第9話 古代文明=超文明は何処も同じ
「招雷撃!」
50階のボスが双夢に押されている。
正直ここまであっけなかった。
冒険とはなんだったのか。
「…私の補助とか要らなくない?」
「……働かないとお前の飯だけ抜きだ」
わしは一応運転したし、BOYは扉を開けた。
スラリンは対象外だから必然的にしゃけだけ働いていない。
「待て!スラリンも…」
「ペットと同居人は扱いが違うに決まってるだろ」
「鬼!悪魔!人でなし!」
なんだそのわしがとんでもない悪人に聞こえる言い草は…
「その通りだろ」
「BOY、お前もか」
「御主人様!取り巻きが出たので処理を!」
「…!カミナリ!」
わしがするまでもなくしゃけが先に雷を落とした。
これで働いたことになったな…畜生。飯抜きにしてやりたかったのに…
「よーしこれでご飯抜きは避けられたー」
「はいはいおめでとさん」
ここのボスはリッチ的な何かだが、物理攻撃が効く。
というよりは霊体化で無効化される前にぶっ叩いている方が正しい。
双夢とドールの剣技が速すぎて対応できていないらしい。
『これで…最後!』
「HYAAAAAA!!??」
……目を離しているスキにボスが死んでいた。
ドロップもショボい。
鑑定でも用途不明の本とか値打ちが付く気がしない。
ひとまず地上へ戻り、白玉楼へと帰還。
「あぁ…疲れた…」
畳に寝転がるのは落ち着くな…
「運転お疲れさん」
「…おう…」
「御主人様〜♪早速ご飯作りますね〜♪」
「分かった…………って今晩の双夢のテンション無駄に高いな」
スキップで移動しながら魅せる調理をしている。
そんな事はしなくていいから美味しい飯を作ってくれ。
「オマエと出会っテカら双夢の機嫌ガイいんダヨナ…」
…気づけば近くにいたドールに、ふと浮かんだ素朴な疑問を問いかけてみることにした。
「…そういえば、ドールって結局なんなんだ?」
人形みたいな名前してるが。
「……」
あっ野郎都合悪いからって逃げたぞおい
「スラリンのこのひんやり感クセになる…」
「うちのスラリンに傷つけたらどうなるか分かってるだろうな?」
…別に抱きしめる分にはいいんだが。
「んー……」
幸せそうに縁側で寝転がっている。
「わかめ、これ聞いてないやつだ」
「だな…」
ちゃぶ台を出してしまった…丁度いい高さだ…
「って言いながらわかめも前のめりになって寝るな」
「ご飯ができましたよー。今日のメニューはカツ丼です。」
ちゃぶ台に伝わった振動で目が覚めた。
目の前には美味しそうなカツを卵で閉じ、旨味を凝縮させて白米の上に乗せたモノがある。
「勝負事の前日にはいつもコレを食べてたんです。それがBOYさんのおかげで簡単に作れるようになって…少しテンションが上がっちゃってたみたいです」
「そうか…」
飯で気分が上がるなら仕方ないな…
BOYから木のスプーンを受け取って、選ばれた緑茶をコップに注ぐ。
スラリンは余った食材で作ったモノを先に食べたらしい。
…じゃ、心置きなく…
『いただきます』
スプーンを入れるだけで溢れ出る肉汁。
絶妙な焼き加減の卵とうまく溶け合っていく。
遂に掬った一口を口に入れると、広がったのは…
「わかめ、下手な食リポうるさいから黙れ」
しゃけに凄まれる。
やめろそんな目で見るな
「…まさか口に出ててたか…?」
「出てたぞ」
「…うわぁ恥ずかしい」
よりによって作った奴の目の前で…
「…ふふっ…」
うわぁ…なんだあの笑みは…嬉しさと恥ずかしさと闇的オーラが混ざり合っている……って闇はドールのオーラだろうがやめろ
「…ま、旨いのは俺も思う」
BOYがそう言いながら刻み海苔を…
「ってその海苔寄越せぇ!」
「銀貨一枚」
手を出しながら指で催促する顔に無性に腹が立つ。
「………クソが」
「ま、機嫌がいいからお前らにもやるよ」
「無駄にストレスを溜めさせるな…」
…刻み海苔を振り掛けると、一つ一つの味が更に存在感を出し、更に旨くなった事を報告しておく。
時は過ぎ、約二ヶ月後。
途中に居た鉱石ゴーレムの乱獲で怒られたり、虫が大量発生しわかめが絶滅させようと躍起になってボコられたり、その他も色々とやらかしたが、一行は遂に百層目にある大扉に辿り着いた。
「NKT…」
「まだだろそれ」
気にするな
「ここのボス、全員が入らないと出現しないそうですよ」
「最後だから卑怯な事せずに正々堂々戦えって事か」
「…勝てればなんでもいい…」
しゃけ、それは禁句だ
「ぼすたおすー!」
「頑張れよー」
ボス部屋はこれまでと打って変わって、近未来的円柱状の部屋だった。
「…遺跡はどこに行った」
「さぁ…」
何がいつ出てきても対応できるように、全員を部屋の中心に集める。
「っとぉ!?」
「あぶっ!?」
「きゃっ!?」
「ちょっ!?」
「わっ!?」
ガコンという、ギミックが発動するような音と振動が…
『Scan…Scan…Scan…Scan…Scan…』
「えっ何何!?」
「スキャン…何を?」
『Complete.Your rank is……』
「あっ終わったな」
ランクって事は…強さなのか?
『EXTRA!』
「エクストラァ!?」
そこまで強くないだろ!?
そう叫ばうとすると同時に地は…沈む。
「全員車に乗れぇ!」
アンド…
「絶対付与!」
この車は衝撃で壊れる事は無い!
…完了。残り6枠です。
「危ねぇぇぇぇ!」
「セーフ…セーフ…」
既に地面は見えない。
よって…車体は今、フリーフォール状態。
「ぁぁぁぁぁぁ!」
「心頭滅却…」
…多分それは違うと思う
「したがみえるよー!」
「了解!シートベルトを締め、総員衝撃に備えよ!」
着弾……
「今ァ!」
音はしない。
だが砂埃が舞い、周りを覆い隠す。
一旦付与を解除して周りのクリアリングを…
…同時に走る乾いた空気な音と風切り音!
砂埃が晴れる。
目に映ったのは長方体型の結界に囲まれた車と、大きな業物を背負った影の人型。
あいつらが何かを言っているようだが全く聞こえない。
流石に密封性はないだろう…多分。
「…ボスはお前か?それにしてはけったいな歓迎じゃねぇか」
実質タイマン、ってとこか。
『……知らん。来なければ3秒後に斬る。』
チッ…
「…絶対付与」
この刃は聖なる力を宿す。
完了。残り9枠です。
『3秒経過だ。行くぞ』
「ああ来い…時間停止移動!」
どれだけお前が強かろうと…時間を止められるんだからぁっ!?
止めたにも関わらず敵の刃がわしの脇腹を切り裂いた。
…衝撃で停止が解除されてしまった。
『どうやら…お前のソレは俺にあまり効かないようだな。』
「っ…」
あまり使いたくないんだが…
「絶対付与…」
わしの身体は再生する…
完了。残り8枠です。
『…一回では殺れないか。』
「お生憎様…身体は丈夫なんでね…」
十分に傷は治った…
「ぶっ飛べ!」
地面を一蹴りして推進力を得て、突進を…
『殺…ッ!』
「ゴハァッ!?」
気づけば敵が背後に、此方が剣を弾かれて腹も切り裂かれていた。
再生でギリギリ持ちこたえているが、正直分が悪い。
「もう一丁…時間停止移動!」
少し再生を早めつつ突撃。
先程まで見えなかった剣筋が見える…
「ここォ!」
所謂パリィを決めて生まれた隙に無限加速連撃を叩き込む。
『…羅ァ!』
「おいおい嘘だろ!?」
少しずつ加速してるのについて来るのか!?
「なら…今働けや我が武装!」
殺意に使って残り枠は8つ…まだ余裕はある。
正々堂々もクソもないが、勝てば官軍。
『なっ…』
背後から撃ち尽くしてやるぜぇ!
『グハッ…』
「また隙を見せたなぁ!」
対応できなくなった影に加速する斬撃が殺到する…
「死に晒せぇぇぇ!!」
影の抵抗も虚しく、ただ武器を残して消えてゆく…
「ラストォ!」
…最期の断片を斬り終わったのを確認し、能力を解除する。
流石にあれだけ使い続ければ魔力がキツイ…
どうやら結界が解除されたらしく双夢が駆け寄ってきて、倒れかけだったわしを肩を貸して支えてくれた。
「…あぁ…双夢か…ありがとさん…」
「その怪我なんですから安静にしてください」
いや…そこまでじゃ…
「カハッ…」
「ってわかめが血吐いてる!?えっと…ヒール!」
「しゃけ…ありがと…さん…」
なんだったか…血が足りないって奴だったか…?
ともかく、身体の傷が治ったのはいい事だな…
『The dungeon clear!Congratulation!』
「クリア…それじゃ、ボス倒したのか」
「そうらしい…普通にキツかったぞ…タイマンって…正々堂々を捨てないと…勝てない相手だった…」
「そこまでか」
お前も体験すればわかる…相性で勝てたようなものだったしな…
「ぼくのではんはー?」
「…次、機会があったらな」
「そんなー!」
スラリンが悔しそうに跳ねる。
やっぱり癒されるな…
「…で、ここの報酬は何?」
「…確かに」
宝箱のようなものもなければ…あるのは刺さった剣…いや、刀だけ…
隈なく探すが、全く見つからない。
やっぱりその刀が…
「報酬は…俺らしい。」
「…っ!?」
聞き覚えのある声だ…まだ息の根を止めていなかったのか!?
「そう怯えるな。さっきの闘いはこのダンジョンのボスとしてだったが、今からはお前の守護霊となる…らしい。」
声のする方向にいたのは、さっきの影はなんだったのかというレベルの人…いや、少し透けている。
守護霊と言っていたから、とっくの昔に死んではいるんだろう。
180程の少し窶れたような、だがそれを踏まえても尚覇気を感じさせるダンディなおっさんがそこにはいた。
「………」
空いた口が塞がらない…お前、そんな見た目だったのか…
「要するに、お前らの旅について行くって事だ。」
「……まぁ、それならいいか。これから宜しく。」
強い奴が仲間になるなら歓迎モノだな。
「…それじゃ、俺の名前だけ適当につけてくれ。今の名前はもう使えないらしい」
「…そうか」
髪色は少し緑がかっているし…わしに関係する奴で……
「…よし、お前の名前は"こんぶ"だ」
「…はぁ……で、俺のステータスを見るか?」
ため息混じりに言われたが、一応見させてもらおうかボスさんや…
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名前 こんぶ
種族 亡霊
職業 わかめの守護霊
レベル 1
ステータス
攻撃力 6120
防御力 3876
素早さ 5049
魔力 3627
スタミナ 6069
器用さ 4998
オリジンスキル
不死者
死亡時、レベルを引き継ぎ新たな道をを歩む。
魂の繋がりは消えない。
抜刀之極地
一撃必殺の道を極めし証。
スキル
空歩 縮地 鍛冶 工芸 工作 裁縫 製図 鍛刀 調合 木工 料理 鑑定 師範[刀] 無限収納 魔力操作 精霊魔法
適正武器
刀[短刀][打刀][小太刀][太刀][大太刀]
ウェポンスキル
刀のみ 鼬
同じく 殿太刀
同じく 千ノ太刀
同じく 車輪
同じく 刺突
同じく 乱舞
同じく 反射
同じく 独楽
素手のみ 瞬打
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「…おぉ…」
レベルが低かったのにあんなに強かったのか…それに加え生産系のスキルも充実している…即戦力じゃないかこの守護霊
「改めて、これからどうぞ宜しくな、宿主さんよ。」
「…そうだな。こちらこそよろしく。」
車と刀を仕舞うと出現したポータルに入り、いざ帰還。
『………………………………』
「……あ」
わしらが出てきたのは、他の冒険者たちが使う右の柱ではなく、左の柱。
目に入る冒険者一般人問わず、全員に注目されている
回避する唯一の方法は…そう。
「………トンズラこくか」
そうと決まれば話は早い。
スラリンを抱え、顔を覚えられる前に駆け出す。
「集合場所は拠点だ!全員散れ!逃げろ!」
「了解」
BOYは町の上の屋根を横断する。
「分かった」
しゃけは双夢の補助を受けつつ正面突破。
あの調子ならいけるだろう。
「…聞いたよ。君、結局本当にコサカのダンジョンをクリアしちゃったんだね。出来れば素材と…情報も欲しいな。」
…もちろんあの後、物のついででギルドに寄ると、優しい目をしたギルマスに捕まってしまったとさ。
その甲斐もあって、収支は十分にお釣りがくるレベルだった。
……だがしかし、見合うか、と言われると微妙なラインではある。
早く、商売で手っ取り早く金を稼ぎたいな…




