。
よし、到着したな
「…解除」
……疲れた
「…次はどこで休憩すべきか…」
「……ついに登りきった…が……坂…か……」
数時間かけて、なんとか登頂には成功した。
しかし、その先にはまた荒れた坂道が。
「…もう…疲れたんだけども…」
疲れたわかめの身体と精神に無慈悲にも地形が襲う!
「…って危ねっ!?」
…二つの意味で。
現れたのは岩のように大きな牛。
大きいくせに高速で突進し、回避させる暇も与えてくれない。
今のわかめとは相性が最悪だ。
「…っ!マジで危ねぇ!」
魔力も回復しておらず、回避で精一杯。
このままだとジリ貧だ。
「どうすんだよこれ!」
クッソ速いくせに崖付近まで行くと急カーブして戻ってくる。
落とすのも……ん?落とす?
「…それしかねぇ!」
避けつつ端に移動していく。
「…ぁっ…!?」
しかし…現実は非情なり…石につまずいてしまう…
「ぃっ…ぐはっ…」
回避することも叶わず上空へと吹っ飛ばされる。
「…やべぇ…死ぬ……なんでだよ…早すぎるだろうが…ってかなんでこんなピンチに…!」
落下の軽減ができるようなもの……そうか!
「皮を…!」
攻撃魔法之心得のあるおかげで攻撃にしか使えないが…まぁ…なんとかなるか!
「絶対付与!この皮は…広げると落下スピードを軽減する!」
アナウンスなど聞いている暇はない。
とにかく適当な足場に…!
……今!
「この靴は空中を足場とする!」
着地……
「…ぐっ…!」
なんとか片手だけ届いた…しかし…
偶々脆い足場で…
「やばいやばいやばい!」
時間停止歩行を使ったが体力がもう持たない…ぶら下がるだけで精一杯だ…
「…絶対付与…!」
しかし発動もしない。
この山には適応されないらしい。
「っ…どうするべきか……」
下には小さな木が見える。
「…?なんだあの……ってさっきの皮!?」
皮がいい感じの場所で止まっている。
付与に範囲があるのかはわからないが、これは幸運だ。
残ったモノを振り絞って…
「ジャンプ!」
そして着地してからすぐにまた跳躍、
「………ったぁ!」
ギリギリ着地することができた。
…だが休んでる暇はまだなく、崩れないうちに奥へと移動する。
「……ふぅ…今日は…キャンプ…するか…」
食料なら肉焼けばいいか…魔物の肉が食えるのかは知らないが…まぁ、その時はその時だな…
「…なんで…こうなるかなぁ…」
翌日。結局窪みの奥で一夜を過ごした。
なんとなくピッケルで床を殴ってはみたがカケラ程しか削れなかった。壁なども同様だ。
「……あ」
…ここでわかめに、妙案浮かぶ。
「靴に付与してみるか」
それは…
「絶対付与、この靴はあらゆる地形を歩行できるようにする。」
…完了しました。
残り付与可能数は9つです。
「よし、行ってみるか」
試しにまだ安全な壁に足を……
「すげえ!重力に逆らってる!」
身体全体に負担がかかることはなく、いつも通りの感覚。
唯一違うのは視界ぐらいだ。
「…これなら…いけるな」
再び頂上へ。
「見たところ…牛は…」
寝ている。
寝ていると本当に岩にしか見えないな。
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アースブル
途轍もなく硬い皮を持つ牛。
肉も筋が多く美味しくはないが、幼体はまだ柔らかくて美味しい。
ただし、見た目によらずとても素早いため注意。
幼体でもそれはあまり変わらない。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「…幼体でも早いのか…」
気を取り直して…あれの攻略法は…
「…落とし穴か」
だがそんなものを掘るスペースは……
「…地面を槌で叩いて脈動させられるんだろうか」
やってみよう。
サクッと付与して…跳躍!
「脈動せし地の鼓動!」
見事に成功し立ち上がりかけていた足を崩して転倒させた。
「そのまま足をぶっ潰す!」
一旦解除して…
「燃え盛れよ我が衝撃!」
骨が折れた…気がする!
もう一回!
啼き声が煩いが無視だ!
昨日の借り…返してやるよ!
「Year!!!」
そのまま大岩が割れた。おそらく、絶命したのだろう。
「…はぁ…はぁ…」
地面に大の字で転がり笑う。
長年の仇をぶっ殺した時のように。
「……いやこの笑い方疲れるし またキャンプ作ろ」
丸太を割いて一式を。
「…また歩くだけで時間かかったなぁ…はぁ……やっぱりドラゴン旨い…でも塩…はぁ…あいつらは一体どこへ…」
星空は見えなかったが黒い空は見える。
満点の闇だ。
「…なんだか…不自然だ………」
…っ…眩しい…
「…朝か…山の上って本当に眩しいんだなー…」
…ってそんなことより、あいつらと合流する為には…
「……待つしかないか…」
水ならいくらでもあるが…野菜がないから…持って一週間だろう。
「それまでに来てくれるといいが…」
…はぁ…なんでこうなったのか…
「…じゃ、紙飛行機でも飛ばすかな……って紙ないから皮飛行機か」
文字を爪で書き、下へと飛ばす。
なんとか折れてよかった。
じゃ…また寝るか…それしかすることがな…眩しっ!
…さらに一日が過ぎた。
「…今日も来てないか……流石に来るとは思うんだけどなぁ…」
…頂上が雲の上という時点で普通であれば尻込みすると思うのだが、ツッコミを入れる人はここにはいない。
ついに夕方へ。
「…早くこい…暇だ…」
夕日を眺める。
雲が合わさって幻想的で…
「……れ……んだ…お…」
あれ?なんか聞こえて来た…?
「…ーい!…こ…るー!?」
…まさか…まさか…!
「やっと来たか!」
「……えは!」
BOYとしゃけか!
山の上まで……浮いてきたのか わしより酷い登頂方法だな
「とりあえずこっちだ!浮いてるなら来れるだろ!」
少しずつこちらにフワフワと浮いてきた。
上方向はともかく横方向はダメなんだろう。
「あー…やっと合流できた…」
いやー…長かった…
「……なんでわかめは普通に登ってきてんねん…」
…お前らに言われたくはない
「それより どうやってお前らは登ってきたんや」
「ん?…あー…それは…」
二人とも、探索中に爆炎が見えたからそちらの方に行ってみたらしい。
そして二人は合流し、わしを探すことに。
しかし一向に見つからなく、断念しようとした時に皮が落ちてきて……
「…あれが功を奏したか…」
「そうだな。普通、アレがないと登ろうとは思わないぞ」
「えぇ…」
目の前にあからさまにどでかい山があれば登るだろ…
「いや、その理屈はおかしい」
「…むぅ」
登らないかー…
「まぁいいじゃん!先に進も!」
「…あいよ」
「わかったわかった…」
その先も荒れた坂道が続く。
特に強い魔物も出ることはなく、快適とは言い難いものの楽な道ではあった。
数km進んだかもしれない地点。
そこには…
「デカイ…巣…」
例のクレーターほどもあろうかという巣。
ここでアイツが寝てるのかもしれない…
「ねぇ…帰ろ…?」
しゃけが心配そうにつぶやくが、
「こりゃ何かがいそうだな」
「…それには同意する」
「えっ待って」
ゲーム的に見て、こういう所には大体キーとなるものが…
「…って何か来たじゃん!逃げよ!」
「いいや…奴だ…ここのボスはなぁ!」
キリが悪いが、ここまで苦戦させてくれたんだ。
奴がボスでない訳がない。
「テメェら!戦闘準備だ!」
再装備して準備完了だ。
「あいよ」
剣を片手に持ち構えている。
「えっマジで戦うの待ってえっ」
いつのまにか手に持っている杖……あぁ、例のアレか。
待っている間に作ったんだな。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ザ・エレメンタルツ・スタッフ
ミスリルでできた杖にザ・エレメンタルツ・ストーンを嵌め込んだ杖。
構造上、少しだけ減衰が起こっているが、普通に使用する分には気にならないだろう。
特殊効果
魔力使用量の割合が大幅に減少する。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「GYAOOOOOOO!!」
「るっせぇ…!」
「っ…」
「みみがぁぁぁぁ…!!」
普通ただの咆哮でこうなるかよ…多分そんなスキルとかだろうな…あぁ…欲しい…
「…ってそんなことを言ってる場合じゃねぇ!とりあえず翼膜をブチ抜け!」
「えぇぇ??なにってぇぇ??」
……しゃけは鼓膜がイカれたか…仕方ない…
「つ ば さ を や れ !」
「…!分かった!」
さて…こっちは…
「BOY、少し時間稼ぎだ」
「……」
喋らないが意図は伝わりっているらしいから…問題はない。
「こっちだクソトカゲ!」
…トカゲじゃなくてカッコいい飛竜だけどなぁ!
「GYARUU……」
この煽り文句は良く効いたようだ。
空で一回転してから、わしが全力で走るよりも早く飛んでくる。
…だが、
「GYAO!?」
少しだけなら…
「ノーリスクで止められるから、な」
一瞬だけ時を止めて回避するだけではあるが、単純であるが故にただの力押しには有効。
渾身の一撃も避けてそのまま反撃できるのだから。
…さっきは目を少し斬りつけようとして無理だったけどな。閉じられてたら無理だ。
「どうしたどうした!この○○○がよぉ!」
「…なんかわかめの性格が荒くなってるし……ってか支援魔法で素早さあげてやってるんだから感謝しろよ…?」
避け続けて数分し…しゃけの魔法が完成した。
「いくよ!」
最後となるであろう邂逅時に頭を殴って少し怯ませ…解除。
「アイスニードルボール!」
動きが鈍くなったところに、全方位からの氷柱連射。
魔力を込めまくったらしく、さっきまで傷もつけられなかった翼膜がボロボロになっていた。
「よし…なんとかなったよ……はぁ……私は疲れたから…後は任せたよ…」
……座るなよ…巻き込まれても知らんぞ…
「…まぁ、いいか」
この槌は……叩いた生物より、永遠に静寂を奪う。
…成功しました。
「……さて…脳震盪、味わってみろよ」
できる限り跳躍し……
「さぁ死にやがれや竜野郎がよ!」
一気に落下する!
「……うわぁ…」
起き上がりかけていた竜の頭に見事に直撃。
こいつが死ぬまで全身にこの衝撃が響き渡るだろう。
「ここからは消化試合だし…休憩しといていいぞ」
「……そうさせてもらうわ」
ボスの竜はそんな状態で長く続くこともなく…
「GYUUU………」
「…堕ちたか」
最後に少し飛んだだけで墜落した。
「…あれ…やっつけた…?」
振動で目を覚ましたのか眠そうに………
「って寝てたのかよ!?」
……わしも気づかなかったわ…
「……そんなことよりドロップ品だよな………ん?…まさか…」
「どうしたBOY」
そんなに少ないのか?
「…いや、あの死体丸ごとだ」
………え?
「解体しろってことか…」
「でも俺はできないぞ?」
「それはわしにも出来ないからな」
しゃけに至っては言わずもがな、か。
「……ギルドに持っていくしか…ないよなぁ…」
「だな」
まだ見たことはないが…あるに決まってる。
異世界に来たらやっぱりギルドだろう。
「おーい みんなー 例の石碑あるよー」
しゃけがいつのまにか見つけて来てくれた。
探す手間が省けてありがたい。
少し歩いて巣の中心へ。
卵を頂戴しながらさらに奥へと入ると……
「これ」
わしよりも大きな石碑が鎮座している。
それに、淡いオーラを纏っているような気もする。
「それじゃ…いくよ?」
杖から魔力が石碑へと伝わる。
「っ…なんか要求量多い…」
と言いつつ、既に石碑の殆どがしゃけの魔力で満ちる。
もう少しなんだろう。
「これで…最後!」
完全に満ち…石碑が輝く!
「ってまた渦!?」
「これまた別れさせられたりしないよな!?」
「なんとなくわかってたけどやだぁぁぁ!」
……そんな効果も虚しく、黒渦はわかめ達を完全に飲みこんでしまった。